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社会課題が深刻化・複雑化の一途をたどっている中、社会の担い手である企業や団体には、その解決を軸としたイノベーションの創出が求められています。もちろんこれまでも新規事業の創出は行われてきたのですが、それらの目的は経済価値を創出することがメインであり、自社の商品やサービスをいかに選好してもらえるかを考え、そこに収益性を求めるという考え方が主でした。また、そのような取り組みの多くは経営層からトップダウンで業務指示を受けたメンバーにより進められるものでした。
しかし、社会課題解決型の新規事業を創出するには、このような形ではなかなか上手くいきません。なぜなら、社会課題解決型ビジネスの創出に必要な視点やアイデアは、社会との接点を日常的に持ち、社会をつぶさに観察する中から生まれるからです。よって、意思ある者がボトムアップで課題を形成し、自らの意思で取り組んでいける仕組みづくりが非常に重要になってくると考えられます。
本連載「Social Impact Initiative 社会を変える旅に出る―社内外で仲間を集め、コレクティブインパクトを創出していく―」の第1回「ソーシャルイノベーションのアイデアをあたため、育てる」でも触れましたが、イノベーションのアイデアをあたため、育てる過程は非常に地味なものです。アイデアとは毎日のように「ああでもない」「こうでもない」という思考を巡らせ、仲間との熟議を通して形作られていくものであり、自社のパーパスや社是の意味を何度も唱え、それらを体現する取り組みであるかを確認しながら進める必要があります。
その際、自社のパーパスや社是を理解しているのは、自社や自社と関わるステークホルダーのことを日常的に考えているその会社の社員のはずです。アイデアを大事に育て、会社の資源を動員し、推進阻害要因を排除しながら、1つの事業に育てていく過程は茨の道です。その中でちゃんとそのアイデアにコミットし、「これを試してみたい」と積極的に取り組む人は、外部に頼るのではなく、社内から募る方が断然良いでしょう。
既存事業は、求められていることをきっちりと品質高くこなすことが求められます。一方、新規事業は、やるべきことを自ら見つけ出し、状況の変化を読みながらベストな方法でやり抜くことが求められます。両者の性質は全く異なるので、自ずと必要な能力や資質、ケイパビリティも異なってきます。
既存事業に上手く取り組める人が、新規事業に上手く取り組めるとは限りません。逆に、新規事業を上手に育て上げた人が、既存事業で成果を挙げられるとも限りません。企業の中では、既存事業への取り組みの方が推進されているので、誰が新しい取り組みの推進に長けた人材なのかは、全く分からないと思ってよいでしょう。
新しい取り組みに係るアイデアは外部に頼れない。推進役として適任なのは既存事業のエースとは限らない――。となると、会社を変革したいのであれば、社内から適切な人材を見つけ出すしかありません。ひたすら社内を観察し続け、タレントを発掘するのです。
ヒントは、こまめに越境的学習をやっている人が、該当者であることが多いと筆者は考えています。越境的学習は、社外との接点が多いため退職につながるリスクがあると言われることもありますが、社会課題の解決に資するアイデアやエネルギーは、社会との接点を通して生まれてくるものです。よって、社会を見て視野を広げ、社内外の人々とのコミュニケーションを通して視座を上げ、多くの情報を自分なりの示唆を加えて語ることができ、課題特定力に優れているメンバーを選定するのが良いです。
昨今はコンサルタントに限らず、多くの人がロジカルシンキングを使えるようになってきています。しかし、ロジカルに物事を解くという能力が長けてくると、解決できることしか取り組まないようになる可能性があります。そうすると、自ずと視野が狭まり、対応するステークホルダーを一部に絞り込んでしまいがちになります。社会起点で課題を想起し、それを多くのステークホルダーを巻き込みながら解決することを目指すのであれば、大きな社会システムの全体像を捉え、その中で解決すべき課題を特定する能力が必要になると考えます。
イノベーターを探すために社内でアイデアコンテストを催すケースがあります。ただ、限られた時間の中で、上手く話をまとめようとするために検討範囲が狭くなり、解決する課題も局所的になりがちになるので、その点には留意した方が良いでしょう。また、イベント形式のアイデアコンテストにおいて、筋の良いアイデアを見抜くためには、審査する方の目利きも相当に高いものが求められます。よって、ここで抜群に光るアイデアを見つけ出すことは容易ではありません。
一方で、こういうコンテストや会合には、出る方も観るも社会課題に関心が高く、熱心な人が多いのは確かです。現状に何かモヤモヤとしたものを抱えており、「何かを変えたいな」と思って参加しているため、イノベーターが潜んでいる可能性は高いと言えます。つまり、アイデアコンテストを開催したとしても、1回限りのイベントとするのではなく、そこを受け皿として、それを土壌にアイデアの芽を育てていくというような仕掛けをつくるのが良いのではないでしょうか。
コンテストで「良いアイデアだ!」と好感触である旨のコメントを言って、発表者たちの気分を良くさせたものの、誰も何も具体的なサポートをしないという事態はあってはなりません。
アイデアを持ち込んでいる本人たちは、進めて良いならば「投資をつけてほしい」「人をアサインしてほしい」「社内の関係部署との調整をサポートしてほしい」など、具体的に経営資源を動かして取り組みを支援してほしいと願っています。
話す方も聞く方も真剣勝負で取り組み、できれば聞く側は経営資源の配分ができる経営層であった方が良いです。そして「これは!」と思うアイデアには、経営層自らがスポンサーとなり、自身の持つ社内外のリレーションを活用し、コレクティブインパクトが創出される取り組みへと昇華させるための相談相手としてサーバントリーダーシップを発揮いただくことを願っています。会社も経営層も「何か新しいことをしよう」「変わろう」と高らかに宣言するのであれば、社内のイノベーターを真剣に探索し、サポートする姿を他の社員たちに見せる方が本気度が伝わるでしょう。
イノベーターを探索し、経営層がバックアップする。上手くいくように会社をあげて進めていく。「社会を変える旅」で得る経験は、本人たちはもとより、会社の大いなる財産になります。中心となって進める人。必死にサポートする人。協力者や応援者。新しい取り組みに関わったそれぞれが、経験を通じて教訓を得ることができます。1つ目の新しい取り組みがうまくいけば、2つ目、3つ目と続いていく可能性が高まります。次に続く、新しい取り組みが始まった時には、効果的に推進するためのアドバイスやサポートを提供できるようになります。これは、社内でイノベーションを起こすエコシステムとして根付いていきます。このように組織として新しい知や経験を積み重ね、1つ、2つと新しい取り組みを実現しながら会社全体の変革を促し、社会的意義を追求する会社であることを目指していければと考えます。