Speculative Design(スペキュラティブ・デザイン)とは

2023-04-28

スペキュラティブデザインとは、クリティカルデザインとサイエンスフィクションの両方の要素を取り入れた、これからの未来社会がどう在るべきかを深く洞察し、あり得るかもしれない世界の在り方を予測するデザイン手法です。英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートで発祥したこの概念は、「未来はこうなると予測される」または「未来はこうあるべきだ」という問題解決型の将来像を提示するのではなく、「未来はこうもありえるのではないか」という臆測を提示し、問いを創造するデザインの方法論です。このデザインの特徴は、未来を予測することを目的とするのではなく、「私たちに未来について考えさせる(speculate)ことでより良い世界にする」ことにあります。

この考え方は「遠い未来」のビジョンとデザイン表現を視覚的、言語的、経験的に明確にして、長期的な変化を洞察し、将来のライフスタイルの変化を予測することで、アイデアを提供します。

未来を捉える視点 の図

スペキュラティブ・デザインとアート思考

私は英国の大学院で文化人類学や哲学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで情報体験デザインを学び、現代アーティストとしても活動しています。社会文化的研究とテクノロジーに基づく未来のシナリオを考えて、空間全体のインスタレーション設計、パフォーマンス、プロダクトなどを、さまざまなメディアで表現しています。

一例として、時間の概念を再考する「タイムマシーンプロジェクト」がありました。科学者ではない私たちが「タイムマシーンを作るにはどうすれば良いのか」という問いに向き合い、歴史学・哲学・人文学に基づくアプローチで検討しました。歴史を遡ると、日本では1,000年以上も和暦が使われており、明治初期まで一日を昼と夜に分けそれぞれを六等分する「不定時法」である日本独特の和時計が使われていました。私は時間の起源を遡るなかで、その概念が人々の生活習慣・冠婚葬祭・政治・儀式でどのように使われていたのか。時間の概念の変化は生活文化にどのような影響を与えるか。私たちが知っている形態と行動様式を根本的に変化させているような兆しはあるのか。そして「未来の時間概念」はどのように変化するのか――。このように自らに問いを投げ掛けました。

例えばタイムマシーンを「時空を超えたコミュニケーション」と定義すると、絶滅した動植物を復元することで500年前の食体験を提供するフードビジネスにつながるかもしれませんし、DNAを解析することで自分の祖先に関連する地域をめぐるツーリズムにつながるかもしれません。その他にも、気候変動と農薬の使用によりミツバチが絶滅した世界でオルタナティブな手法により作物に受粉させるアイデアを探ったり、AIが遠隔で人間の身体活動を操作する世界をパフォーマティブに発表したり、火星に移住した世界で必要となる食体験をNASAと共同して研究したりするプロジェクトがあります

このようにスペキュラティブデザインとアート思考を融合させることは、世の中の価値や信念、態度にいて疑問を投げかけ、さまざまな可能性を提示する役割を担っています。未来をみつめる新しい視点を提供する手法として、ビジネスの分野からも注目されています。

London,Victoria and Albert museum ,Haptics suit

London,Victoria and Albert museum ,Haptics suit

現在のユーザーおよび顧客を中心とする設計手法は、非常に狭いグループを対象としています。物を購入する可能性がやや高い、または物を購入する可能性が非常に高い人々を表す「ペルソナ」「セグメンテーション」「アーキタイプ」という考え方は理にかなっています。しかしその一方でスペキュラティブデザインは、全ての人、あるいは特定の人を対象としているわけでなく、将来的に環境や社会に与える影響について、徹底的に考えることを提唱しています。

Future Desaign Labのデザイン手法

未来を描く思索的デザインは未来を形作る可能性を秘めています。PwCのFuture Desaign Labでは、未来のライフスタイルの兆しを集めて洞察し、スペキュラティブな手法を使った機会領域の発見、企業やブランドのポジションの現状分析、技術やその他の優位性の分析、企業利益やビジョンのマッピングなどを通じて、クライアントやブランドの未来を探ります。新しい現実を引き起こし、現在の境界を押し広げるために、従来の線形的な未来予測とは大きく異なるデザイン手法によって、「全く新しい機会領域」という革新的な成果物を創造します。

例えば人々の未来の購買行動、建設業界で起こりうる兆し、エンターテイメントとメディアの関わりなど、予想外の変動をも踏まえて10年後の管理計画を策定することは得策とはいえません。そうではなく、私たちはプロセスを逆にして、どのような社会が望ましいのか(もしくは好ましくないのか)を自問することを提案しています。想像上の、しかし現実的な日常の中に新しい技術開発を配置することで、さまざまなテクノロジーが未来にもたらす影響について議論しています。

未来創造型コンサルティング の図

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執筆者

高島 まき子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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