税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第8回:本社主導によるグローバル・ミニマム課税対応の一元管理のメリットとは

  • 2024-09-30

2024年度から本格化するグローバル・ミニマム課税(第2の柱)への対応は、多くの日系多国籍企業にとって重要な課題となっています。本社税務部門では、海外子会社から日本での申告に必要な情報を収集するための国際化対応を急務としています。グローバル・ミニマム課税への対応は、外国子会社合算税制(CFC税制)や国別報告書をはじめとする移転価格管理と同様に、海外子会社管理、とりわけ税務情報の収集が重要な役割を果たす点において、広義の国際税務領域に分類されます。グローバル・ミニマム課税対応という外的な変化は、重要な課題であると同時に、日系企業が本社主導で海外子会社から必要な情報を収集する仕組みを構築し、それらの情報を活用して税務リスクの早期発見や税務コスト削減の余地を探る絶好のチャンスとなり得ます。

「税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント」の第8回では、親会社主導でグローバル・ミニマム課税の対応にあたる利点や重要性をPwC税理士法人の伊藤 亮太が解説します。

グローバル・ミニマム課税の影響は、グループ内の情報収集システムや業務プロセスなど広範囲に及びます。これに対応するためには、社内リソースの配置、外部アドバイザーの活用方法、テクノロジーへの投資などの施策を検討する必要があります。それらを着実に準備実行するにあたっては、その推進をリードする主体として、親会社主導(セントラライズ)で管理するか、各社分散(ディセントラライズ)で対応するかの判断が重要になります。

税務に限らず多国籍企業にとっての共通命題として、全体最適を実現しやすい中央集権的な管理か、あるいは個別最適に重きを置いた地域分権による管理かをめぐる議論があります。どちらも一長一短があり、絶対的な解が存在するとはいえません。税務の世界では、国が違えば税法が異なる現実から、とくに日系の会社では、疑問に思う前から、地域分権に依存せざるをえない傾向が事前に根付いてきた面がありました。グローバル・ミニマム課税という国際標準への激変対応として、税務ガバナンスのエリアでも、本社主導で、どうすれば全体最適を図ることができるかというアプローチが見直されつつあるといえます。このなかで、中央集権化のメリットがある領域と、地域分権のままにしておく方がメリットの大きい領域を見極めることは非常に重要です。

グローバル・ミニマム課税の本則計算は、とりわけ事務負担が大きいとされています。この対応を、親会社主導(セントラライズ)とした場合、各国分散(ディセントラライズ)とする場合に比べ、親会社側の負担は増します。一方で、グループ全体の事務負担を適切に軽減することができれば、親会社主導の方が、計算の整合性、アドバイザーコストの点から優位を見込むことが可能です。

各国の法制化について時期にずれ、内容に微妙な差異はあるものの、大枠での共通ルール化は図られている点から、親会社中心の対応の方が効率的なタスクは多いといえるでしょう。グループレベルで税務情報収集のテンプレートを整備するといったことも、本社中心に検討を進めるアプローチとして有効に働くことが期待されます。

日系多国籍企業は、国際税務対応について最低限の税務コンプライアンス確保を重視し、少数精鋭で予算のミニマム化を図る傾向が強いとされています。一方、欧米多国籍企業では多数の人員を備えた税務部門が一般的であるといわれています。したがって、欧米型を単に取り入れるだけではなく、日系多国籍企業の実情に即した親会社主導モデルの構築が肝要でありPwC税理士法人はその支援をしています。支援の例としては、親会社主導モデルの実行にあたってPwC(PwC税理士法人、PwCインド)の人材リソースを有効活用いただく、第2の柱における情報収集や計算をクライアントとPwCが協働・役割分担することで限られたコストで税務コンプライアンスを確保する、といったことが挙げられます。

この国際課税ルールの導入にあたって、日系多国籍企業は、今後の国際税務(海外子会社管理)の発想を根本から見直す好機と捉えるべきです。戦略、人材、テクノロジーなど多方面からのアプローチや、効率的かつ効果的な税務ガバナンスを実現することが求められます。

以上のように、グローバル・ミニマム課税への対応は日系多国籍企業にとって大きな挑戦でありながら、大きな成長機会でもあります。適切な戦略とリソース配分を通じて、この新たな環境に適応し、企業価値を最大化することが期待されます。企業の税務部門では、グローバル・ミニマム課税対応は、単なる税務コンプライアンス対応にとどまらず、グループレベルでの税務リスク管理や税務コストの適正化を、戦略に取り込む発想が重要です。海外子会社から必要な情報を収集する仕組み(レポーティング体制)や、グループ全体の税務管理状況の見える化を図る絶好の好機として、活用してみてはいかがでしょうか。

※2024年3月7日プレスリリース「PwC税理士法人、日本企業のデジタル課税対応の支援体制を強化」にて、PwCインドのデジタル課税を担当する専門チームとの提携を発表

執筆者

伊藤 亮太

シニアマネージャー, PwC税理士法人

Email

経営課題に影響を及ぼす「税」の最新動向 コラム・対談

20 results
Loading...

税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント 第12回:選ばれる税務部門への変革に必要なこととは

昨今の人材不足の中で、徐々に管理部門への人材配置が厳しくなっているなか、税務部門の業務運営に対する危機感が増しています。「社内外の優秀な人材を税務部門に確保するために、何をどうすればよいか」を解説します。

移転価格の実務対応解説シリーズ【テーマ別】第4号:移転価格上の無形資産評価業務におけるDCF法適用上の留意点

本シリーズでは、グローバルに展開する日本企業に向けて、移転価格の実務対応についてテーマ別に取り上げ、わかりやすく解説します。第4号となる今回は、無形資産の一般的な評価手法について概観した後で、DCF法の適用に係る各種ガイドラインと、付随する留意点について解説します。

税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント 第11回:税務部門の役割と他部門との連携―期待される責任範囲の明確化―

昨今の国際情勢において、関税への備えを企業側も強化することが求められています。主に上場企業や多国籍企業の関税管理における業務上のポイントや税務部門の職掌範囲、調査への対応などについて解説します。

Loading...

インサイト/ニュース

20 results
Loading...

米国の差別的または域外適用的な税制への対応 ― 内国歳入法(IRC)Section 891、およびSection 899(案):BEPSニュース

米国では、米国市民や米国企業に対して差別的または域外適用的な税を課すと見なされる外国に対応するために、特定の外国企業・個人の所得に対して追加の税を課す規定に基づいた大統領令が発令されています。これらの規定が適用される可能性について解説します。

米国トランプ政権による「OECD Global Tax Deal」に関する大統領令の発出―デジタル課税第1の柱/利益Aへの影響、および第1の柱/ 利益Bに関する最新動向について―:BEPSニュース

2025年1月20日に発足した米国トランプ政権は、世界の租税・貿易政策についてバイデン政権からの明確な方向転換を示唆しました。このうち、「OECD Global Tax Deal」に関する大統領令の概要、第1の柱/利益Aおよびデジタルサービス税(DST)への影響などについて解説します。

Loading...

本ページに関するお問い合わせ

We unite expertise and tech so you can outthink, outpace and outperform
See how