ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2026年8月)

不平等・社会関連財務情報開示タスクフォースによるフレームワーク(ベータ版0.1)の公表

  • 2026-08-27

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明します。

今回は、不平等・社会関連財務情報開示タスクフォースによるフレームワーク(ベータ版0.1)の公表について紹介します。なお、本ニュースレターは、2026年8月17日現在の情報に基づくものです。

1. TISFDの概要1

不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures)(以下「TISFD」といいます。)は、世界的に高まっている不平等・社会関連の財務的リスクに関する懸念に対処するための先駆的なイニシアチブであり、企業、金融機関、労働組合、市民社会団体、国際機関など様々な組織によって支援され、2024年9月23日に発足しました。

TISFDは、企業や金融機関が不平等・社会関連の情報を開示するためのグローバルなフレームワークの開発・提供を主要な目的としており、ESGの領域のうち、環境(E)の領域における情報開示のフレームワークを定める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)及び自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)といった既存のフレームワークを補完し、開示フレークワークを社会(S)の領域にも拡大しようとするものです。

2. TISFDによるフレークワーク(ベータ版0.1)の公表

2026年5月26日、TISFDは初めて、フレームワークの草案を公表しました2。このフレームワーク(ベータ版0.1)(以下「本フレームワーク」といいます。)は、企業や金融機関が、「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会をどのように理解し、開示すべきかを示すものです。

本フレームワークは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)及び欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)との整合性を考慮し、グローバルな開示基準の調和を促進するとともに、情報の断片化を減らすことで、「人」に関連する課題の開示の一貫性及び比較可能性を高めることを目指しています。また、TISFDは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)及び自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)と構造的に整合しており、人、気候及び自然を包括的に扱う開示アプローチを支援する設計になっています。

本フレームワークは、複数の地域における企業、金融機関、労働組合、市民社会及び技術専門家により協働して開発され、概念的基礎、一般的要件、開示推奨及び今後の開発領域を含みます。将来的には、指標や実施ガイダンスの推奨が追加される予定です。

現在、本フレームワークに対するパブリック・コンサルテーションが行われており、企業、金融機関、政策立案者、労働組合、市民社会及び技術専門家からのフィードバックを求めるとともに、TISFDのウェブサイトからアクセスできるインタラクティブなオンライン・プラットフォームにおける意見交換が推奨されています。このパブリック・コンサルテーションの期限は、2026年7月31日までとされており、その後、試験運用、技術的な協働、さらなる協議を経て、2027年にはフレームワークの最終版が公開される予定です。

予定時期

今後の予定

2026年 半ば

TISFDフレームワーク(ベータ版0.1)の公表

2026年 年末

TISFDフレームワーク(バージョン0.2)の公表

2027年 半ば

TISFDフレームワーク(バージョン0.3)の公表

2027年 年末

TISFDフレームワーク最終版の公表

将来

ガイダンスの公表

3. 本フレームワークの前提

(1)対象となるユーザー

本フレームワークは、企業及び金融機関による利用を想定して設計されています。また、規制当局、政策立案者、市民社会及び労働組合にとっては、組織が「人」に関連する課題及びその財務的影響をどのように管理しているかを理解するために有益なものであるとされています。

(2)概念的基礎

本フレームワークは、企業や金融機関が、人々とどのように交流するかを理解するための共通言語を提供しています。

人権

労働権とともに、尊厳ある生活を送る権利は、すべての人々が持つべき権利です。

企業や金融機関は、これらの権利を尊重する責任があり、その活動は人々の幸福(well-being)に影響を与える可能性があります。

幸福(well-being)

人々の健康、安全及び充実した生活を送る能力をいいます。

人的・社会的資本

人々の権利の実現と幸福の向上により生み出され、組織、経済及び社会における価値を創出します。

不平等

資源や機会、収入や富、健康その他人々の人権や幸福に関する側面へのアクセスが、様々なグループ間でどのように分配されているかを反映しており、企業や金融機関が「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を理解する上で、中心的な役割を果たします。

これらの問題は、独立して存在するものではありません。環境悪化と気候変動は不平等を悪化させ、人々の権利と幸福を損なう可能性があり、ひいてはグリーン移行に対する人々の支持を弱める可能性があります。人、自然、気候の相互関連性を包括的に理解することは、効果的なリスク管理と情報に基づいた意思決定のために不可欠であるとされています。

また、企業、金融機関、そして人々との関係は、企業や金融機関が人々に与える「影響」及び「依存関係」によって特徴づけられるものとされています。

影響

組織の活動、製品、サービス及びビジネス関係が人々に及ぼすプラス又はマイナスの影響、特に人権や人々の間の不平等への影響をいいます。

これらの影響は、組織自身の従業員、バリューチェーンに関わる労働者、地域社会、消費者、エンドユーザーなど、幅広いステークホルダーに及ぶ可能性があります。

依存関係

組織や社会が人的資源や社会的関係に依存していることをいいます。

これには、熟練した健康な労働者の確保や、事業運営に必要な社会的承認を与える地域社会へのアクセスだけでなく、効果的な制度と機能的な経済を支える公共サービスを備えた安定した社会への依存も含まれます。

これらの「影響」や「依存関係」は、企業や金融機関に財務的な(収益、コスト、資産価値及び資金調達等に関する)「リスク」及び「機会」をもたらす可能性があるとされています。例えば、劣悪な労働慣行は、業務リスクや離職コストを増加させる一方、従業員への福利厚生への投資は生産性やイノベーションを高める可能性があるとされています。

さらに、企業や金融機関の累積的な影響は、システムレベルのリスク及び機会を引き起こす可能性もあるとされています。広範な不平等と基本的ニーズが満たされない状況は、社会の結束を弱め、生産性を阻害し、需要を弱体化させ、ひいてはマクロ経済のパフォーマンスを抑制し、金融システムの脆弱性を高める可能性がある一方、幸福度、スキル、包摂性の向上は、持続可能な成長と長期的な価値創造を支えることができるとされています。

4. 本フレームワークに基づく開示に関する推奨事項

TISFDの開示に関する推奨事項は、主要な国際的なサステナビリティ及び財務報告基準を補完するように設計されています。これらは、確立された概念と構造に基づいており、整合性を確保しつつ、「人」に関連する事項への適用範囲を拡大することを目的としています。

情報開示に関する推奨は、報告主体間の一貫性、整合性、比較可能性を確保するための基本的な期待事項を定める、5つの一般的要件に基づいています。

1

重要性

組織は、「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会に関する重要な情報を開示する必要があります。

2

システム関連情報

作成者は、システムレベルのリスクに関連する人的要因の外部性について、投資家の情報ニーズを満たす開示情報を提供する必要があります。

3

ステークホルダー・エンゲージメント

組織は、デュー・ディリジェンスを含め、影響を受けるステークホルダーとどのように関わってきたかを説明し、それぞれの関わりの性質及び目的を反映させる必要があります。

4

範囲

作成者は、評価及び開示の範囲、範囲を決定するプロセス並びに今後の拡大計画について説明する必要があります。

5

時間軸

作成者は、短期、中期、長期の時間軸を考慮し、それらの定義を開示する必要があります。

さらに、本フレームワークは、TCFD及びTNFDのフレームワーク並びにISSBの基準において使用されている4つの柱に基づいています。

(1)

ガバナンス

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を監督し、管理するためのガバナンスのプロセス、管理及び手続

(2)

戦略

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会、並びにこれらと組織の戦略及びビジネスモデルとの相互関係、関連する財務的影響及び組織の適応能力

(3)

影響とリスク管理

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を組織が特定、評価し、優先順位を付け、監視するためのプロセス

(4)

指標及び目標

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会に関する組織のパフォーマンス

本フレームワークに基づく開示に関する推奨事項の概要は、以下のとおりです。これらの推奨事項は既存の枠組みとほぼ一致しており、グレーで網掛けされている部分は、既存の枠組みを限定的に適用することが提案されている分野を示しています。

(1)ガバナンス

組織が「人」に関連する事項をどのように管理しているかを理解することは、投資家及びその他のステークホルダーにとって不可欠です。本フレームワークにおける推奨事項は、ユーザーが「人」に関連するガバナンス、監督のクオリティ、リーダーシップの説明責任の強さ、ステークホルダー・エンゲージメントに関するアプローチを評価するために役立つよう設計されており、特に、影響を受けるステークホルダーの視点がどのように組織の意思決定を形成しているかという点に注目しています。

組織における「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会に関するガバナンスについて開示する

A

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会の監視について説明する

B

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を監視、管理、監督するために使用されるガバナンスのプロセス、統制、手続における経営陣の役割を説明する

C

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会に関するステークホルダー・エンゲージメント、並びに影響を受けるステークホルダーの視点がガバナンス及び経営上の意思決定にどのように組み込まれているかを説明する

具体的には、例えば、(A)従業員その他の労働者の代表・組織が考慮するジェンダーその他の多様性の側面の代表を含む機関又は機関構成、「人」に関する影響・依存関係・リスク・機会に対応するための戦略やその他の措置を監督するために適切なスキルや能力が備わっているか、(B)組織が人に関する影響・依存関係・リスク・機会に対する責任を特定の経営層の役職又は委員会に割り当てているか、当該役職等に対する監督がどのように行われているか、(C)関連するステークホルダー(従業員、バリューチェーンにおける労働者、消費者やエンドユーザー、コミュニティ等の影響を受けるステークホルダーを含む。)、エンゲージメントのアプローチ及び主要な結果等の開示が含まれます。

(2)戦略

組織における「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会、並びにそれらが戦略、ビジネスモデル及び関連する財務的影響とどのように相互作用するかは、投資家やその他のステークホルダーが、組織の財務的な見通し及びレジリエンスを評価するのに役立つとされています。

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会と、組織のビジネスモデル、戦略及び関連する財務的影響との相互関係を開示する

A

組織が特定した、「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会について説明する

B

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会と、組織のビジネスモデル、戦略及び関連する財務的影響との相互関係について説明する

C

組織の戦略及びビジネスモデルが、「人」に関連するリスクと機会に対して、どの程度のレジリエンスを有するか説明する

具体的には、例えば、(A)組織が特定した影響と関連するステークホルダー、影響が生じる経路及び要因、気候及び自然への影響との相互作用等、(B)組織のビジネスモデル、事業運営並びに上流及び下流のバリューチェーンに与える現在の及び予想される影響等、(C)組織の戦略及びビジネスモデルの回復力に関する評価及びその方法、時間軸等の開示が含まれます。

(3)影響とリスク管理

投資家やその他のステークホルダーは、組織がその事業及びバリューチェーン全体における「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を特定、評価し、優先順位を付け、監視する方法を理解する必要があります。本フレームワークにおける推奨事項は、組織が体系的なプロセスを導入しているか、新たな問題を早期に特定できるか、効果的に優先順位を付けているか、積極的に監視しているか、そしてそれらをリスク管理プロセスに十分に統合しているかをユーザーが評価するのに役立つように設計されています。

組織が「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を特定、評価し、優先順位を付け、監視するために使用するプロセスを開示する

A

組織自身の事業活動、上流及び下流のバリューチェーンにおける、「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を特定、評価し、優先順位を付けるための組織のプロセスについて説明する

B

組織が「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を監視するためのプロセスについて説明する

C

「人」に関連するリスク及び機会を特定、評価し、優先順位を付け、監視するプロセスが、組織全体のリスク管理プロセスにどのように統合され、情報提供されているかを説明する

具体的には、例えば、(A)組織の事業活動、上流及び下流のバリューチェーンの範囲及びその決定方法、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」・OECDの「多国籍企業行動指針」に準拠した人権デュー・ディリジェンスがプロセスにどう反映されているか、影響の深刻度及び発生可能性に基づいて優先順位をどのように決定しているか、(B)「人」に関連する影響に対応するために取られた措置の有効性をどのようにモニタリングしているか、影響を受けるステークホルダーが懸念を表明するための苦情処理メカニズムをどのように運用しているか等の開示が含まれます。

(4)指標及び目標

指標及び目標に関する推奨事項は、TISFDの今後の活動の一部となり、本フレームワークの次期改訂版に盛り込まれる予定とされています。以下の推奨事項は、例示のためのプレースホルダーとして含まれているものです。

「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を評価及び管理するために使用する指標及び目標を開示する

A

組織が「人」に関連する影響及び依存関係を評価、管理するために使用する指標を説明する

B

組織が「人」に関連するリスク及び機会を評価、管理するために使用する指標を説明する

C

組織が「人」に関連する影響、依存関係、リスク及び機会を管理するために使用する指標及び目的、並びにそれらに関する実績について説明する

5. さらなる発展が期待される分野

TISFDによるフレームワークの開発は、フィードバックを取り入れ、重要な要素を段階的に追加していく反復的なプロセスとなるよう設計されており、以下の分野については、本フレームワークの次期改訂版等において、さらに詳細に検討される予定とされています。

不平等

  • 企業や金融機関の活動が不平等にどのような影響を与えるかについて、証拠となる基盤を文書化し構築する取り組みを進める。

重要性

  • 様々な重要性アプローチに関連する情報が、どこでどのように重複する可能性があるかをさらに調査する。

システムレベルのリスク

  • システムレベルのリスクに関連する影響の主要な要因群を特定し、これらの要因と関連する影響がシステムレベルのリスク及び関連する指標にどのように結びつくか、経路を特定する。
  • 意思決定に役立つ情報開示を支援するための実践的なガイダンスを策定する。

人、自然、気候

  • 企業や金融機関が人、自然、気候といった分野における影響、依存関係、リスク及び機会の特定及び評価を効果的に統合できるよう支援する方法を盛り込む。

識別及び評価に
関するガイダンス

  • 企業や金融機関が、企業レベル、ポートフォリオレベル、システムレベルにおいて、社会情勢や不平等をリスクや機会と結びつけることができるよう、人権デュー・ディリジェンスに沿った運用ガイダンスの開発を検討する。

シナリオ分析に
関するガイダンス

  • 不平等や社会関連リスクの文脈におけるシナリオ分析の運用可能性に関する研究を実施する。

指標及び目標

  • 企業や金融機関が、「人」に関連する情報をどのように収集、集約、伝達しているかを把握する。
  • 現在及び将来の世代の視点から見て持続可能か否かを理解するため、社会領域における閾値の適用可能性に関する研究を行う。

本フレームワークは、TISFDが初めて開示に関するフレームワークを公表したという点で、重要な意味を持ちます。本フレームワークにより、企業は、「人」に関する影響、依存関係、リスク及び機会について、体系的に説明することが求められています。また、開示対象には、自社にとどまらず、バリューチェーンや影響を受けるステークホルダーが含まれており、これまでに示されてきた国際的な規範や基準と同様に、広範な検証と開示が求められることとなります。

日本企業にとっては、本フレームワークの最終版公表に向けた時間軸の中で、ガバナンス体制や「人」に関するリスク管理のためのプロセスを見直し、本フレームワークに基づく開示の前提となる実態を適切に備えていく必要があります。

今後は、自社及び自社グループにおける現状を見直し、必要に応じて専門家の助言を受けつつ、グローバルな要請に応えていくことが、経営課題としての重要性をさらに増していくものと考えます。

1 TISFDの概要については、当法人の2025年3月のニュースレター(不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の発足)をご参照ください。

2 https://www.tisfd.org/frameworks/tisfd-framework-beta-version-0-1

不平等・社会関連財務情報開示タスクフォースによるフレームワーク(ベータ版0.1)の公表

( PDF 403.56KB )

執筆者

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

パートナー, PwC弁護士法人

小林 裕輔

パートナー, PwC弁護士法人

日比 慎

パートナー, PwC弁護士法人

蓮輪 真紀子

PwC弁護士法人

久保田 有紀

PwC弁護士法人

湯澤 夏海

PwC弁護士法人

小善 有真

PwC弁護士法人

簑田 和佳奈

PwC弁護士法人

早川 響

PwC弁護士法人

本ページに関するお問い合わせ