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EUタクソノミーとサステナブルファイナンスの加速

2021-02-10

EUタクソノミー制定の背景

2019年12月、クリーンエネルギー、生物多様性、サーキュラーエコノミーなどへの投資を通じてEUの持続可能な発展を目指す「欧州グリーンディール」が発表されました(1)。この計画は、2050年までにネットゼロ・カーボンニュートラルを達成するという法的拘束力のあるコミットメントを一部含み、2030年までに少なくとも55%の排出削減を中間目標としています(2)。

EUは、欧州グリーンディールで述べられている他の環境目標を達成するとともに、必要とされる排出削減を軌道に乗せるために、今後10年間で少なくとも1兆ユーロのサステナブル投資を行うグリーンディール投資計画を開始しました(3)。しかし、この規模はパブリックセクターの能力を超えており、金融セクターの拠出を巻き込むことが鍵です。OECD(経済協力開発機構)は、2030年までにパリ協定の目標を達成するのに年間6.35兆ユーロ(およそ760兆円)が必要であると予測しています(1)。

そのために、EUタクソノミー分類法、サステナビリティ関連開示規制(SFDR)、低炭素ベンチマーク規制という重要な法規が、EUのサステナブルファイナンス・アクションプラン(2018年)に従って施行されました(4)。アクションプランの主要な目標は以下の3つです。

  1. サステナブル投資に向けた資本の方向転換
  2. リスク管理へのサステナビリティの主流化
  3. 長期的な投資・経済的アプローチの育成

本記事では、EUタクソノミーとそのサステナブルファイナンスへの影響について取り上げます。次の記事では、サステナビリティ関連開示規制(SFDR)について詳しく紹介します。

EUタクソノミーの概要

EUタクソノミーは、投資家、金融機関、企業に透明性を提供し、EU加盟国全体の基準を調和させ、環境的に持続可能な投資を促進するために、「グリーン」な経済活動と投資を分類する枠組みです。これまで投資商品や経済活動は、「グリーン」または「持続可能性」が何を表すかという明確な定義がないままに分類されてきました。EUタクソノミーの目標は、何が「グリーン」または「環境的に持続可能」と分類されるのか、明確な規則を提供することによって、EUの環境目標に貢献する経済活動への資金を集めることです。

2020年6月に公表されたEUタクソノミーは、経済活動が環境的に持続可能であるとみなされるための4つの主要な条件を規定しています。

環境的に持続可能な経済活動の分類基準

1.

下記の6つの環境目標の1つ以上に貢献する

  1. 気候変動の緩和
  2. 気候変動への適応
  3. 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
  4. サーキュラーエコノミーへの移行
  5. 環境汚染の防止と抑制
  6. 生物多様性と生態系の保全と回復
2.

上記の6つの環境目標のいずれにも「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm: DNSH)」(すなわち、環境に悪影響をもたらさない)

3.

国際連合のビジネスと人権に関する指導原則のような「最低限のセーフガード」を満たしている(すなわち、社会に悪影響をもたらさない)

4.

EUのサステナブルファイナンスに関するテクニカル・エキスパート・グループ(TEG)が開発した「技術的スクリーニング基準」を満たしている

さらに、EUタクソノミーで持続可能と分類される経済活動に重要な条件は、環境目標のどれか1つ以上に貢献するだけでなく、それ以外の目標に悪影響を与えないことです。例えば、気候変動の緩和には貢献するものの、生物多様性に悪影響を与えるような活動は対象にはなりません。

タクソノミー分類法に基づき、2020年にEUテクニカル・エキスパート・グループ(TEG)は、「気候変動の緩和」と「気候変動への適応」に実質的に貢献する経済活動の技術的スクリーニング基準をまとめた報告書のドラフトを公表しました。2021年には、さらに残りの4つの環境目標に直接関連するガイダンスが公表される予定です。

このEUタクソノミーは、今後新たに登場する低炭素のソリューションや技術が網羅されるよう、定期的に見直され、更新されます。さらに、将来的には、環境目標に大きく貢献する「グリーン」な活動だけでなく、環境目標に対してニュートラルな「ブラウン」や「レッド」な活動、ニュートラルな活動の基準が追加され、完全なタクソノミーとして影響を明確に示せるようになることが期待されています(1)。

開示要件と日本企業への影響

またタクソノミー分類法は、開示要件と、対象となる金融市場参加者・企業の分類についても記述しています(1)。

誰が

(対象企業)

何を

(開示要件)

どこで

(開示の方法)

いつ

(タイムライン)

EU域内で金融商品を提供する金融市場参加者

1)原投資の持続可能性を測定する際に、どのように、そしてどの範囲でタクソノミーが用いられたか

2)その投資が貢献する環境目標

3)タクソノミーに整合する原投資の割合(投資、ファンド、ポートフォリオのパーセンテージで表し、タクソノミーで定義されている実現活動(enabling activities)と移行活動(transition activities)のそれぞれの比率も含む)

金融セクターにおけるサステナビリティ関連情報開示規制に基づく、契約締結前交付書面および定期的な報告の要件の一部として

2021年末までに、気候変動の緩和・気候変動への適応に関連する最初の一連の開示を行う

非財務情報開示指令(NFRD)に従うことが義務付けられている大企業(従業員500人以上の上場企業を含む)

※一部の大企業は金融市場参加者の開示要件の対象にもなる。

1)タクソノミーに整合する売上高の割合

2)タクソノミーに整合する資本支出と事業運営費の割合

非財務諸表(アニュアルレポート、サステナビリティレポートなど)

2021年についての情報を2022年に開示する

これらの要件に基づき、EU域内で金融商品を提供している日本の金融市場参加者や、EU非財務情報開示指令(NFRD)の対象となっている従業員500人以上を有する日本の大企業は、EUタクソノミーに従う必要があります。

EUモデルがそのまま適用されるか、あるいは似たような枠組みが開発されるか、いずれかの方法によって、この画期的なグリーンファイナンスの枠組みは世界中のESG金融の基準や規制に影響を与えることが期待されています。そのため、どのカテゴリーにも該当しない日本企業でも、投資商品や経営の整合性を検証するなど、EUタクソノミーに注目することが引き続き求められます。

EUタクソノミーとの整合性の検証

責任投資原則(PRI)に署名した40以上の投資家が、選抜した複数の投資商品について、EUタクソノミーとの整合性を検証しました(5)。下図は、2つの異なる金融機関のファンドに対する検証例です。この結果が示すように、EUタクソノミーにより、異なる投資商品・ポートフォリオの環境目標への貢献度を特定し、比較することが可能です(6)(7)。

EU タクソノミー基準との整合性(検証事例)

大手金融機関によって実施された事前の整合性検証では、持続可能性に焦点を当てた投資商品でさえEUタクソノミーとの整合性が低いことが示されており、EUタクソノミーがサステナブル投資の環境的条件として高いハードルを設定していることが分かります。全ての投資商品をEUタクソノミーと完全に整合させることは困難ですが、「著しい害を及ぼさない(DNSH)」という基準と最低限のセーフガードを満たすという基準は特に重要であると言えるでしょう。

ポートフォリオの初期検証を実施した金融機関は、この作業が困難だった理由として、分析に多大な労力と時間を要することに加え、データ面での課題を指摘しました。実際、EUのタクソノミー基準は非常に詳細である一方、入手可能なデータは分析(特にDNSH基準の分析)に十分な粒度があるとは限りません。2021年の強制開示に向けて、必要なデータの作成・提供ができるよう、投資先企業のみならず、データプロバイダーの早期関与が強く求められています(8)。

EUタクソノミーの影響とサステナブルファイナンスの加速

2020年は、サステナブルファイナンスの主流化に向けた動きが加速した年でした。EUタクソノミーは、数あるサステナブルファイナンス規制と開示基準の1つにすぎません。例えば、国際財務報告基準(IFRS)財団は2020年9月、資本市場によるサステナビリティ報告の標準化の要請が高まっていることを受け、サステナビリティ報告に関するコンサルテーションペーパーを発行しました(9)。これは、投資意思決定において非財務情報がますます重要となっていることを示しています。また、日本では、2020年にスチュワードシップ・コードが改正され、機関投資家が持続可能性について建設的な話し合いを行うことが義務付けられました(10)。EU域内でも世界的にも、ESGはもはや代替的な投資形態とは見なされなくなっており、従来の金融と投資への統合が進んでいると言えます。

EUタクソノミー法の遵守は、当初は難しい課題になりますが、グリーン商品を提供する金融機関にとってはビジネスチャンスになり、グリーンビジネスを開発する企業への投資を呼び込んで、サステナブル投資を確実に加速させるでしょう。EUタクソノミーは、特定のカテゴリーに該当しない限り、全ての日本企業に適用されるわけではありませんが、EUを超えて影響を与える可能性があります。第一に、EUタクソノミーは、類似したモデルの国内市場向け基準や国際基準の開発を促進するかもしれません。実際、日本のトランジションファイナンス環境整備検討会では、移行活動や「ブラウン」な活動に焦点を当てたタクソノミーを提案しています。また、EUの規制の影響を受けて、カナダ、コロンビア、中国、マレーシアなどの国々も独自のタクソノミーを開発しています。第二に、EUタクソノミーは、グリーン投資商品を提供している金融企業にとって、「グリーンウォッシュ」のリスク回避や、同業他社との比較のための参考にもなり得ます。最後に、EUタクソノミーに整合した商品を提供し、任意開示を行う日本企業は、EUからの投資を引きつけやすくなるでしょう(11)。

サービス内容

  • タクソノミー法整合分析
  • タクソノミー関連のガイダンスとワークショップ
  • 必要なデータの識別
  • ESGデータプロバイダー選択ガイダンス

参考資料:

  1.  EU Technical Expert Group on Sustainable Finance, ‘Taxonomy: Final report of the Technical Expert Group on Sustainable Finance’, 2020,
    https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/business_economy_euro/banking_and_finance/documents/200309-sustainable-finance-teg-final-report-taxonomy_en.pdf (2021/2/5)
  2. European Commission, ‘2030 Climate & Energy Framework’,
    https://ec.europa.eu/clima/policies/strategies/2030_en (2021/2/5)
  3. European Commission, ‘The European Green Deal Investment Plan and Just Transition Mechanism Explained’, https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/qanda_20_24
  4. European Commission, ‘Renewed sustainable finance strategy and implementation of the action plan on financing sustainable growth’, https://ec.europa.eu/info/publications/sustainable-finance-renewed-strategy_en (2021/2/5)
  5. UN-PRI, ‘EU Taxonomy Alignment Case Studies’, 
    https://www.unpri.org/policy/eu-sustainable-finance-taxonomy/eu-taxonomy-alignment-case-studies (2021/2/5)
  6. UN-PRI, ‘Aberdeen Standard Investments Case Study’, https://www.unpri.org/eu-taxonomy-alignment-case-studies/eu-taxonomy-alignment-case-study-2-aberdeen-standard-investments/6322.article (2021/2/5)
  7. UN-PRI, ‘Morgan Stanley IM Case Study’, https://www.unpri.org/eu-taxonomy-alignment-case-studies/eu-taxonomy-alignment-case-study-morgan-stanley-investment-management/6326.article (2021/2/5)
  8. Environmental Finance, ‘Taxonomy Alignment: ‘no one is going to look good’, 2020, https://www.environmental-finance.com/content/news/taxonomy-alignment-no-one-is-going-to-look-good.html (2021/2/5)
  9. IFRS, ‘IFRS Foundation Trustees consult on global approach to sustainability reporting and on possible Foundation role’, 2020, https://www.ifrs.org/news-and-events/2020/09/ifrs-foundation-trustees-consult-on-global-approach-to-sustainability-reporting/ (2021/2/5)
  10. Financial Service Agency Japan, ‘「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ ~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~’ (P.2, 2020)
    https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20200324/01.pdf (2021/2/5)
  11. Harvard Law School, ‘The Ripple Effect of EU Taxonomy for Sustainable Investments in U.S. Financial Sector’, 2020,
    https://corpgov.law.harvard.edu/2020/06/10/the-ripple-effect-of-eu-taxonomy-for-sustainable-investments-in-u-s-financial-sector (2021/2/5)

執筆者

坂野 俊哉

シニア・エグゼクティブ・アドバイザー, PwC Japan合同会社

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磯貝 友紀

パートナー, PwCあらた有限責任監査法人

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アナスタシア ミロビドワ

マネージャー, PwCあらた有限責任監査法人

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モンジョ ステファニア

アソシエイト, PwCあらた有限責任監査法人

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