米国両院協議会が税制改正の最終法案を公表-共和党の目標は今週中の成立

2017-12-18

米国時間2017年12月15日、共和党及び民主党の上下院の議員から構成される両院協議会は、上下院の税制改正法案を統一化した最終の税制改正法案「Tax Cuts and Jobs Act」(以下、最終法案)を公表しました。公表された法案は、下院において11月16日に可決された税制改正法案「Tax Cuts and Jobs Act of 2017(H.R.1)」(以下、下院法案)及び上院において12月2日未明に可決された税制改正法案「Tax Cuts and Jobs Act」(以下、上院法案)の内容について両院協議会において摺り合せ(Reconciliation)を行い、最終の法案として統一化されたものとなります。最終法案において、下院法案・上院法案からの修正内容のうち、日系企業関連に影響を及ぼす項目としては以下の点について留意を要するものと思われます。

ビジネス関連

1. 法人税率の引下げ

一律21%の法人税率が2018年1月1日以降に適用されます。下院法案及び上院法案の一律20%と比べて1%だけ税率が引き上げられており、適用開始時期については下院法案を踏襲する形で2018年1月1日以降から適用とされております。

2. 固定資産の即時償却

固定資産の即時償却に関しては最終法案では上院法案が踏襲され、5年間の即時償却及び2023年以降のPhase Out (80%~20%)が適用されます。ただし、即時償却の対象資産は2017年9月27日以降に取得かつ事業供用された資産となり、また中古資産も対象資産に含むこととされているため、一部下院法案が採用されています。また、公共ガス水道電気事業に使用される資産は引き続き即時償却の対象外となっています。

3. 繰越欠損金の使用制限

最終法案では、2018年1月1日以降開始年度より繰越欠損金の控除制限は課税所得の80%とされ、下院法案よりもさらに引き下げられており、上院法案に含まれていた2023年以降適用の80%制限規則が加速化されています。繰越期間については予定通り無期限とされ、繰戻還付についても廃止されます。なお、80%の制限は2018年1月1日以降開始年度に発生する繰越欠損金に適用されます。新規の繰越期間については2018年1月1日以降終了年度に発生する繰越欠損金に適用されます。

4. 代替ミニマム税(AMT)の廃止

代替ミニマム税(AMT)は2018年1月1日以降開始年度より廃止されます。下院法案においてはAMT廃止となる一方で、上院法案においてはAMT廃止が取り下げられておりましたので、最終的には下院法案が踏襲されたと言えます。

5. 支払利子の損金算入制限

支払利子の損金算入制限については、下院法案及び上院法案共に(1)新内国歳入法163条(j)(過大支払利子税制)、(2)内国歳入法163条(n)の新設(グローバルグループにおける支払利子の損金不算入制度の創設)が織り込まれていました。

(1)の新内国歳入法163条(j)については、最終法案において上院法案を踏襲する形で支払利子から受取事業利子及び一定の資産購入にかかる借入利子を控除した純支払利子のうち、課税所得に純支払利子や繰越欠損金を加算した調整課税所得の30%を超える部分については損金不算入とされました。調整後課税所得は、2018年1月1日以降で2021年12月31日までに開始する課税年度はEBITDA相当(下院法案)であり、それ以降の課税年度はEBIT相当(上院法案)となります。ただし、損金算入制限の適用除外基準に関しては下院法案が採用され、直近過去3年間の平均総収入額が25百万ドルの小規模事業者とされています。2018年1月1日以降開始年度より適用開始となります。

(2)の内国歳入法163条(n)の新設については、最終法案において当該制度が取り下げられております。

国際課税関連

1. 強制みなし配当課税

テリトリアル課税導入に伴う強制みなし配当課税については、上院法案を踏襲することとされております。海外留保所得に対する適用税率は、15.5%(現金)/8%(現金以外)とされており、下院法案(14%(現金)/7%(現金以外))又は上院法案(14.49%(現金)/7.49%(現金以外)と比べて若干税率が引き上げられています。強制みなし配当課税の対象となる保留所得の判定基準日は下院法案による2017年11月2日又は2017年12月31日時点の利益剰余金でいずれか高い金額となります。

2. CFCの定義改正によるCFC開示要件の拡大

最終法案では上院法案が踏襲され、CFC判定上の帰属ルールの改正は2017年12月31日以前に開始する直近年度より適用されます。なお、下院法案で織り込まれていたこの帰属ルール改正によってCFCとみなされた外国子会社に関する追加の情報開示は上院法案同様に最終法案では含まれておりません。

3. 税源侵食規定(BEAT)

新設の税源侵食規定については、下院法案(Excise Tax(物品税)/ECI課税)及び下院法案(BEAT課税)それぞれで独自の課税内容が織り込まれておりましたが、最終的には上院法案のBEAT課税が採用されました。よって、調整後課税の10%が通常の税額を超える場合にその超過額がBEAT課税額となります。ただし、初年度(2018年に開始する課税年度)は10%の代わりに5%を用いて計算が行われ、2016年1月1日以降開始課税年度は12.5%を用いて計算が行われます。

なお、最終法案においては、税源侵食割合(Base Erosion Percentage)が3%以上(銀行業の場合2%)となる法人(過去3年間の平均年間総収入が5億ドルを超える場合に限る)がBEAT課税の適用対象とされ、上院法案での4%に比べてBEAT課税の除外基準が縮小しておりますので留意を要します。

個人課税関連

1. 個人所得税率

個人所得税の税率は、10%、12%、22%、24%、32%、35%、37%の7区分の税率となります。上院法案を踏襲した形となっておりますが、最高税率は37%であり、下院法案の最高税率39.6%、上院法案の最高税率38.5%よりも引下げられた形となります。

2. パススルー所得に対する所得控除

パススルー所得に係る課税に関しては、上院法案が採用されていますが、所得控除率が上院法案の23%から最終法案では20%に引き下げられています。また、控除額のフェーズアウト開始の基準金額も$315,000(夫婦合算申告)とされており、上院法案の$500,000(夫婦合算申告)よりも引き下げられていますので留意が必要です。なお、この所得控除は2018年1月1日から2025年12月31日までの間に開始する事業年度で適用されます。

3. 代替ミニマム税(AMT)の存続

法人税と異なり、個人所得税では代替ミニマム税(AMT)の廃止は取り下げられましたが、AMT計算上の人的控除額を増額することでAMT適用による影響が緩和されています。

今後の動向

最終法案は来週12月18日の週の前半に再度、下院及び上院で審議及び決議が行われる予定です。両院の決議を通過した最終法案は大統領の署名により法制化されますが、議会休会前の今週末までに大統領の署名を目指すものと思われます。

参考情報

最終法案のテキスト、両院協議会による解説及びサマリーは以下リンクをご参照ください。

- Conference Committee report with statutory text

- Conference Committee explanation

- Conference Committee policy highlights