生成AI―新たな働き方革命の波に乗る―テクノロジー最前線 生成AI(Generative AI)編(12)

生成AIの技術動向から見る将来像:後編 将来像と備え

  • 2024-02-20

「生成AIの技術動向から見る将来像」の前編では、従来のAIを振り返りながら、生成AIの将来の潮流に関する仮説を立て、その過程で重要となる技術トレンドを掘り下げました。後編では、注目すべき技術が発展した社会の将来像を描き、ビジネスに与える影響を考察します。また、最後に生成AIの来るべき将来への備えを考えていきます。

前編はこちら

将来像1. 生成AIがシステムのハブになる未来

生成AIのマルチモーダル化(テキスト、画像、音声、プログラムなど複数の種類の情報を統合して処理すること)によって、ユーザーは複数の情報やシステムを生成AIを介して利用することが可能になると考えられます。また、ユーザーは裏で動作するさまざまなシステムの複雑さを意識することなく、これらをシームレスに連携させて使用できるようになるでしょう。

生成AIがUI(ユーザーインターフェース)となり、ユーザーの入力(目的)に応じて、背後にある複数のAIシステム(生成AI含む)や従来のシステムを選択・活用することも将来的に実現されると考えます。これにより、ユーザーは複数のシステムを1つのUIから簡単に操作できるようになり、これまでにないレベルの利便性を享受できるでしょう。

企業にとっても、この技術は大きなメリットをもたらすでしょう。生成AIがラッパーとなり、異なるシステム間の連携を容易にし、企業は既存のシステムを効率的に利用・連携させることで、ユーザーに新たな体験を提供することが可能になるかもしれません。

例えば、マルチモーダル化した生成AIが、スーパーアプリのインターフェースを担うことで、スーパーアプリを介して各種アプリ(ミニアプリなど)が連携し、生成AIをハブとした個別最適なユーザー体験が生成される可能性があります。これにより、UIである生成AIとのコミュニケーションを通じて「友達と買い物をするような体験」をユーザーへ提供できるかもしれません。

しかし、このような仕組みを実現するためには、複数のモデルやシステムを効果的に管理する仕組みが不可欠だと考えられます。特に、生成AIなどのブラックボックス化した仕組みに対しては、モデルカードなどを用いたメタデータの管理や適切な運用(MLOps、LLMOpsなど)がますます重要になるでしょう。

将来像2. 生成AIがいつでも身近にいる未来

生成AIの軽量化は、エッジ/モバイル端末における新たなアプリケーションの開発に大きな影響を与えると考えられます。軽量化した生成AIを端末に実装することで、即応性が高まり、オフライン環境でも生成AIを利用できるようになります。また、データを端末内で処理するため、プライバシー保護の強化につながります。

軽量化された生成AIは、そのサイズや利用頻度に基づき、最適な環境(クラウド、エッジ、デバイス)に配置され、計算リソースの利用効率とアクセシビリティが最大化されると考えられます。

生成AIの軽量化は企業に大きなメリットをもたらします。ユーザーがデータを端末で処理することで、プライバシー保護を強化することが可能になり、同時にクラウドサーバーのリソース要求が減少します。また、即応性の向上はユーザーエンゲージメントの向上につながる可能性があります。

ユースケースもさまざまなものを考えることが可能です。例えば、モバイルアプリケーションによりパーソナライズされたコンテンツを生成したり、アバターをリアルタイムに生成したり、目の不自由な方向けに状況を説明する音声を生成したりすることが考えられます。

軽量化された生成AIの運用には、メンテナンスやアップデート管理といった課題が伴うと想定されますので、生成AIの適切な運用(MLOps、LLMOpsなど)は将来像1と同様に重要性を増すでしょう。

図表2 軽量化の将来像

来るべき将来への備え

前編で触れたように、生成AIの将来像に対する実現性は急速に高まっています。生成AIは、人工汎用知能(AGI:Artificial General Intelligence)の初期型とみなす意見もあり、マルチモーダル化や軽量化を含む多くの成長の余地を踏まえると、近い将来に社会やビジネスに大きな影響をもたらすことが想定されます。

しかしながら、この急速な進歩に対して、生成AIへの理解が追いついていないのが現実です。このような状況では、生成AIに過度な期待を寄せ、生成AIの能力を過大評価し、その限界を見誤ることで、「重要な判断を生成AIに任せる」という危険な判断が起こるかもしれません。有効な領域に活用できずに“期待外れ”というレッテルを張ってしまい、その真価を見誤ることで生成AIを効果的に活用するチャンスを逃してしまうということも考えられます。このような事態に避けるためにも、生成AIに関するリテラシーの向上が不可欠であり、生成AIに関する情報発信の強化や、専門コミュニティの形成が不可欠と考えられます。

また、企業は自社の事業を見つめなおし、生成AIを活用した業務トランスフォーメーションの推進の是非の判断を実施すべきでしょう。その際、生成AIのリテラシーを有する人材だけではなく、生成AIを効果的に活用できるユースケースやビジネスプロセスを見極める人材や、そのためのBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を推進する人材、リスク管理のために生成AIガバナンス体制を構築できる人材を育成・確保する必要があります。

また、全従業員がAI技術とビジネスに関する基礎的な理解を持つ「ビジネストランスレーター」を目指すことが、今後のビジネスの成功の鍵になると考えられます。従来のAIの潮流を踏まえると、生成AIを利活用するにあたっては今後2~3年が重要な時期になると考えられます。しかし、十分な人材を育成・確保するにはそれ以上の時間が必要であり、この期間内での実現は困難でしょう。そのため、企業は従来の意思決定方法よりも迅速かつ戦略的なアプローチを取り、生成AI人材の内製化や外注への検討を進めることが必要だと考えられます。

生成AIは、私たちのビジネスと日常生活に革命をもたらす潜在力を持っています。しかし、その力を最大限に活用し、同時に潜在的なリスクを最小限に抑えるには、技術への理解と慎重なアプローチが必要です。技術革新の波に乗り遅れないためにも、絶えず進化する生成AIの技術動向を注視することが重要と考えます。

特に日本企業にとって、豊富な情報を含む社内文章の活用は、大きなチャンスの可能性があります。日本の社内文章は、後から見ても意味が分かるように豊富な情報が含まれていることが多く、蓄積されたノウハウが生かされた質の高い情報と言えます。ただし、これまでは独自フォーマットであるなどの理由から、有効活用が困難なものが多くありました。まだ発展途上の技術ではありますが、生成AIはこれらの非構造データを読み込み、理解することでAIによって扱いやすい形にすることも可能です。データ処理領域でも生成AIを活用することで、日本企業が保有する独自フォーマットや属人的データが、世界で戦う日本企業にとって大きな強みになり得るでしょう。生成AIの未来は、その技術を正確に理解し、そして戦略的にこれを受け入れ、適応するかに左右されます。次の技術革新の波に乗り遅れないよう、常に進化する生成AIの動向を見守り、適応する準備を整えることが重要と言えるでしょう。

図表3 弱いAIからAGIへ

※参考 `Planning for AGI and beyond`: https://openai.com/blog/planning-for-agi-and-beyond , `AGIとは?ChatGPTで注目の汎用人工知能について解説`: https://www.1st-net.jp/blog/agi-chatgpt/

執筆者

三善 心平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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上野 大地

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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塩原 翔太

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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