ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2026年10月)

欧州委員会による強制労働製品の域内流通禁止規則のガイドラインの公表

  • 2026-10-27

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明します。

今回は、EUにおける強制労働製品の域内流通禁止規則の適用に関するガイドラインについてご紹介します。

1. 欧州委員会によるガイドラインの公表・ポータルサイトの開設について

欧州委員会は、2026年6月30日、強制労働製品の域内流通禁止規則1(以下「本規則」といいます。)の適用に関するガイドライン2(以下「本ガイドライン」といいます。)を公表しました。なお、本規則は2027年12月14日から適用が開始されます。

本ガイドラインは、欧州委員会が同日開設した強制労働単一ポータル(Forced Labour Single Portal)3(以下「本ポータル」といいます。)に掲載されています。

本ポータルでは、本ガイドラインのほか、本規則への対応に資する下記のような情報・ツールが提供されており、今後も欧州委員会による情報の追加が予定されています。

  • サプライチェーンにおける強制労働リスクを特定するための参考となるデータベース(準備中)
  • サプライチェーンのトレーサビリティツール
  • 本規則に関するファクトシート
  • 本規則への対応準備のためのチェックリスト
  • EU加盟国の管轄当局一覧 等

また、本ポータルにおいて、本規則の適用開始日である2027年12月14日より、強制労働製品に関する情報提供のための窓口(Report Forced Labour)が利用可能となります4。

2. ガイドラインの概要

(1)本ガイドラインの意義

本規則は、企業に対してデュー・デリジェンスの実施義務や監査・報告義務を課すものではありません。もっとも、当局の調査対象とされた企業は、サプライチェーンにおける強制労働リスクに関する資料を当局に提出する必要があることから、本規則の適用開始までにデュー・デリジェンスの準備をする必要があります。

本ガイドラインは法的拘束力を有するものではありませんが、当局による調査・執行プロセスや、調査に際し当局に提供すべき資料の内容等、企業において準備すべきデュー・デリジェンスの内容を検討する際の参考となる重要な事項が記載されています。

以下では、企業におけるデュー・デリジェンスの準備に資すると考えられる本ガイドラインの重要点を説明します。

(2)本規則の適用対象について

本ガイドラインでは、本規則の適用対象となる「強制労働によって製造された製品」(本規則第2条(g))について、その意義や強制労働の種類、強制労働を特定するためのリスク指標が示されています5。

特に、本規則の適用開始日である2027年12月14日以降にEU市場に流通する製品であれば、当該製品又はその部品が同日より前にEU域内で製造または輸入されていた場合でも本規則の適用対象とされている点6については、デュー・デリジェンスの準備に際し留意する必要があると思われます。

(3)当局の調査プロセス

当局は、強制労働により製造された疑いのある製品について予備調査・正式調査を実施し、当該調査により本規則違反が認められた場合には、当該製品のEU市場からの排除を命令することができるとされています。

以下、各調査プロセス及び調査における当局からの情報提供要請に係る本ガイドラインの重要点を説明します。

ア 初期評価7

初期評価は、調査に先立ち、調査対象の選定と優先順位付けを行うために、当該製品が強制労働により生産された可能性をリスクベース・アプローチにより検討するものです。

本ガイドラインにおいては、初期評価に際し、上記情報提供窓口(Report Forced Labour)への通報により第三者から提出された情報、強制労働リスク・データベース上の情報、他の公的機関や市民団体及び被害を受けた個人から提供される情報、サプライチェーンのトレーサビリティツール等、様々な情報を考慮することが示されています。

初期評価により、当該製品が強制労働によって生産された可能性があると判断される場合、当局は予備調査を開始することができます。

イ 予備調査8

予備調査は、正式調査に先立ち、当該製品に係る「実質的な懸念(substantiated concern)」の有無を判断するものです。予備調査において、当局は、当該調査を妨げる事情(証拠隠滅のおそれ等)がない限り、後述エの情報提供要請を行ったうえで、事業者からの回答受領日より30営業日以内に、正式調査に進むか否かを決定する必要があります9。

本ガイドラインにおいては、事業者が予備調査段階で強制労働状況に対処するための適切な措置を講じていることを示した場合、当局が、プロセスの複雑さ、強制労働終了の実現可能性、関係する利害関係者の数、事業者の規模やリソース等を考慮し、当該措置の実施による強制労働状況終了のための合理的期間を付与することができるとされています10。

ウ 正式調査11

正式調査において、当局は、予備調査と同様に事業者・関係者への情報提供要請を実施するほか、例外的な状況においては現地調査を行うことにより12、当該製品が強制労働により生産されたか否かを調査します。当局は、原則として調査開始から9か月を超えない合理的な期間内に正式調査を終了する必要があり13、当該期間内に強制労働禁止の違反が立証された場合には、当該製品の流通禁止及びEU市場からの排除に係る決定を行います。

なお、米国のウイグル強制労働防止規則と異なり、強制労働禁止の違反に係る立証責任は当局側にあります。

エ 企業に対する情報提供要請14

当局は、予備調査・正式調査の各段階で事業者に情報提供を要請することができ、事業者には、要請された情報を正確かつ十分に、期限内に提供して調査に協力することが求められます。情報提出期限は、予備調査段階では30営業日以内、正式調査段階では30営業日以上60営業日以内に設定されます。

本ガイドラインにおいては、当局による情報提供要請に含まれ得る情報が具体化されており、下表のように広範な情報が挙げられています。

情報の区分

具体的内容

事業者が強制労働リスクを特定、予防、軽減、終結、是正するために実施した措置に関する情報の例15

  • 企業の行動規範・方針
  • 経営陣・従業員・サプライヤー向けの研修資料
  • 調達方針、サプライヤー向け行動規範、強制労働の禁止に関する契約条項、サプライヤーの登録・モニタリング
  • 業種別のリスク評価
  • 予防措置の確立を証明する文書
  • 苦情処理メカニズムの確立を証明する文書
  • マルチステークホルダーまたは業界の認証スキームへの参加を証明する文書
  • ステークホルダー・ライツホルダーの関与(エンゲージメント)、NGO、労働組合、地域社会との協議
  • 実施されたデュー・デリジェンスの取組に関する報告書(適用される国内法及びEU法に準拠した取組みを含む)
  • 是正措置に係る計画及び実績評価
  • 第三者による独立監査報告書

強制労働の疑いがある場所における労働条件に関する情報の例16

  • 労働者に対するインタビュー記録・書面による証言
  • 社会監査(労働・人権に関する監査)
  • 労働環境・居住場所の写真・動画
  • 会話のメモ、メッセージ、電子メールの写し
  • 労働者名簿、雇用契約書、給与台帳、財務記録
  • 実施された調査の結果(労働組合・労働者代表による労働条件に関する調査等)
  • 労働者の満足度、補償、是正措置、予防措置を裏付ける情報

調査対象製品に関する情報の例17

  • 製品の特定に関する情報(トレーサビリティツール等で収集された情報、原産地証明、EU域内における在庫、流通、保管場所に関する情報等)
  • サプライチェーンの構造及び関係者に関する情報(主要な生産段階に関する製造業者、生産者、及びサプライヤーのリスト、生産プロセスに関わる事業者による宣誓供述書等)
  • 施設及び所在地に関する情報(主要な生産場所の特定、入手可能な場合には衛星画像・GPS座標等の位置情報等)
  • 取引記録及び物流記録(発注書、請求書、支払記録、在庫記録、出荷・輸送書類、輸出入記録等)
  • 生産及び生産能力に係る資料(生産指示書、工場の生産能力報告書、製品投入量と生産量の一貫性を示す資料等)

(4)デュー・デリジェンスに関する事業者向けガイダンス18

本ガイドラインでは、本規則上義務付けられてはいないものの、デュー・デリジェンスが強制労働リスクを特定し対処するための効果的な方法であることを強調したうえで19、OECDデュー・デリジェンス・ガイダンスにおける6段階のフレームワークやILO関連資料等を参照し、強制労働に関するデュー・デリジェンスのプロセスを示しています20。

本規則の適用開始に備えてデュー・デリジェンスに係る体制を整備するにあたっては、当該ガイダンスが重要な指針になると考えられます。

The takeaway

本規則は2027年12月14日から適用が開始されますが、同日以降にEU市場に流通する製品であれば、当該製品又はその部品が同日より前にEU域内で製造または輸入されていた場合でも本規則の適用対象とされること、及び、当局の調査における情報提供要請に対する回答期間が30~60営業日という短期間で設定されることから、本規則の適用対象となる可能性のある企業においては、本規則の適用前から強制労働リスクに関するデュー・デリジェンスに係る体制整備を進めることが必要となります。

また、今後、本ポータルにおいては、強制労働リスクが確認されている製品や地域について情報を提供するデータベースの公開が予定されています。データベースにおいて強制労働リスクが高い製品・地域・業種等として記載されたものは、サプライチェーンの中でより慎重にデュー・デリジェンスを実施することが推奨されますので、注視が必要になると思われます。

1 本規則については、当法人の2024年7月ニュースレター「欧州:強制労働により生産された製品の流通と域外輸出を禁止する規則」をご参照ください。

2 https://webgate.ec.europa.eu/circabc-ewpp/d/d/workspace/SpacesStore/3b159733-6cdf-4f9e-8b30-80580c0679d8/download

3 https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/goods/forced-labour-regulation_en

4 https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/goods/forced-labour-regulation/report-forced-labour_en

5 本ガイドライン3

6 本ガイドライン3.1

7 本ガイドライン4.3及び4.4

8 本ガイドライン4.5

9 本ガイドライン4.5.1.1、4.5.1.2、4.5.2、4.5.3

10 本ガイドライン4.5.3.2

11 本ガイドライン4.6

12 本ガイドライン4.6.2、4.6.3

13 本ガイドライン4.6.5

14 本ガイドライン4.7

15 本ガイドライン4.7.1

16 本ガイドライン4.7.2

17 本ガイドライン4.7.3

18 本ガイドライン6

19 本ガイドライン6.3.1

20 本ガイドライン6.4

欧州委員会による強制労働製品の域内流通禁止規則のガイドラインの公表

( PDF 368.97KB )

執筆者

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

パートナー, PwC弁護士法人

小林 裕輔

パートナー, PwC弁護士法人

日比 慎

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