ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2026年2月)

欧州議会によるオムニバス法案(CSRD及びCSDDD等の規制簡素化法案)の承認

  • 2026-02-25

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめさまざまなステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。

今回は「欧州議会によるオムニバス法案(CSRD及びCSDDD等の規制簡素化法案)の承認」についてご紹介します。

1. 概要

欧州委員会によって2025年2月26日に公表された、EUにおけるサステナビリティ関連規制(CSRD1及びCSDDD2等)の簡素化に関するオムニバス法案(オムニバス・パッケージ)(以下「原オムニバス法案」といいます。)3に関しては、その内容に係る合意形成に向けて、欧州委員会と、EUの共同立法機関である欧州議会及びEU理事会の間で三者協議(トリローグ)が重ねられてきました。2025年12月9日、欧州議会とEU理事会との間で暫定的な合意4(以下「改定オムニバス法案」といいます。)が成立し5、次いで、2025年12月16日、欧州議会は改定オムニバス法案を承認しました6。改定オムニバス法案は、今後、EU理事会による承認を経て成立し、EU官報への掲載から20日後に発効することが想定されています。本稿では、(現行のCSRD及びCSDDD)や原オムニバス法案との比較を通じて、改定オムニバス法案の概要について説明します。

2. 改定オムニバス法案におけるCSRD関連の変更点

改定オムニバス法案においては、CSRDに関する規制について、適用開始時期の延期や適用対象範囲の縮小など更なる緩和が図られています。主要な変更内容は以下のとおりです。

現行のCSRD

原オムニバス法案

改定オムニバス法案

(1)適用開始時期の延期:Wave3を適用対象から除外、Wave1について経過措置

Wave2:大会社及びlarge groupの親会社:2025年1月1日以後開始会計年度(2026年報告)

Wave3:上場中小企業等:2026年1月1日以後開始会計年度(2027年報告)

Wave2:大会社及びlarge groupの親会社:2027年1月1日以後開始会計年度(2028年報告)

Wave3:上場中小企業等:2028年1月1日以後開始会計年度(2029年報告)

適用対象のEU域外企業:2028年1月1日以後開始会計年度(2029年報告)

大会社及びlarge groupの親会社(下記(2)のとおり範囲変更):2027年1月1日以後開始会計年度(2028年報告)

適用対象のEU域外企業(下記(2)のとおり範囲変更):2028年1月1日以後開始会計年度(2029年報告)

Wave3(上場中小企業等)については、適用対象外とする

2024年1月1日以後開始会計年度より報告義務を負う会社(Wave1)のうち、改定された適用対象に該当しないものについては、加盟国は、2025年/2026年開始会計年度に関する報告義務を免除することができる

(2)適用対象範囲(スコープ)の縮小:閾値の引き上げによる縮小

EU域内企業:

大会社及びlarge groupの親会社((a)総資産残高2,500万ユーロ超、(b)純売上高5,000万ユーロ超、(c)従業員数250名超)のうち2つ以上の要件を充足する会社)


EU域外企業:

(a)EU域内純売上高が1億5,000万ユーロ超

(b)EU域内に以下の子会社又は支店を有する企業:(i)子会社:大企業又は上場企業(零細企業を除く)又は(ii)支店:純売上高が4,000万ユーロ超

EU域内企業:

大会社及びlarge groupの親会社(従業員数1,000名を超える会社で、(i)総資産残高2,500万ユーロ超、又は(ii)純売上高5,000万ユーロ超のいずれか要件を充足する会社)


EU域外企業:

(a)EU域内純売上高が4億5,000万ユーロ超

(b)EU域内に以下の子会社又は支店を有する企業:(i)子会社:大企業又は上場企業(零細企業を除く)又は(ii)支店:純売上高が5,000万ユーロ超

EU域内企業:

大会社及びlarge groupの親会社(従業員数1,000名を超える会社で、かつ純売上高4億5,000万ユーロ超の会社)


EU域外企業:

(a)EU域内純売上高が4億5,000万ユーロ超

(b)EU域内に以下の子会社又は支店を有する企業:純売上高が2億ユーロ超

(3)金融持株会社

独立したビジネスモデル・運営を有する子会社を有する金融持株会社については報告の省略を選択できる

(4)バリューチェーンにおける情報収集

従業員1000人以下のCSRD適用対象外の会社は、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)策定のVSME((任意の中小企業向けサステナビリティ報告基準)に基づき任意報告をすることができる。当該会社に対して、VSMEに基づく報告内容を超える情報を要求することは原則禁止

大枠についてオムニバス案より変更無し

(5)ESRS(European Sustainability Reporting Standards)の改定

1,000以上のデータポイント

ESRSを再検討しデータポイントを減少させる改定を実施

大枠について原オムニバス法案より変更無し

(6)セクター別基準

欧州委員会にセクター別基準を導入する権限を授与

負担増加回避のため、セクター別基準を導入しない

大枠について原オムニバス法案より変更無し。なお、欧州委員会は必要に応じてセクター別の運用を支援するガイダンスを提供し得る。

(7)合理的保証基準

欧州委員会に2028年10月1日までに合理的保証基準を採用する権限を授与

限定的保証から合理的保証基準への移行を行わない

大枠について原オムニバス法案より変更無し

(8)EUタクソノミー

CSRD適用対象となるすべての企業に義務付け

純売上高4億5,000万ユーロ以下は任意開示へ変更。

報告テンプレートを簡素化しデータポイントを減少。

大枠について原オムニバス法案より変更無し

3. 改定オムニバス法案におけるCSDDD関連の変更点

改定オムニバス法案においては、CSDDDに関する規制について、国内法移行期限・適用開始時期の延期や適用対象範囲の縮小など更なる緩和が図られています。主要な変更内容は以下のとおりです。

現行のCSDDD

原オムニバス法案

改定オムニバス法案

(1)国内法移行期限及び適用開始時期の延期:準備期間付与のため、更に1年間延期

国内法への移行期限:2026年7月26日

第一段階の適用開始時期:2027年7月26日

国内法への移行期限:2027年7月26日

第一段階の適用開始時期:2028年7月26日※適用開始時期を3段階から2段階に変更

国内法への移行期限:2028年7月26日

適用開始時期:2029年7月26日※適用開始時期を原則一本化

(2)デューディリジェンス・ガイドラインの発行期限の変更:国内法移行期限・適用開始時期と合わせて1年間延期

2027年1月26日までに策定・公表

2026年7月26日までに策定・公表

2027年7月26日までに策定・公表

(3)適用対象範囲(スコープ)7の縮小:従業員数・純売上高等の閾値を高めて適用対象範囲を縮小

EU域内企業:

  • 従業員数1000名を超え、かつ純売上高4億5,000万ユーロ超の会社(又は連結グループ単位で閾値を満たす場合の最終親会社)
  • EU域内のフランチャイズ又はライセンス契約を締結する会社又はグループの最終親会社で、EU域内のロイヤルティが年間2,250万ユーロ超かつ全世界の純売上高が8,000万ユーロ超の会社

EU域外企業:

  • EU域内純売上高4億5千万ユーロ超の会社(又は連結グループ単位で閾値を満たす場合の最終親会社)
  • EU域内のフランチャイズ又はライセンス契約を締結する会社又はグループの最終親会社で、EU域内のロイヤルティが年間2,250万ユーロ超かつEU域内の純売上高が8,000万ユーロ超の会社

EU域内企業:

  • 従業員数5,000名を超え、かつ純売上高15億ユーロ超の会社(又は連結グループ単位で閾値を満たす場合の最終親会社)
  • EU域内のフランチャイズ又はライセンス契約を締結する会社又はグループの最終親会社で、EU域内のロイヤルティが年間7,500万ユーロ超かつ全世界の純売上高が2億7,500万ユーロ超の会社

EU域外企業:

  • EU域内純売上高15億ユーロ超の会社(又は連結グループ単位で閾値を満たす場合の最終親会社)
  • EU域内のフランチャイズ又はライセンス契約を締結する会社又はグループの最終親会社で、EU域内のロイヤルティが年間7,500万ユーロ超かつEU域内の純売上高が2億7,500万ユーロ超の会社

(4)EUにおける規制の調和:上乗せ規制の更なる制限

EU加盟国でより統一的な規制内容とするため、負の影響の特定・評価、負の影響に対する防止・軽減・終了のための措置及び苦情処理メカニズムなどについては、上乗せ規制不可

原オムニバス法案における規定事項に加え、優先順位付け、モニタリング義務及び報告義務についても上乗せ規制不可である旨を規定

(5)バリューチェーンにおける情報収集:バリューチェーンキャップによる情報開示負担の更なる軽減

従業員500人未満の中小企業等に対して、VSME(任意の中小企業向けサステナビリティ報告基準)に基づく報告内容を超える情報を要求することを原則禁止

従業員5,000人未満の事業体に対しては、他の手段(自社保有情報や外部情報等)で合理的に入手できない場合に限り情報を要求することが許容される

(6)デューディリジェンスにおける詳細評価の対象範囲の見直し:リスクベースによる絞り込み

自社、子会社及び活動の連鎖における(直接・間接の)ビジネスパートナーを広く対象とする

詳細評価(in-depth assessment)については、自社、子会社のほか、原則として、活動の連鎖における「直接の」ビジネスパートナーを対象とする。間接のビジネスパートナーについては、当該パートナーの事業において人権・環境への負の影響が発生し、又は発生する可能性があることを示唆する信用性のある情報(plausible information)がある場合には対象とする。

合理的に入手可能な情報のみに基づく自社・子会社・ビジネスパートナーを横断したスコーピングの結果、負の影響の発生可能性が高く、かつ最も重大な領域に限定して詳細評価を実施する

(7)是正に関する最後の手段としての取引関係終了

負の影響を防止又は十分に軽減することができない場合の最終手段(last resort)として、各加盟国の法令の許容する範囲で取引関係を一時停止したり、重大な負の影響である場合には取引関係を終了(terminate)させることが求められる

取引関係を終了(terminate)させる義務は撤廃

※負の影響を防止又は十分に軽減することができない場合は、取引関係を一時停止し、それにより増大した影響力を行使して取引先と解決に向け協働を継続する

大枠として原オムニバス法案より変更無し

(8)ステークホルダー・エンゲージメントを要する場面

ステークホルダーの定義に、企業及び子会社並びにビジネスパートナーの製品・サービス・運営により「直接的に」影響を受ける者であることを追加し、その範囲を制限ステークホルダー・エンゲージメントを法令上要する場面を限定(取引関係の終了又は停止に関する決定、モニタリングのための量的・質的指標検討の場面を削除)

大枠として原オムニバス法案より変更無し

(9)モニタリング期間の見直し

デューディリジェンスの内容の適切性と有効性について、原則として、少なくとも12か月ごとにモニタリング

原則として、少なくとも5年ごとにモニタリング。但し、新たなリスクが生じた場合のみならず、既存の措置が適切又は効果的でない場合には実施しなければならない

大枠として原オムニバス法案より変更無し

(10)気候変動対策:気候変動緩和計画の撤廃

気候変動緩和のための移行計画策定・実施義務

気候変動緩和移行計画の実施義務を撤廃(但し、計画の中に実施するアクションを含める)

気候変動緩和移行計画の策定義務自体を撤廃

(11)制裁:加盟国の国内法における罰金の上限を設定

違反時の制裁として、全世界の年間純売上高の5%以上を上限とする罰金を定める

欧州委員会がEU加盟国と協力して、罰金のレベルに関するガイドラインを策定するが、具体的な罰則の内容は各加盟国に委ねる

原オムニバス法案の立場を維持しつつ、EU加盟国において設定できる罰金の最大上限を全世界の年間純売上高の3%とした

(12)民事責任

EU共通の民事責任追及の枠組みを構築
労働組合やNGOなどに代表訴訟提起を認める制度の整備

EU共通の民事責任追及の枠組みを構築する規定を削除する。民事責任に関しては、各加盟国の国内法に委ねる。労働組合やNGOなどによる代表訴訟提起に関する規定を削除

大枠として原オムニバス法案より変更無し

The takeaway

改定オムニバス法案においては、CSRD及びCSDDDの双方に関して、更なる適用対象範囲の縮小、企業の義務の軽減等が図られ、原オムニバス法案における規制の簡素化の傾向が一層推進されました。したがって、欧州で事業を展開する日本企業においては、グループ企業に係る適用対象の判定や、規制の遵守に向けた体制構築、制度設計、運用、ガバナンス整備等の取り組みの再設計が求められます。しかしながら、他方で、人権・環境等に関するデューディリジェンス及びこれらに関する開示を遂行する目的に沿って、ひいてはこのような取り組みが企業価値向上に繋がることを意識して、各企業のサステナビリティに関する方針に従い着実に取り組みを進めていくことの重要性が変わるものではありません。

CSRDについては、適用対象になるか否かに関わらず、企業の社会、環境、ガバナンスへの取り組みはステークホルダーの重大な関心事であり、サステナブルな経営の実現に不可欠であるため、実体面を整備しつつ、ステークホルダーに積極的に開示し、効果的なエンゲージメントを図っていくことはやはり必須と考えられます。また、CSDDDについても、リスクベースアプローチによりリスクの高い領域等からデューディリジェンスを遂行していくことには変更はなく、バリューチェーン全体のマッピング、リスク評価、リスクベースに基づくデューディリジェンスの計画的遂行などを実行していくことがやはり重要です。

日本企業としては、改定オムニバス法案の最終化や各EU加盟国における国内法化の動向を継続的に注視し、必要に応じて従前の方針を適宜アップデートしながら法令順守を確保していくとともに、デューディリジェンスやサステナビリティ開示など社会、環境、ガバナンスへの取り組み全般についての高度化を着実に図っていくことが重要と考えられます。

1 コーポレート・サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive)(CSRD)は、2014年に導入された非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive)を改正して、環境権、社会権、人権、ガバナンス要因などのサステナビリティ情報に関する定期的な報告を義務付ける指令であり、2023年1月5日に発効しています。CSRDの詳細は、当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2023年2月)(https://www.pwc.com/jp/ja/legal/news/assets/legal-20230224.pdf)を参照。

2 コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(CSDDD)は、一定の売上高等の要件を充足する対象企業(EU域外企業を含む。)に、自社及び子会社の事業並びに活動の連鎖(Chain of activities)におけるビジネスパートナーの事業に関する人権及び環境のデューディリジェンスの実施や開示等を義務付ける指令であり、2024年7月26日に発効しています。CSDDDの詳細は、当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2024年9月)(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/assets/pdf/legal-20240926-1.pdf)を参照。

3 原オムニバス法案はEUの競争力の促進を目的とするものであり、その詳細については、当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2025年5月)(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20250527-1.html)を参照。

4 https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-16702-2025-INIT/en/pdf

5 EU理事会HP
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/12/09/council-and-parliament-strike-a-deal-to-simplify-sustainability-reporting-and-due-diligence-requirements-and-boost-eu-competitiveness/

6 欧州議会HP
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20251211IPR32164/simplified-sustainability-reporting-and-due-diligence-rules-for-businesses

7 本欄においては、適用対象範囲のうち主要な基準を抜粋しています。

欧州議会によるオムニバス法案(CSRD及びCSDDD等の規制簡素化法案)の承認

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執筆者

北村 導人

北村 導人

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山田 裕貴

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