税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第12回:選ばれる税務部門への変革に必要なこととは

  • 2025-05-29

昨今の人材不足の中で、徐々に管理部門への人材配置が厳しくなっているという企業の声をお聞きします。中には税務部門への外部からの採用や社内公募制度での異動は認められるが、社内異動による配置は基本的にできない旨を人事部から言われている、といった話をうかがうこともあります。

経営陣の視点として、貴重な人的リソースを収益や競争力に直接結びつく営業や開発といった部署に配置することに優先度を置くのは自然なことかもしれません。一方、私たちが普段接している税務部門の方々の業務状況は、事業のグローバル展開、Pillar2をはじめとする制度の複雑化、テクノロジーの活用など、従来とは異なる様相を呈する中で、人材不足の危機感が増してきています。こうした中、「社内外の優秀な人材を税務部門に確保するために、何をどうすればよいか」を考えるのが今回のテーマです。

いろいろな答えがあるかもしれませんが、「経営に貢献し評価される税務部門にする」ことが重要ではないかという点を提示します。これはすでに行動に移している企業もあれば、まだ着手できていない企業も多いのではないでしょうか。具体的な施策は、次の3つになると思います。

① 申告業務・税務調査対応を中心に部門運営しない

② 事業再編・新規投資・M&Aなど事業部支援と個別案件の税務リスク管理により人的リソースを割く

③ 全社的な税コスト・リスク管理・部門運営について経営陣と課題を共有し対策を講じる

まず、①の申告業務・税務調査対応は、従来の税務部門の方々の中心的な業務であったと思います。一方、こうした業務は作業時間が多いものの、不備があったときのみ注目を浴びがちな領域です。また、不備の原因は、税務部門に所属する個々人の業務による影響というより、社内でのけん制機能やチェック体制など構造的な問題が含まれることも多々あります。したがって、こうした対応プロセスに人員の厚みを加えても経営陣からの評価の向上や他部門からの理解の促進は難しいかもしれません。また、こうした業務領域は、生成AIの普及により、いち早く代替されていくとも言えます。

一方、②の事業再編・新規投資・M&Aなど事業部支援と個別案件の税務リスク管理は、経営上の重要案件にかかわるものであること、時には重要な課税上の問題や優遇税制の活用などに大きくかかわることがあり、税務部門の存在感や貢献を社内で発揮できる可能性がある領域です。実例として、ある事業部の方が、一緒に仕事を行った税務部門の方の活躍を見て、税務部門に異動したいという声を聞いたこともあります。

最後に③の全社的な税コスト・リスク管理・部門運営は、まさに税のマネジメント機能であり、CFOをはじめ経営陣の方々と、税コストの構造や優遇税制の活用や移転価格の方針、将来の業務や組織の在り方を議論し合意、実現していく役割です。多少極端な言い方をしますと、①申告業務・税務調査対応などは、③の税のマネジメントの結果として生じる業務の一部と位置づけられる、と言えると思います。

まとめますと、いわゆる作業の時間を減らし、より自社の重要な意思決定に影響する事案に時間を割くこと、全社の税務コストやリスク管理の仕組みなどマネジメントロールに時間を費やすことが重要です。税務部門に対するこうした方向への期待は、経営陣の方からも聞こえてくる声でもあり、現在の人材不足による業務のひっ迫状況に関して、税務部門の役割の高度化に関する社内の合意形成を図ることが、その解決さらには税務部門の貢献を高めるための近道となります。

執筆者

白土 晴久

パートナー, PwC税理士法人

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