ものづくり大国の日本は3Dデータ大国になれる

3Dデータの秘める可能性

3Dデータ(Three dimensional data)とは、絵や図面のような平面データに、高さの情報が加わった立体データのことを指します。コンピュータ上で立体データを作成できるソフトウェアが登場して以降、3Dデータは製造、建築、エンターテインメントなどさまざまな業界で活用されています。3Dデータを活用することで、平面では表現することが難しかった複雑な形状の設計が可能となり、実物を作る前にデザインや構造の確認、強度や材質のシミュレーションができるようになるなど、ものづくりのプロセスに多様な変化が起きています。

また近年では、実際に存在する街や建物を3Dデータで再現したデジタルツインと呼ばれる空間を作成することで、シミュレーションやトレーニング、エンターテインメント、ショッピングなどのさまざまな分野においてビジネスの検討が行われています。

3Dデータの活用は既に私たちの日常生活でも進んでいます。スマートフォンの性能の向上により、近年はECサイトやゲームで3Dデータの閲覧が可能になっています。レーザー光センサーを搭載したモデルでは、目の前の立体物や空間をスキャンすることで、3Dデータの製作を行えるようになりました。これまで特定の業種のプロフェッショナル達が扱ってきた3Dデータが、より身近なものになってきているのではないでしょうか。

3Dデータに係る興味深い動向の一例として、日本人デジタルアーティストのVRアート作品が1,300万円もの高額で落札されたことが挙げられます。この出来事はニュースでも取り上げられましたが、NFTというブロックチェーン技術によりデジタルデータの所有権を担保できるという背景だけでなく、3Dデータ自体が有価物として売買されているという点も注目に値します。同様のことはゲームの世界では既に起きており、キャラクターの持ち物や外観(スキン)といった3Dデータをクリエイター達が製作し、売買されています。

前述の通り、多岐にわたる業界において3Dデータの利活用が広がっており、3Dデータの重要性および、データ自体の価値が今後一層向上していくことが予想されます。

日本が持つ3Dデータ製作のケイパビリティ

専門知識を持たない人でもスマートフォンのセンサーで3Dデータを作製できるという事例を紹介しました。しかし、それはあくまで既存の立体物の複製データですので、その元となるオリジナルの形状の製作は、依然としてプロフェッショナルやクリエイターの手に委ねられることになります。

ものづくり大国である日本においては、製造業に多くのプロフェッショナルが従事しています。しかしながら近年のグローバル競争の激化により、特に最終製品の外観デザインが重視される家電やAV機器などの民生用電気・電子デバイスの国内生産額は、半導体やモーターなどの非民生用デバイスと比較して大きく減少傾向にあります(図1)。「モノづくりからコトづくりへ」の掛け声のもと、製造業からITサービス業へ事業ポートフォリオをシフトした大企業も少なくありません。

電気・電子デバイス生産額水準 (2003年=100)

かつてメイド・イン・ジャパンの工業製品の数々は世界を席巻し、一時代を築きました。高い3Dデータ作成スキルを持ち、美しい製品形状を生み出してきた工業デザイナーや設計者は、ものづくり大国・日本の資産の一つと言えますが、現状はその資産を活かせる産業が減少傾向にあるのかもしれません。

一方でデジタルツインを活用した新しい産業が生まれ、3Dデータ自体が有価物として売買されるマーケットが醸成されるなど、従来存在しなかったさまざまなビジネスが創出される中で、3Dデータ作成スキルは必要不可欠なスキルとなっています。従って、これまで工業製品の外観形状を作成してきたプロフェッショナル達は、3Dデータを起点とした新しいビジネスの未来を具現化し、差別化できる人材として、今後大きな可能性を見出すことができるはずです。

ものづくり大国として多くのプロフェッショナルを抱える日本は、世界の3Dデータ大国になれるチャンスを秘めているのではないでしょうか。

PwCでは3Dデータ利活用の可能性について検討と実証を進めております。今後も3Dデータに関するビジネスインサイトを発信していきます。

執筆者

藤本 真弘

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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