AI時代の社員教育(7)データ専門家、役割再確認

2020-06-01

人工知能(AI)の活用に欠かせないのがデータサイエンティストの存在だ。

データサイエンティストには、「基本的な知識」「分析・デザイン力」「実行力」の3つのスキルが必要とされる。このような高度な複合スキルを必要とするデータサイエンティストは貴重な存在であるが、日本では情報技術者が十分にいない上に、AI開発の投資額も米国や中国に比べて少なく、理系出身の卒業生も多くないため、増えにくい状況にある。企業は好待遇で採用するか、独自で育成していくしかない。

しかし、日本企業では適切な役割を与えていないケースが見受けられる。本来、データサイエンティストはビジネス課題の特定と要件を整理し、解決のための分析アプローチを設計し、IT(情報技術)を使った実行・実装を支援する役割を担う。しかし、業務部門の要求に応じた単なる分析作業や、データ分析ツールを利用した単純な分析処理など、業務の一部・局所的な作業にとどまり、企業全体の課題に焦点が当てられていないことが多い。

企業は社内でデータサイエンティストが育つ適切な環境や役割が与えられているかを、ぜひ再検証してほしい。

また外部に向けたAIの商用化の段階では、データサイエンティストは3スキルに加えて、リスクへの理解を深める必要がある。

PwCではこのリスクを、性能安定性やブラックボックスに係る「性能リスク」、サイバー攻撃やプライバシー侵害に係る「安全性リスク」、制御不能への歯止めなどの「制御リスク」、AIの出す結論が道徳的価値を欠如する「倫理リスク」、権利独占などの「経済リスク」、恩恵を受けられる人と受けられない人の間で格差が生じる「社会的リスク」の6つの領域に分類し、定義している。

もちろんこれらのリスクへの対応にはそれぞれの領域の専門家の関与が必要になるが、データサイエンティストがリスクを理解して協力することで、企業はAI商品・サービスの商用化を深く検討することができる。

不確実性の高いビジネス環境下で今後AIの活用が促進されることが予想される。データサイエンティストの育成は企業においての重要な経営課題と認識し、優先度を上げて取り組むことが必要だ。

執筆者

桂 憲司

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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※本稿は、日経産業新聞2020年5月29日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日経産業新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。


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