エクステンデッドリアリティはビジネスにつながる―XRからメタバースへ

2022-05-19

昨今、最も注目されるテクノロジーの1つが、エクステンデッドリアリティ(XR)です。XRは、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実テクノロジー(MR)を全て含んでおり、私たちはXRを使用して現実世界にデジタルを重ね合わせることで現実世界の価値を高めたり、実世界の限界を超えた仮想体験に浸ったりすることができます。

市場調査会社のStatistaは、VRとARの市場規模が2022年までに2,092億米ドルに達すると見込んでいます。またIT専門の調査会社であるIDCは、AR・VRヘッドセットの世界全体の出荷量が2022年には6,590万台に達すると予測しており、その影響は計り知れません。XRテクノロジーには、物を買い、学び、行動する方法を変容する力があります。また、ほぼ全ての業界と接点があり、消費者と企業の両方に価値をもたらします。今回は、XRのビジネス活用の可能性と価値を考えます。

XRの可能性を探る

ジェットエンジンの組み立てや修理といったものづくりの仮想空間での試験、建築家による店舗の小売スペースのイメージ作成、家にいながらの家具から自動車まであらゆる製品の品定め……。これらは、XRのうちの1つであるVRが可能にすることの例です。

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着すれば、瞬時に別の世界を見て、聞いて、学び、探検することができます。HMDで3Dのプレゼンテーションを視聴すること、あるいはマニュアルを映像で学ぶことを考えてみてください。いずれも、コンピューターの前で見たり読んだりするのとでは没入度がまるで違うことが想像できるでしょう。

企業のVR活用の一例として、ゲームエンジンの技術と人工知能(AI)を使用して、研修参加者とリアルタイムでやり取りするバーチャルヒューマン(仮想人間)を作成することが挙げられます。従業員は研修をただ見ているだけではなく、シミュレーションに参加し、仮想キャラクターとやり取りするのです。参加者はバーチャルヒューマンを相手に商談のスキルを身に付けたり、バーチャル火災の現場を経験することで防火規則について学んだりすることができます。また、最初は上手くいかなくても、できるようになるまで同じ内容を繰り返し練習することが可能です。

セグメント別 今後5年間の年平均成長率

ビジネスに価値を提供するもう1つのテクノロジーがARです。ARは、スマートグラス(または自動車のフロントガラスなどの媒体)を使用して合成ビジュアルオーバーレイを構築し、物理的環境の視界に情報を重ね合わせて映し出します。例えば、技術者は機械を修理中に、装着したスマートグラスで手順、製品仕様、動画を見ることができるため、取扱説明書を携帯しないで済みます。また、消費者はスマートフォンを使って、家具を自宅に設置したときの状態を本物そっくりに見ることができます。商用アプリでは、HAZMAT(危険物処理)チームのスペシャリストがARグラスや車両のフロントガラスを介して、危険ゾーンに侵入する前に有毒物質に関するデータを閲覧することが可能です。

さらに、ARとVRの組み合わせは興味深い可能性を生み出します。例えば、MRを使って人々は仮想世界の共同作業スペースに集まり、企画段階の新製品のプロトタイプや見本市にあるキオスク端末といった物理的オブジェクトを見ることができます。また、エンジニアは建設中の建物に入り、完成時の配線や配管の状態を確認することもできるでしょう。

XRはメタバースにつながり、ビジネスに価値を生み出す

XRは、これまでにないビジネス上のチャンスを開花させると考えられます。XRが可能にすることとして、技術者同士がリモートで連携することや、消費者に双方向の体験型マーケティングを提供することが挙げられます。これにより企業は、研修や製品開発シミュレーションのやり方そのものを変える必要に迫られる可能性があるのです。

企業はよりリアルなシミュレーションを利用して製品の設計から生産までのサイクルを圧縮し、市場に投入するまでのスピードを上げ、製品の品質を向上させることができます。また、XRは職業研修を改善して、医療処置、高層ビルや海上石油掘削施設での消火活動など、リスクを伴い、時には危険の及ぶ作業を学ぶための安全な環境を構築することもできます。これらは、顧客や従業員にとってより充実した、満足感を得られる体験の創造につながると考えられます。

そうすれば、これまでVRやAR、MRの統合的な概念にとどまっていたXRは、より広義で可能性を秘めたメタバースという概念に進化したとも考えられます。これは、日に日に注目度が高まっているメタバースが、XRの延長線上にある概念だからです。私たちがXRを活用して集う場がメタバース空間であり、そこでともにシミュレーションを行ったり研修を受けたりすることで、ビジネスの効率化やチャンスの拡大を模索する――。遠くない将来、そんな光景が当たり前になっている可能性は十分にあるでしょう。また、自社でXRやメタバース空間を活用するだけに留まらず、それらを用いて消費者やクライアントにサービス提供を開始することも十分に考えられます。

もちろん、XRやメタバースには技術、プロセス、さらにはカルチャーの面で課題もあるでしょう。具体的には、最大限の成果を引き出すハードウェアシステムの増強とソフトウェアの実装、また経営陣や従業員、顧客からの支持です。他にもHMDのセキュリティと管理、企業向けアプリストアとアプリ開発のためのプラットフォームの不足、コンテンツの作成に必要な開発者やクリエイター人材の不足などが課題として挙げられます。カルチャー面の課題としては、HMDに起因する新たなデジタルデバイドが挙げられます。これはXR技術やメタバースを抵抗なく使うことのできるデジタルネイティブとそれ以外の人たちとの格差を指します。HMDに対して懐疑的な見方をする後者をいかにケアしていくかも、企業が考慮すべき課題でしょう。

XRが企業に新たなビジネスの足掛かりを築いたことは間違いなく、この技術を正しく理解し、活用できる企業には大いにチャンスが生まれるだろうと私たちは考えています。新たな収益源の特定、新ビジネスモデルの構築、顧客満足度の改善と顧客維持など、XRを正しく理解した上で速やかにアクションを起こすことが、巨大市場と化すであろうメタバースを含め、これからのビジネスの成否を決める一手となるのではないでしょうか。

XRは ビジネスに価値を生み出す

※本コンテンツは、Extended reality means business(外部サイト)を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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執筆者

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 公樹

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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長嶋 孝之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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