AI時代の社員教育(10)遅れを挽回し、一気に前へ

2020-06-04

人工知能(AI)時代に日本企業がより強くなり、日本の社会や人々がより幸せに暮らすために、人材への投資が重要であることをこの連載で述べてきた。これは人間であるからこその強みを生かし、AIと共存していくことを意味する。人間の強みを生かすために、AIやデジタルの機能的な知識は基礎的な素養として身に付けながら、人から人への経験の共有にも重点を置くなど、学び方も工夫していかなければならない。

日本の経済や社会で企業は圧倒的に大きな存在感を持つ。AI時代の人材への投資でも企業の果たす役割は大きく、経営者の強いリーダーシップが期待される。データサイエンティストの育成に向けた投資もその一つだ。AIやデータを企業が使うに際して、社会から信頼されるガバナンス(企業統治)の仕組み作りにおいてもまたしかりである。そして、この人材の育成とガバナンスの仕組み作りの根底にあるのが、AI時代にふさわしい組織文化への変革である。これらを着実に整えられれば、人材獲得が進み、AI時代の好循環に乗ることができる。

新型コロナウイルスの感染拡大で経済は大きな打撃を受け、社会の変化が一気に加速している。大手企業の手元には膨大なキャッシュが積み上げられているが、これが成長投資に使われるのはしばらく先になるだろう。

日本が平成の30年間で世界に後れを取った分野の一つがデジタルの活用であることは明白だが、中でも人材投資での後れは顕著である。PwCが2019年秋に行った「世界CEO意識調査」によると、成長戦略の実行に必要なスキルを明確に定義している企業の割合は中国の41%、米国の21%に対して日本は1%であった。また、デジタル時代に生き残る人材に求められる(1)スキル(2)心構え(3)関係性(4)行動――の全般にわたる人材投資が大いに進捗していると回答した最高経営責任者(CEO)の割合は、中国の35%、米国の8%に対して日本は2%であった。

世の中に大きな変化が起きている今、最も恐れるべきは、思考停止である。大きな変化の中で立ち止まれば、たちまち自らの存在意義を失う。日本にはこれまで育まれてきた厚い人材の層がある。AI時代に求められているのはこの人材への投資である。これを果敢に行うことで、日本は平成の遅れを取り戻し、一気に前に進むことができる。(この項おわり)

執筆者

木村 浩一郎

PwC Japanグループ代表

※本稿は、日経産業新聞2020年6月3日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日経産業新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。


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