Space Business Insights 2020

第1回 序論と宇宙空間における衣食住のこれから

グローバルで盛り上がりを見せている宇宙ビジネス。デジタル技術の発展により、宇宙産業には従来の政府機関・大手企業に加えて、有望なスタートアップが数多く登場しています。本インサイトでは全5回の連載を通じて「宇宙空間での衣食住」をテーマにトレンドやビジネスチャンスを考察します。

1.宇宙ビジネスの概況、市場規模

バリューチェーンの構造

宇宙産業のバリューチェーンは古くから大きく3つに分類されます。

  • 「アップストリーム」は主に宇宙空間に提供されるサービスです。ロケット製造・射場や宇宙インフラ(人工衛星など)の製造関連の他、打ち上げにかかわる管制などのサブシステムと軌道サービスが含まれます。
  • 「ミッドストリーム」は衛星の運用やリース、データに関する送受信・保存・販売などが含まれます。
  • 「ダウンストリーム」は宇宙インフラの活用と宇宙関連のエンドユーザー向けサービスが含まれます。

宇宙産業のトランスフォーメーション

近年、産業構造が変容していく中で、欧米宇宙セクターの事業者は、人工衛星の製造や通信などの宇宙インフラからエンドユーザー向けサービス、製品に至るまで統合したアプローチを取り入れるように変革してきています。例えば欧米の航空機メーカーや衛星製造メーカーは、通信、リモートセンシング衛星の製造から、管制、データプラットフォームサービス、AIインテリジェンスの提供までサービスを展開しています。企業は一連の水平統合や垂直統合を通じてバリューチェーン全体にポートフォリオを拡大することで適応しています。

政府機関と民間企業の役割

従来、宇宙セクターは限られたプレーヤーのみが担っており、需要のほとんどは政府系宇宙機関によるものでした。宇宙セクターの民営化の流れは、1990年代における衛星通信事業に起因します。2016年までは依然として80%以上の投資は公的機関によるものでした。しかし、テクノロジーの発達によりロケット開発や衛星打ち上げコストが大幅に低下、さらにデジタル技術の発達により衛星から得られるデータへの注目が高まっています。こうした時代の変化を背景に、民間企業の参入が比較的容易になり、宇宙産業に魅力を感じるプレーヤーが大幅に増えました。その結果、昨今は新しい民間投資が増えており、ロケットや人工衛星の製造・打ち上げの領域でも新規の民間企業が参入し、宇宙産業の構造が官から民へ移行しています。例えば日本の放送通信衛星の打ち上げには、民間企業の打ち上げサービスが利用されるようになりました。ただし、民間企業の役割が拡大しているものの、依然として収入源の多くは公的機関からの需要であり、今後も同様であろうと予想されています。

新たなプレーヤーの出現

宇宙産業のトランスフォーメーションでもみられるように、近年はアップストリームからダウンストリームまで一貫してターゲットとした革新的なビジネスモデルを展開する民間企業が出現しています。彼らは、大型で高機能の従来型アプローチと比較して、低コスト、更新可能、コンステレーション化(小型衛星を多数打ち上げて、衛星間の連携により、広範囲または高頻度での観測・通信を可能とする仕組み)などに重点を置いた方法論を採用しています。エンドユーザー向けのデータ利活用サービスに焦点をあてながら、低リスクかつ短いサイクルで人工衛星の開発製造が可能となる垂直統合型が特徴となっています。エンドユーザー向け新しいサービスの展開により、ベンチャーキャピタルファンドや非宇宙系企業の投資機会を増やし、ダイナミックな成長過程にあります。

2.宇宙空間への進出 トレンド

バリューチェーンの各段階・市場において規制、ビジネス、技術的な構造変換が起こりつつあります。急速な環境の変化に伴い、宇宙産業も大きな変革を迎える時期に突入しています。

規制(ガバナンス)

各国において規制制度が大きな変化を迎えようとしています。デジタル化社会が拡大し「アプリケーション駆動型」や「ユーザー志向型」のサービスが求められる潮流の中で、政府機関としてもこれらの変化に対応する動きがみられます。例えば、標準化や規制の緩和、政府間協力フレームワークやデータのオープン&フリー化などがあげられます。このような積極的な公的機関の宇宙市場への関与が各国のプレーヤーの経済活動を許容しています。

ビジネス

グローバルにおけるITの巨人たちが自身の経済圏を拡大するにあたって、宇宙は非常に魅力的な市場となっています。まさに著名な社会起業家などは地球の人口爆発に起因するさまざまな社会課題の解決を掲げ、宇宙開拓ビジネスを進めています。実際に世界における宇宙産業市場規模は2030年代には70兆円に達するとみられています。このため、多くの投資家たちも先行者利益を得るために宇宙産業への投資を加速させています。

テクノロジー

旧来より宇宙セクターは革新的な技術を取り入れてきましたが、リスクが大きいため成功した技術を大きく変更することが困難でした。しかしながら、100基を超える小型衛星を打ち上げて衛星インターネットを構築する「メガコンステレーション」や、クラウド化された衛星データサービスの提供などが、エンドユーザーの費用対効果に見合ったイノベーティブなモデルとなり、生産ラインのモダニゼーションやリスク低減プログラムの構築などに取り入れられています。

3.各国の宇宙空間に対するアプローチ

テクノロジーの進化や制度整備が進む中で、宇宙経済圏をめぐるビジネスが活性化してきています。各国政府機関としては直近では豊富な資源が見込まれる月面の開発に注力しており、その中で宇宙経済圏を形成していく動きがみられます。特に米国、中国、ロシア、EU、日本では2020年前後から月面開発を本格化し、2040年までには火星探索や月資源開発の拠点を開発することを計画しています。

各国の動向:米国

宇宙開発でも代表的な取り組みは米国のアルテミス計画であり、2024年にまでに水氷資源などの存在が示唆されている月面南極域への着陸を計画、2028年までに持続的な月面探査を実施、2030年代で火星への有人飛行を可能にするための能力を培っていくことを目指しています。かつてのアポロ計画とは異なり、国際パートナーや民間企業とも協力して計画を進めています。

各国の動向:中国

中国はすでに月の裏側への探査機着陸を世界で初めて成功させ、2020年代に月の南極に研究用基地を建設する計画を進めています。今後の月面探査機「嫦娥(Chang'e)」シリーズの打ち上げも表明しており、月面開発に引き続き注力していくことが伺えます。

各国の動向:ロシア

宇宙先進国であるロシアの存在も忘れてはなりません。ロシアは2030年までに月へ有人の遠征隊を送り、月の南極付近に基地を建設して資源採掘を開始予定しています。具体的には3段階で月面基地開発を進めていきます。2025年までに無人探査機で月の極軌道を周回、月極域で最終的な有人探査の候補地への着陸、月表面から2mの深さまで掘削とサンプル調査を実施、2030年までに月軌道への周回飛行を開始、2040年までに有人の月開発を開始し、月資源を使った基地を建設、月面天文台や地球観測施設の基礎を構築、月面基地完成後はアバターロボットを用いて遠隔操作で月を探査していきます。

各国の動向:EU

EUも将来的な月面滞在や生活圏の構築を検討しており、2025年までに月面で水や酸素を作ることを計画しています。他国と異なる点としては月面開発に民間企業の活用を重視している点です。月面観測のための移動用ロボットや月面着陸用宇宙船(ランダー)は民間企業を登用して行う予定です。

各国の動向:日本

日本はEUに近いスタンスで月面開発を目指しており、民間企業が存在感を発揮しています。一部の民間企業はMoon valley構想を表明しており、2040年に1000人の研究者や資源採掘にかかわる人々がMoon Valleyで生活すると想定しています。この他JAXAと大手自動車メーカーが有人月面探査車(ローバー)の作成を公表しており、民間企業の宇宙ビジネスへの参加が活発になってきています。

4.進む月面開発の国際協力と民間企業とのパートナーシップ

各国が2040年を目途に月面開発およびその先の深宇宙開発に注力していることが伺えますが、各国独自の開発だけでなく、月周回の有人拠点としてのGateway開発を米国、カナダ、EU、ロシア、日本など各国が共同して進めています。コストや技術面から国際的な協力体制から進めることが得策であると判断されています。

2020年代には月探査の有人拠点であるGatewayに複数人が数カ月生活し探査を進めていくことを想定しています。2030年代には各国が月面(特に極域)に対して開発拠点や研究施設として基地を設立し、2040年にそこで多くの人々が生活することを想定しています。2040年代以降では月で生まれる世代の登場も考えられています。

月人口に関しては明確に算出されているケースは少ないですが、一部では2040年には1,000人が月面で生活し、年間1万人の観光客が訪れることを想定しています。1,000人は経済規模としては決して大きくないですが、生活基盤を充実させることで経済圏の拡大が見込まれる点においては非常に魅力的な市場といえるでしょう。

5.衣食住分野における宇宙ビジネスの広がり

多くの居住者や観光客が月に訪れる際に重要となってくるのが衣食住の問題です。1着2億円する動きにくい宇宙服、簡素な宇宙食、狭い居住空間では人間は長期間暮らしていくことは難しいです。今後の宇宙開発の発展には宇宙空間でのQOL(Quality of Life)の向上が不可欠になってきます。実際に衣食住の分野でも各国の宇宙機関や民間企業が協力してさまざまな取り組みを開始しています。

宇宙空間における衣食住の領域は、ロケット開発など宇宙に関する高度な専門性を求められる領域とは異なり、これまで地球でサービスを提供してきたプレーヤーがまだまだ参入していける分野です。まさに世界的に宇宙開発の機運が高まっている現在こそ、新規参入のチャンスとなっています。

実際に大手建設会社が手掛ける宇宙ホテルやSpace Food X(スペースフードエックス)のような宇宙食ビジネスは、今後の宇宙空間での生活に焦点をあて、取り組みを始めているケースです。

今後4回にわたって連載していく本インサイトでは、日本や世界各国の事例も交えながら衣食住分野における宇宙ビジネスの可能性を模索していきます。

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主要メンバー

大塚 泰子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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永金 明日見

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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