内閣府スーパーシティ特別区域指定に関する動向

2021-04-27

スーパーシティ公募に対する自治体の動き

2020年5月に「スーパーシティ」構想実現に向けた国家戦略特別区域法等の改正法が成立しました。同年12月には全国の自治体に向けて、スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募がかかり、2021年4月16日に締め切られました。約30の自治体が応募したと見られており、北は北海道から南は沖縄、規模としては人口100万人を超える政令指定都市から数千人規模の小さな町までが、それぞれ協力事業者を募り、未来のまちづくりに必要な要素として「規制緩和」「先端的サービス」「データ連携」などをキーワードに独自のスーパーシティ構想を提出しています。今後、専門調査会や国家戦略特区諮問会議での審査を経て、5カ所程度が区域特区に指定される見込みです。

スマートシティとの違い

日本における従来型の「スマートシティ」と「スーパーシティ」の相違点はどこにあるのでしょうか。「スマートシティ」は自治体やエリアのオーナーが事業者と協力し、住民の課題解決を行うために交通、医療、教育、防災、決済などの個別の分野にテクノロジーを導入し、実現性を確認しながら事業を進めます。それに対し「スーパーシティ」は「丸ごと未来都市」を標榜し、構想全体を統括するアーキテクトを中心に2030年ごろの都市像を描き、自治体と住民が合意した上で複数の分野に跨って大規模な規制緩和やデータ連携を行うことを前提として、2025年ごろまでに理想の街を一気につくってしまう点が特徴となっています。

これは「スモールスタート」や「フェイルファスト」「アジャイル型開発」といった昨今のトレンドとは逆行するビッグバン的なアプローチにも思われますが、日本において世界最先端都市を創るためには、個別の分野ごとに実施する際の事業主管となる省庁の枠を超え、包括的に未来のまちづくりを推進する枠組みをつくることが必要であると考えます。

スーパーシティの実現に不可欠であり、海外ではすでに導入されているにもかかわらず、国内への導入が規制されている技術もありますが、それらの規制については、スーパーシティ特別区域の中でまとめて緩和し、最短距離で「未来都市」を構築することが可能になっています。

「スマートシティ」と「スーパーシティ」では進めるプロセスが大きく異なるため、各自治体は慎重に選択する必要があります。実際にPwCが関わる自治体の中には、個別の実証を積み重ねて着々と準備を進めてきた結果、今回のスーパーシティ公募への参加は一旦見送り、これまでの取り組みを継続しながら未来のまちづくりを進めることを選択した自治体もあります。これはそれぞれの自治体が置かれている状況、住民や事業者の協力態勢、首長の方針などに依るため、公募についてどちらの判断が正しかったのか、答えが出るのは何年も先になるでしょう。

スーパーシティの取り組みを進めるにあたり

これから進むスーパーシティの区域指定については、内閣府が公募にあたって提示した要件を満たす自治体の中から地域性、規模、コンセプトなどを考慮し、バランスを取りながら選定されることが予想されます。しかし、言うまでもなくスーパーシティとして選定されるだけでなく、その後の実装プロセスの方がより重要です。まずはアーキテクトを中心に基本構想を策定し、規制緩和事項について利害関係の生じる関係者と調整を行い、個人情報やデジタルデバイドに対する懸念をもつ住民の合意をとることが重要です。そして、限られた予算の中で企業や大学などと協力しながらサステナブルな事業の仕組みを構築し、関係省庁の指針を順守しながら実装することが求められます。

その道のりには苦難が予想されますが、スーパーシティとして成功するためには、地域住民が地方自治に高い関心を持ち、また協力的であり、首長やアーキテクトが高い支持を受けていることが肝要であると考えます。特に、スーパーシティの指定を受けた場合、基本構想を内閣総理大臣へ提出するにあたって、投票などの方法により区域の住民の意見を確認しなくてはなりません。日本においては現状維持を望む住民、ステークホルダーは一定数存在します。スーパーシティ構想についても目的やメリットを正しく説明することができなければ、基本構想の提出ができないだけでなく、首長は支持率の低下を招いてしまうかもしれません。

また、特定の企業のメンバーを中核に据えた場合は、周辺企業に対しても配慮を行い、特定企業に利益誘導しないなどの気運を醸成しなくてはいけません。さもなければ企業同士がお互いに牽制しあい、他の企業の協力が得にくくなり、何のためのスーパーシティなのかという点が住民にとってもぼやけてしまいます。

スーパーシティの今後の展望

海外と比較して技術の研究開発レベルが進んでいると言われる日本ですが、都市の「スマートシティ」化においては、遅れを取っているみられています。「スーパーシティ」の枠組みは、この遅れを取り戻す起爆剤になる可能性があります。特別区域として選定された都市の取り組みが成功すれば、同様の課題を抱える他の自治体への展開や、将来的には都市ソリューションとして海外輸出も期待されます。

スーパーシティの取り組みは、まさに国レベルの実証政策といえ、住民、企業、大学をはじめとする研究機関、アーキテクトなどの総合力によって推進されるべきです。今回の公募の選定結果はもちろん、今回は公募に応じず様子見を決めた自治体の参加が予想される第2次公募、そして、スーパーシティ実現に至る過程についても、あわせて注目していきたいと思います。

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