生成AI―新たな働き方革命の波に乗る―テクノロジー最前線 生成AI(Generative AI)編 (5)

生成AIが保険業界へもたらすインパクト

  • 2023-08-22

生成AIとは

生成AIとは、文章や画像を生成できるAIの総称です。従来のAIも、「認識」(何が起きたか)、「診断」(なぜ起きたか)、「予測」(今後何が起きるか)は可能でしたが、「指示的分析」(どうすれば良いかの解決方法)を可能としている点は、生成AIの特長の1つです。

また、人間と対話をするかのような社会性(常識や礼儀正しさを備え、違和感のない文法を駆使)やコミュニケーション力(前提や会話の流れを論理的に理解し、内容を深掘り)を有している点も大きな特長です。

では、こうした生成AIが普及し、社会に浸透していく中で、保険業界に今後どのような変化が及ぶのか、①顧客、②保険会社の2つの観点から考えてみたいと思います。

①生成AIが顧客にもたらすインパクト

DXの進展により、顧客をサポートするツールが数多く提供されるようになりました。例えば、簡単な照会事項であればヒトではなく、チャットボットに相談できる機能は既に実装されています。また、自身にとって必要な保障・補償の判断を補助するファイナンシャルプランニングツールも、さまざまなものが世の中に存在します。

とはいえ、現段階でこうしたツールを使いこなし、ヒトに相談することなく保険契約を結ぶ顧客はいまだ少数派です。しかし、規制などにより生成AI固有のリスクを低減させ、生成AIが進化することで精度が向上して適切なアドバイスができるようになり、また公平性が担保されるようになったら、多くの顧客がヒトではなくAIに判断を頼るようになるでしょう。

2024年には新NISA制度が開始するなど、将来、顧客にとって金融の選択肢はより広がり、その悩みは保険の枠を超え、金融全般にわたることが想像されます。こうした悩みにいち早く応え、信頼を獲得していくうえで、生成AIは保険募集人にとってライバルにも、強力な武器にもなり得ると考えられます。

今後、生成AIを身近なツールとして活用する顧客が増えていけば、顧客のデジタルリテラシー全体を押し上げる可能性もあり、保険会社にとってのデジタルツールおよび顧客接点の見直しにもつながると考えられます。

②生成AIが保険会社にもたらすインパクト

保険業界においては、RPA、AI-OCR、画像診断、ルールエンジン、ワークフローなどが導入され、既に多くの業務の機械化が進んでいます。しかし、その多くがアンダーライティングや支払査定、簡易な照会業務など、定型的な事務作業・照会対応であり、適用範囲には限界があります。膨大な規定やルール、契約のバリエーションがあるなかで、正しい解答を自動的に示すことは困難でした。

一方、生成AIは指示を受けることで与えられた内容を要約し、仮説・論点を抽出し、画像やレポート・資料などを作成することが可能です。すなわち、ヒトの思考や判断、クリエイティビティが求められた企画、交渉、広報・マーケティングといった非定型の業務ですら、将来的には効率化の対象になり得ると考えられます。

活用に向けて検討すべき観点と、今後何から始めるべきか

では、生成AI活用に向けた検討および導入をどのように進めていくべきでしょうか。

生成AIを事業で採用する場合、技術・倫理・法務の観点で適切な対応(ガバナンスやリスク軽減策)が必要です。特に、消費者保護が厳格に求められる保険業界においては、果敢な挑戦と同時に、顧客や職員が安心して生成AIを扱える環境を整備すべく、適切にステップを踏む必要があり、「攻め」と「守り」のバランスが求められます。

「攻め」の観点では、生成AIの特性を踏まえたユースケースの設計、従来型DX(ルールエンジン、ワークフロー、データ分析など)とのすみ分けの明確化、生成AI活用において必要となるデータの定義・整備が重要です。特に、生成AIに参照させるデータについては、バージョン管理、セキュリティ管理、メタ管理などがより一層必要になると考えられます。

「守り」の観点では、生成AI特有のリスクを理解した社内ポリシーやガイダンスを策定するなどの対策が必要です。例えば、情報漏洩、著作権侵害や正確性への考慮・対処が求められます。

生成AIの技術自体が日進月歩で進化していることに鑑みれば、攻めと守り双方のバランスを取りながら、アジャイルかつスピーディに生成AIの活用および推進を可能とする体制を早期に築くことが重要です。

おわりに

生成AIの活用に向けては、業界動向を取り入れつつも各社独自の導入基準やユースケースを策定する「攻め」の観点と、利用者・管理者・顧客のそれぞれの立場において法令、社会的・技術的・倫理的事業リスクに対処する「守り」の観点から迅速に検討を進めることが鍵となります。

PwCは国内外のプロフェッショナルと連携し、「攻め」「守り」いずれのサービスをも提供しています。

  • 既存業務への適用に向けたユースケースの検討および選定
  • 生成AIの活用および導入に向けた環境構築
  • ヒト、従来型DX、生成AIの適用範囲定義(Job Description再定義)
  • AIガバナンスポリシーの策定
  • 態勢およびルールの整備
  • 生成AI活用に向けたトレーニングの実施

保険各社が迅速に生成AIを活用・導入し、顧客価値や生産性を最大化するための支援を個別のニーズを踏まえながら提供していますので、お気軽にお問い合わせください。

執筆者

高 盛華

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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大須賀 英之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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岡田 浩介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小林 大介

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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