デジタル田園都市国家構想の礎となるデジタル原則

2022-03-29

デジタル田園都市国家構想

2021年11月10日に第2次岸田内閣が発足し、成長戦略4本柱の1本としてデジタル田園都市国家構想を宣言、翌日にはデジタル田園都市国家構想実現会議が開催されました。デジタル田園都市国家構想は、地方からデジタル実装を進め、地方と都市の差を縮めるため、総額5.7兆円(2021年度補正予算・2022年度当初予算)を投入し、デジタル基盤の整備などを実施するものです。2021年度の補正予算200億円をデジタル田園都市国家構想推進交付金TYPE1~3として計上、TYPE1が2022年2月22日期限で公募されました。その申請要件の一部となっていたのが、デジタル原則に従うことです。

デジタル原則

2021年11月に創設されたデジタル臨時行政調査会において、今後のデジタル社会を構築する上で必要となるデジタル改革・規制改革・行政改革に通底すべき、デジタル社会の実現に向けた構造改革のための5つの原則が提示されました。①デジタル完結・自動化原則、②アジャイルガバナンス原則、③官民連携原則、④相互運用性確保原則、⑤共通基盤利用原則で構成されます(図:5つのデジタル原則)。

図:5つのデジタル原則

図 5つのデジタル原則

出典:デジタル庁、デジタル臨時行政調査会(第2回)資料1「デジタル時代の構造改革とデジタル原則の方向性について」、2021/12/22 https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20211222_meeting_extraordinary_administrative_research_committee_01.pdf

  • 原則①デジタル完結・自動化原則

始まりから終わりまで全ての業務プロセスをデジタル化するには、システムの実装だけではなく、書面・目視・常駐を義務付ける紙や対面を前提とした規制から、デジタル化を前提にした規制への見直しが必要です。政府は今後3年間にわたりデジタル化に向け規制を見直す計画としています1

  • 原則②アジャイルガバナンス原則

スマートシティを運営していくためには、アウトカムなどの指標を用いて導入効果を検証し、適切に改善していく必要があります。導入効果の検証にはEBPM(エビデンスに基づく政策立案)、指標にはWell-beingダッシュボード(満足度・生活の質を表す指標群)を理解しておくことが重要です。

EBPMでは、事前に政策目的を明確化し、政策目的を実現するロジックモデル・指標を設定、収集したエビデンスから指標を作成し、ロジックモデルを検証・改善していきます2

Well-beingダッシュボードは、経済指標では捉えられない人々の幸福や満足を描き出すための指標群であり、経済協力開発機構(OECD)指標群で採用している9指標に、日本独自の子育て・介護を追加した11指標からなります3

EBPMのロジックモデルを検証する際に使用するエビデンスを自動生成可能となるように、スマートシティ構築時に設計することで、スマートシティの効率的な運用を実現できると考えられます。例えば、本シリーズ第49回「『脱炭素先行地域』に選ばれるためには」で紹介したように、脱炭素化の指標もスマートシティ構築時に設計しておくことで効率的な運用が可能になります。

  • 原則③官民連携原則

スマートシティサービスで実装する画面などのインターフェースは、使い慣れた民間企業が作成したものを利用すると、利用者に受け入れられやすくなります。例えば、渋谷区の行政サービスは、ソーシャルネットワーキングサービスと連携して提供されているものもあり、利便性が高いサービスとなっています。

  • 原則④相互運用性原則

相互運用性を確保するには、スマートシティリファレンスアーキテクチャに従うことが必要です。標準APIであるREST、JSONのデータ形式などを採用し、機能を疎結合に組み合わせるビルディングブロック方式で実装を進めておくことで、並行して政府や他地域・領域で開発するデータ連携基盤の機能の拡張や組み換えが容易になります。

  • 原則⑤共通基盤利用原則

APIが公開されていても使われなければ、同様のサービス・機能が乱立し、維持コストやセキュリティリスクが高まります。サービス・機能を標準化・共通化し、利用を促進していく必要があります。

また、デジタル基盤のインフラについては、5年をめどに政府が整備する計画で、10カ所程度のデータセンターへ集約されます4。先進的なサービスをすでに展開している、または展開を予定している一部の自治体では、自治体で保持する基盤上にサービス実装を進めていますが、政府のデジタル基盤整備後に移行を求められることが想定されます。そのため、コンテナ形式などで移行をしやすい設計にしておくことが重要です。

スーパーシティ型国家特別区域の選定

2022年3月4日、内閣府によりスーパーシティ型国家戦略特別区域に、茨城県つくば市、大阪府・大阪市が選定されました。また、デジタル田園健康特区(仮称)に、岡山県吉備中央町、長野県茅野市、石川県加賀市が選定されました。いずれもデジタル原則①デジタル完結・自動化原則を進める規制改革の内容が、国家戦略特別区域選定の選定基準として重視されました。

本シリーズ第31回「内閣府スーパーシティ特別域指定に関する動向」で紹介したように、スーパーシティ型国家戦略特別区域は、2030年頃の未来社会を実現させるため、複数領域において大胆な規制改革を行い、ビッグバン的なアプローチで進める施策です。そのため、規制改革と先端サービスの数と内容が選定基準として重視されました。また、新たな枠組みとして生まれたデジタル田園健康特区(仮称)は、スーパーシティで挙げられた数多くの課題のうち類似した課題を持つ地域同士をまとめ、特定領域の規制改革を進めることで複数の地域課題を一度に解決する施策です。そのため、今回は健康医療領域で類似した課題を持つ地域が選定されました。

今後、デジタル田園都市国家構想を先導するものとして、スーパーシティでは複数領域間連携を、デジタル田園健康特区(仮称)では健康医療領域に特化した地域間連携をそれぞれデジタル原則に従い、進めることが想定されます。

現在、政府はスマートシティの社会実装に向けて、地域間・領域間連携に関する調査・検討を数多く進めています。デジタル原則に沿ったデジタル基盤の仕様(データ連携基盤のコア機能など)や各種標準類が近いうちにより鮮明になり、検討・実装が加速していくと考えられるため、政府の動向に注目していく必要があるでしょう。

1 デジタル庁、デジタル臨時行政調査会(第2回)資料1「デジタル時代の構造改革とデジタル原則の方向性について」、2021/12/22
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20211222_meeting_extraordinary_administrative_research_committee_01.pdf

2 デジタル庁、EBPM推進委員会(第1回)、2021/11/4
https://www.digital.go.jp/meeting/posts/o88lhOm9

3 内閣府、「満足度・生活の質に関する調査」に関する調査報告書2021、2021/9/1
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/index.html

4 デジタル庁、デジタル田園都市国家構想実現会議(第2回)資料1-1、2021/12/28
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai2/siryou1-1.pdf

執筆者

本田 高広

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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