DXの取り組みを生み出すには―若手職員による「VRを活用した不正体験研修プログラム」の開発を例に

2021-07-20

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。

ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。

※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

経験しがたい経験を積む - 不正と向き合う監査人

会計監査は、その実施を通じて重要な虚偽表示を看過しないこと、つまり企業活動の成果としての財務諸表が適正に表示されているかどうかについて意見を述べることを目的としています。重要な虚偽表示の要因となり得るものには、単純なミスである「誤謬(ごびゅう)」の他に、経営者や企業の従業員が意図的に財務報告数値や開示情報をゆがめる「不正」があります。この不正を防ぐために、企業における内部統制およびガバナンスの構築や、また私たち監査法人による独立した立場からの外部監査の実施が求められています。

経験豊富な監査人であれば、業務に従事する期間の長さに応じて不正に出会う可能性も増加しますが、経済の発展とともに企業を取り巻くガバナンスも高度化しており、経験が乏しい若い年次の監査人が不正の発生する状況に直面する機会は少なくなっていると考えられます。

実際に不正と対峙した監査人には、強い精神力をもって毅然と対応することが求められます。しかし、このような姿勢は経験によって培われる側面があるのも事実です。変わりゆく環境の中で、不正に対する経験を積み、十分に備えるためにはどうしたら良いのでしょうか。この課題を解決するために、PwCあらたでは「バーチャルリアリティー(VR)を活用することで、経験の浅い監査人にも不正に対する経験を積む機会を作る」というコンセプトを掲げ、不正体験研修プログラムを開発するプロジェクトを始めました。

VRを活用した不正体験研修プログラムの開発と浸透

この研修プログラムの開発にあたっては、若手職員が自ら”法人をより良くするためのプロジェクトを推進したい”という声を上げてくれたことを起点として、マネジメントを含む、経験あるメンバーが、その声を支える形でのプロジェクト推進を行っています。そして、より効果的なプログラムを創り上げるため、数多くの不正事例や第三者委員会報告書などをもとに情報を集め、実際の監査現場で起こりそうな、現実味のある不正シナリオを構築しました。また、VRの特徴である没入感を高めるため、実際の撮影にあたっては、法人内部の人員や機材だけではなく、外部のビジネスパートナーのご協力を頂きました。完成したVRの動画は約10分です。

研修プログラムの浸透にあたっては、まずは入社間もないスタッフ数名に対してのパイロットを実施しました。その後、法人内部の研修部門と連携し、VR映像を組み込んだ不正体験の研修プログラムとして完成させ、若手スタッフに対する全社的な展開を行っています。

パイロット研修実施時の 様子

パイロット研修実施時の様子

DXにおけるコア戦略と創発的戦略―挑戦を支える文化の醸成

前段の通り、本プロジェクトは入社間もないメンバーが企画・開発・推進の各フェーズを主導したものであり、メンバーの「自分たちの法人を、自分たちの力で変えたい」という声から始まったものです。

これを実現したのは、PwCあらたが定義し、その浸透と推進を図っている以下の「プロフェッショナルカルチャー」にあると考えます。

  • Speak Up & Action - 常に“正しいこと”を行うために声を上げ、個々人が主体となって行動をする
  • Listen Up - 新しいこと・違うことを、まずは受け入れ、新たな挑戦へとつなげる
  • Follow Up - Speak Upで上がった声について、皆で支援をする

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、組織経営の中で限られた領域だけが影響を受ける取り組みではなく、長期的な観点では企業のビジネス全体がデジタルへと変貌を遂げていくプロセスであると考えられます。その中で、ビジネスの基幹となる領域の大規模なトランスフォーメーションは、組織経営におけるコア戦略であるがゆえに、十分な経験と実績を積んだメンバーでチーム組成を行うことが定石です。しかし、比較的規模も小さく、新たな領域での創発的なトランスフォーメーションであれば、次世代を担う若手職員の「挑戦の場」として機会を創出することが可能であると考えます。

本プロジェクトはまさに若手の挑戦の場だったと言えます。その機会を創出できた鍵は、先に触れた私たちのプロフェッショナルカルチャーの「Listen Up」と「Follow up」にあると考えます。経営課題についてマネジメントレベルだけで議論するだけでなく、中核世代、未来を担う世代を交えたコミュニケーションを積極的に行うことによって、お互いがそれぞれの世代の想いを聴き入れ、それを個々の経営課題の解決と結びつけることが可能となります。多様性を議論するにあたっては、現代は「世代間の違い」にもスポットライトが当たります。世代を超えて忌憚ない意見を交わし、経営ビジョンを共有し、力を合わせ進んでいくことが、人を中心とした組織経営にとって重要な要素となると考えられます。

デジタル社会で私たちが目指すべき姿

不正体験研修プログラムのリリース後、国内外から多くの反響を頂きました。その理由のひとつは、比較的新しいVRという技術を、ともすれば伝統的と考えられる監査と結びつけたことにあったと考えます。時代の先端を捉え、リスクを許容可能な範囲に逓減しながらも、挑戦を続けていくという姿勢は、監査におけるリスク評価やリスク対応の在り方に通じるものがあります。そしてこの考え方は監査のみではなく、刻々と変化するさまざまなビジネスの現場にも適用することができます。

今回の研修プログラムでは過去の不正事例に基づいてシナリオを構築しましたが、将来的には、会計における不正の方法も大きく変わってゆくと想定しています。私たち監査法人には、今後経済環境がどのように変化し、その結果として企業活動やビジネスモデルがどのように変わっていくのか想像をめぐらせ、監査の在り方や私たちの存在意義について考え続けることが求められます。ADAPT*1に代表される環境変化の中で、社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する存在として、私たち自身も変化と挑戦を続けていく組織でありたいと考えています。

*1:ADAPT - PwCは、今日の世界が直面する5つの喫緊な課題とその影響を「Asymmetry(非対称性)」「Disruption(破壊的な変化)」「Age(人口動態)」「Polarisation(分断)」「Trust(信頼)」に整理しています。https://www.pwc.com/jp/ja/issues/adapt.html

PwCあらたのデジタル研修については以下もご覧ください。

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執筆者

中釜 和寿

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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