企業の不正を見抜く「匠」、デジタルフォレンジックスとは?──経営の中枢にAIをどう活用できるのか

2022-04-12

企業を取り巻く事業環境は、グローバル化、技術革新、新興国の台頭などにより年々複雑化しており、求められるコーポレートガバナンスも刻々と変化している。

しかし、残念ながら企業における不正取引や品質偽装などの不正・不祥事は後をたたない。不況になるとそうした事案が増えてしまう傾向にあり、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、不正・不祥事が起こりやすい環境が整ってしまった。

このような状況において企業に求められるのは、不正・不祥事が発生した際に、速やかに原因を究明し、対応策を講じ、いかに予防をするかを明確に説明することだ。これらの原因究明の際に活躍するのが「フォレンジックス」(forensics)である。

特に、電子情報の解析により事実解明を行うデジタルフォレンジックスでは、AI(人工知能)を活用することで原因究明の高速化・高度化も実現するという。

最近のフォレンジックスのトレンドや、企業に求められる取り組みなどについて、PwCアドバイザリー合同会社 パートナーでデジタルフォレンジックスを専門とする池田雄一と、PwC Japanグループ データ&アナリティクス/AI Labリーダーの中山裕之が語った。

PwC Japanグループ データアナリティクス AI Lab リーダー 中山 裕之(左)、PwCアドバイザリー 合同会社 パートナー 池田 雄一(右)

PwC Japanグループ データアナリティクス AI Lab リーダー 中山 裕之(左)、PwCアドバイザリー 合同会社 パートナー 池田 雄一(右)

なぜ、COVID-19の感染拡大で企業の不正が増えるのか

中山:池田さんは、PwCアドバイザリーのフォレンジックチームで、デジタルフォレンジックスを専門にしています。正直、一般的にはあまりなじみのない分野かと思います。そもそもフォレンジックとは何なのでしょうか?

池田:フォレンジックスは、米国発祥の概念で、何か事件が起きた際に、法執行機関が捜査に利用したり法廷に証拠を提出したりする方法論を指します。フォレンジックサイエンス(法科学)と呼ばれ、その応用分野の一つであるデジタルフォレンジックスは、日本では2005年ぐらいからデジタル化の普及により徐々に注目されるようになってきました。

中山:現在、COVID-19の感染拡大が長期化しています。フォレンジックスをとりまく状況はどう変化しているのでしょうか。

池田:COVID-19により景気が悪化している業界もあるかと思います。COVID-19による打撃を受けたことで、企業が売上や収益の減少を隠蔽するよう会計上の細工をしたり、生活に困った従業員が会社のお金を横領したりといった不正が起こりやすい状況になっていることは考えられます。

このような状況に加え、COVID-19によって内部監査担当者が出張に行けないため、証憑の原本を確認するといった運用が難しくなり、不正を検知しにくくもなっています。特に海外の現地法人ではプロキュアメント(購買・調達)の不正が起きやすいのですが、内部監査がリモートでしかできず、現地での調査ができないため、リスクも高まります。リスクを回避するためには数字などのデータをどのように見ていくかが非常に重要になります。

PwCアドバイザリー 合同会社 パートナー 池田 雄一

PwCアドバイザリー 合同会社 パートナー 池田 雄一

中山:こうした環境では電子情報を解析するデジタルフォレンジックスがより重要になるわけですね。フォレンジック調査が活用されるような企業の不正事案にはどのようなものがありますか。

池田:日本企業でよく起きるのが会計不正、いわゆる粉飾決算です。また、贈収賄や価格カルテルなども時折発生しています。また件数は多くありませんが、最近のトレンドとして品質偽装もあります。検査データを改ざんしたり、実際に検査をしていないにもかかわらず検査をしたと表示をしたりといった不正が相次いでいます。

AIを活用し、潜在的な不正のリスクを検知

中山:有事対応では、対応スピードとその内容によっては企業ブランドが大きく損なわれます。しかしながら、予算・時間・人員は無限ではなく、制約がある中で調査をしなければなりません。昨今の爆発的なデータの増大を考えると、AIなどのデジタルテクノロジーなしでは調査に莫大なコストと時間がかかってしまいます。一方で、これまでは不正案件が発生してからそれを解明する際にデジタルフォレンジックスを活用してきましたが、これからは不正の早期発見や防止にAIを活用することもできるのではないでしょうか。

池田:大いに期待できます。すでにPwCでも不正兆候検知データ分析である「Potential Risk Monitor(ポテンシャル・リスク・モニター)」というサービスを提供しています。これは、不正リスクの高い、購買、販売、経費の3つの観点から、想定されるさまざまなシナリオ、統計解析や検証モジュールなどをもとにデータ分析を行い、潜在的な不正リスクを検知するものです。

このほかにも、AIが会社の中を流れている数字やコミュニケーションをモニタリングすることで、リスクのありそうな事案などを事前に把握することが可能になります。全方位的に不正を検知するのは難しいところですが、会社にとって重大なインシデントに発展するような不正は限られていますので、これらに特化した分析の仕組みを作っていくことで、精度の高い検出もできるようになるでしょう。

中山:ちなみにPwCアドバイザリーのデジタルフォレンジックスチームは、どのような特長を持っているのでしょうか。

池田:私たちの特徴的なところは、これまで培ってきたフォレンジックスの経験や知識をITやAIの技術と組み合わせ、実績に基づいた価値の高いツールやソリューションを提供できることです。

それが実現できるのは、私たちのチームにはフォレンジックスの専門家だけでなく、データサイエンティスト、アプリケーションエンジニアなど広範囲にわたるスキルを有する専門家がいるからです。これからもチームで力を合わせて、今までにないようなデジタルフォレンジックス関連のツールや価値のあるソリューションを生み出し、日本企業を支援していきたいと考えています。

中山:冒頭に述べたようにCOVID-19による不況で、不正や不祥事が起きやすい状況になっています。企業のリスク管理の観点からも、AIを活用した不正兆候検知などは、今すぐにでも着手すべきタイミングではないかと考えます。この先も何事もないことが一番ですが、インシデントがビジネス継続の成否に直結する社会において、何かあったときに迅速かつ誠実に対応するためにも、AIを活用したフォレンジックスを導入すべき時代になったと言えますね。

※本稿は、Forbes JAPANに掲載されたPwCのスポンサードコンテンツを一部変更し、転載したものです。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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主要メンバー

中山 裕之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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池田 雄一

パートナー, PwCリスクアドバイザリー合同会社

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