第13回「地域経済エコシステム【後編】」

2020-12-21

前回解説したように、地域経済エコシステムとは、行政や企業などのさまざまなプレイヤーがデジタルやデータを活用し、地域の魅力を発信することで地域経済・地域コミュニティを活性化するエコシステムです。地域経済エコシステムの形成には、観光資源間の観光人流の形成が不可欠です。

4.地域経済エコシステムを形成する各プレイヤーのKSF(重要成功要因)

オーガナイザー

地域経済エコシステムには、その地域の特性に応じて数多くの形成パターンが考えられます。観光を起点としたエコシステム形成では、観光地や文化、食事や医療のように、地域ならではの魅力を活用し、新たな人流を築くことが重要となります。その前提のもとでは、地域の交通インフラ(鉄道、バス、船舶、タクシーなど)提供者がオーガナイザーとなるポテンシャルを秘めています。

交通インフラのコアバリューは人を運ぶことにあります。鉄道やバス、船舶会社であれば、ユーザー目線での体験設計を重視し、行政区画を超えて地域連携を加速し、観光資源の全体最適化(人流の創出や人流の平準化など)を主導することがKSFとなります。すなわち地域の特色に基づいた観光戦略を打ち出し、一体感のあるブランディングと、データに基づいた仮説検証サイクルをプレイヤーと共に回していくことが必要です。そして個別の観光資源の提供価値の合計値を上回る、高い体験価値を提供し続けることがエコシステム形成/拡大のキーとなります。

エコシステムの形成/拡大に向けては、自治体、地域金融機関や宿泊施設、飲食店などの多種多様なプレイヤーを巻き込み、自前主義を脱しつつ顧客価値をデザインする力も問われます。
具体的には、路線上の主要な観光資源の提供者と提携し、沿線上での旅行プランを提案したり、地域通貨を発行したりすることで周辺地域への途中下車を促すなど、旅行者をなるべく長い期間、域内に留めることが重要となります。加えて、サービスプロバイダー単独では難しい観光インフラへの投資(多言語対応や国立公園の整備など)や生産性向上を主導し、観光客への付加価値向上を図ることが必要です。


カスタマーデータホルダー

地方公共団体や旅行代理店、通信事業者などがカスタマーデータホルダーとなり得えます。カスタマーデータホルダーに主に必要とされることは、観光戦略を立案することや、施策の効果を可視化・定量化するためにデータを収集・分析することにあります。可視化・定量化ができれば、より多くのプレイヤーの参画を促したり、精度高くPDCAを回したりすることが可能となります。このため、人流のデータを導線レベルで細かく収集することや、金銭の流れを的確に捉えることなど、オーガナイザーやサービスプロバイダーの戦略策定に寄与できる情報を収集・分析できることがKSFであると考えられます。

デジタルプロバイダー

観光客に対して、旅マエ/旅ナカ/旅アトにそれぞれ接点を持ち、デジタルサービスを提供する事業者が該当します。例えば、旅行前後の行動データをもとにしたコンテンツを提供したり、AR(拡張現実)や翻訳システムを活用してリアルタイムに多言語で対応するなど、観光そのものの付加価値を高めたり、観光地滞在時のホスピタリティを向上させることが該当します。KSFとしては、パーソナライズした顧客体験を提供すると共に、滞在中の生活に寄り添ったサービスを展開し、リピーター化を促進していくことが考えられます。

サービスプロバイダー

地域内で商業を営む企業はすべからくプレイヤーになり得えます。
サービスプロバイダーの中でも、宿泊や飲食、レジャーは観光のインフラであり、観光客の満足度を左右する重要な要素です。このため、各プレイヤーの個性を活かしつつ、地域の観光テーマに沿った価値提供や観光資源を活かしたイベントなどによる集客が求められます。よってKSFは、自らの特徴を明確に打ち出しつつ、地域の観光テーマとも合致させたサービスを提供していくことであると考えられます。また、それらの魅力をオーガナイザーと連携し、オーガナイザーによって生み出される人流や物流とシームレスにつなぐ仕組みが必要になります。
加えて、季節による繁閑差や、災害などによる観光需要の急減リスクに備え、ワーケーションや地域住民の日常の需要を取り込むことも検討する必要があると想定されます。

システムプラットフォーマー

オーガナイザーやサービスプロバイダーと観光客との接点となるような、地図情報サービスなどがシステムプラットフォーマーとなり得ます。地図上に観光地や店舗情報をプロットし、観光客に近傍の観光地をレコメンドすることや、地図上の行動データを取得して人流を分析する基盤としての役割が期待されます。また、域内で使用できる地域通貨などの運営に利用されるブロックチェーン技術も同様に、域内の金銭の流れを把握するための基盤としての役割が期待されます。いずれのケースでもこれらのプレイヤーのKSFとしては、デジタル化が進んでいない域内のサービスプロバイダーでも参加が容易な仕組みを構築し、観光客にワンストップで多くの付加価値を提供することにあると考えられます。

5.アライアンスを組む上で留意すべきこと

地域経済エコシステムを形成するためには、初期段階からオーガナイザーが関係各所を巻き込んで進めて行く必要があります。交通インフラ企業がオーガナイザーとなって沿線のサービスプロバイダーと組み、沿線の価値を向上させることで域外からの流入を増やしたり、また地域の特色ある産業体が域外にその魅力を伝える発信をしたり、それと同時に域内にヒト、カネを誘致するために観光業界と組んだりと、地域ごとにさまざまなエコシステム形成パターンが存在します。

この際に注意すべき点は、アライアンスが業界側の都合により結びつくことで、観光資源の押し付けとならないようにすることです。また、エコシステム内のリソースを有効に活用するためにも、ターゲットの絞り込みやテーマを設定の上で、地域の認知度を上げていくことが必要です。

いずれにしても、域内だけでの活性化だけでは限界があります。重要なことは消費者を域外から呼び込むところにあり、そのために地域の隠れたアセットを掘り起こし、域外に効果的に発信していくところにあります。
流入が増えるのに合わせて、域内の人流・物流が増え、交通インフラ・観光業・宿泊施設と近傍の産業に活気が満ち、エコシステムが形成されていくこととなります。
図表6に示すように、エコシステム形成の際には、行政区画にとらわれる必要はありません。単独の自治体による自前主義では生き残りが困難であり、隣接地域の自治体との共創を検討することが必要です。

執筆者

溜井 智也

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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