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近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
2026年3月31日、中国の国務院が「国务院关于产业链供应链安全的规定(国務院における産業チェーン・サプライチェーン安全に関する規定)」(中華人民共和国国務院令第834号)(以下「本規定」といいます。)を公布し、同日付で施行されました1。本規定は、産業チェーン・サプライチェーンの安全・安定に関して多岐にわたる事項を定めていますが、以下の点は、CSDDDを含む各国法令等の下で、人権デュー・ディリジェンスに取り組む日本企業に影響を及ぼすと考えられますので、本稿では、以下の点を中心に本規定の概要を説明します。
中国には、産業チェーン・サプライチェーンの安全に関して特化して定めた法律は存在していませんでしたが、近年、中国当局は、産業チェーン・サプライチェーンに関して違法な情報収集活動が行われていたことなどを問題視してきました2 3。かかる状況の中、産業チェーン・サプライチェーンの安全リスクを防止し、レジリエンス及び安全水準を向上させ、経済社会の安定及び国家安全を維持することを目的として(本規定第1条)、本規定が制定されました。
本規定は産業チェーン・サプライチェーンに関する全18条の条文からなる規定であり、その主な内容は以下のとおりです。中国当局は本規定の策定方針の1つとして、産業チェーン・サプライチェーンの安全を損なう行為や措置に対して調査制度、反制裁措置、および域外適用を明確にすることを挙げており4、かかる策定方針を反映した規定(第13条乃至第16条)を定めています。
規定の要旨 |
本規定の対応条文 |
産業チェーン・サプライチェーンの安全に関する業務を担う体制
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第3条 |
重要分野リストの策定及び重要分野における産業チェーン・サプライチェーンの安全・安定を確保するための措置
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第7条~第12条 |
産業チェーン・サプライチェーンに対する調査への措置、差別的禁止・制限及び取引中断等に対する対抗措置及び制裁
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第13条~第16条 |
以下では、人権デュー・ディリジェンスを含むサプライチェーン関連調査の実務に影響を与え得る本規定第13条乃至第16条の概要を説明いたします。
本規定第13条は、組織又は個人が、中国の法律・行政法規・部門規則及び国家規定に違反して、中国国内で産業チェーン・サプライチェーン関連の調査その他情報収集活動を行った場合、関係部門が相応の措置を講じる旨を規定しています。
本稿執筆時点5では本規定に関する解釈を示したガイドラインが公表されていないため、詳細は明らかではありませんが、文言上は、対象となる組織又は個人に限定が付されていないため、日本企業を含む外国企業及びこれらの外国企業が支配する子会社も適用対象とされています。しかし、本条の文言は広範であり、具体的にいかなる中国の法令等に違反した場合に措置の対象になるのかという点が必ずしも明らかではありません。そのため、今後のガイドラインの公表や中国当局による執行状況等を注視する必要があります。
本規定第14条は、外国の国家・地域及び国際組織が、国際法及び国際関係基本原則に違反し、中国に対して産業チェーン・サプライチェーン分野における差別的禁止・制限その他類似措置を講じ、中国の産業チェーン・サプライチェーンの安全を損なう行為を実施し又は実施を支援した場合、国務院の関係部門によって、後記(b)に定める措置が執られる旨を定めています。
本条についても、文言が広範であるため、国際法及び国際関係基本原則の範囲に関する解釈、差別的禁止・制限その他類似措置の内容等について、今後の中国当局の動向を注視する必要があります。
本条は、前記(a)に定める行為に対して、国務院の関係部門が以下の措置を執ることができる旨を定めています。
本規定第15条は、外国の組織又は個人が、正常な市場取引原則に違反して、中国公民・組織との正常取引を中断し、差別的措置その他行為を実施し、中国の産業チェーン・サプライチェーン安全に実質的損害又はその脅威を与えた場合、国務院の関係部門によって、後記(b)に定める措置が執られる旨を定めています。
本条は、日本企業を含む外国企業の行為を対抗・制裁措置の対象とする旨を明示的に規定しており、日本企業が特に注意を要する規定であるといえます。しかし、本条についても、具体的にいかなる場合に正常な市場取引原則に違反したと評価されるのか、いかなる行為が差別的措置その他行為に該当するのか等が不明確であり、今後の中国当局の動向を注視し、本条に抵触すると判断される行為の具体例や傾向を分析することが重要であると考えられます。
本条は、前記(a)に定める行為に対して、国務院の関係部門が以下の措置を執ることができる旨を定めています。
本条には、外国の組織又は個人が実質支配又は設立・運営に関与する組織に対してもかかる措置を適用できる旨が明記されているため、外国企業が中国子会社・関連会社を有している場合において、当該外国企業が上記措置を受けるときは、その中国子会社・関連会社にも影響が及ぶ可能性がある点に留意が必要です。
本規定第16条は、中国領域内の組織又は個人が本規定第14条及び同第15条に基づきなされた措置を遵守する義務がある旨を定めており、これに違反した場合には、以下の措置が執られる旨を定めています。
人権デュー・ディリジェンスにおいては、サプライチェーン上の人権リスクを特定し、評価する必要があるところ、かかる人権リスクの特定・評価のため、国内外の取引先及びサプライヤーに対して質問票の配布、インタビュー、現地実査等が一般的な実務慣行として行われています。また、サプライチェーン上のリスクを特定・評価した結果、人権リスクが高く是正が困難である場合には、ラストリゾートとして取引先との関係を解消するという方針を採っている日本企業は少なくないと思われます。この点、本規定はこれらの実務慣行に影響を及ぼす可能性がある重要な法律といえますが、現状は、前記のとおり本規定の適用対象及び適用要件等に係る解釈・運用が必ずしも明確ではないため、日本企業に対する影響は未知数です。
そのため、グローバルなネットワークを有する専門家の援助を受けることによって、中国当局による本規定の運用状況等を継続的に注視して本規定の適用傾向を分析し、慎重を期しながら、人権デュー・ディリジェンスを含むサプライチェーン調査を実施していくことが重要であると考えられます。
1 本規定の法律原文のURLは以下の通りです。https://www.gov.cn/zhengce/content/202604/content_7064837.htm
2 司法部担当者の質疑応答(https://www.moj.gov.cn/pub/sfbgw/zcjd/202604/t20260407_533568.html)参照。
3 中国国営メディアである新華社通信の記事によれば、2023年に、広東州深圳でサプライチェーンのリスク評価を行うコンサルティング企業が海外NGOと協力して新疆地域の調査を実施したことを理由に広東省から処分を受けた事例があるようです(https://web.archive.org/web/20230428224420/http:/www.news.cn/legal/2023-04/14/c_1129522442.htm)。
4 前掲注2参照。
5 2026年6月。
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