
LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年6月1日~7月15日)
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号ではICMSAが行ったシンセティックLIBORとディーラー投票に関する告示のほか、CDORの公表停止にかかる市中協議、米ドルLIBORスワップ取引の動向について解説します。
国際資本市場サービス協会(The International Capital Market Services Association : ICMSA)は、パネル銀行方式のLIBOR移行時のシンセティックLIBORの使用とディーラー投票のメカニズムに関する告示(bulletin)を行い、パネル銀行が投票に応じる(または応じない)ケースを明確にする取り組みを支持するとしました。ICMSAは、ディーラー投票は、シンセティックLIBORを参照できない、あるいはシンセティックLIBORの公表期間よりも満期が長くなる一部の契約にのみ適用されると考えられるものの、複数のICMSA会員が、立法措置によりこのような投票を廃止するように訴えているとしています。
ICMSAはこの告示において金融行為規制機構(FCA)のEdwin Schooling Latter氏のコメントを引用し、「関連するLIBORテナーの公表が停止している状況でのディーラー投票メカニズムによるLIBORベースの金利情報の取得は、適切でも実用的でもない」という幅広い合意があることを示唆しています。しかしながら、契約上の取り決めの履行にディーラー投票が必要になる状況もあり得ることから、ICMSA会員は、こうした問題をより明確にする規制上のガイダンスの作成に向けた取り組みを強く支持しています。
ディーラー投票の問題は、移行の進捗とともに発生するであろう運用上の微妙な問題の最後の1つということにはならないでしょう。ディーラー投票にどのように対応するか、また対応するか否かという問題は、問題の一部に過ぎません。一方で、管理エージェントは、既存のフォールバックの下で契約上要求されているディーラー投票を試みるにあたっての自分たちの義務が何であるか疑問に思うかもしれません。フォールバックが適用される最初のリセット日にディーラーの反応がなかったとしても、契約が満期を迎えるまで、将来のリセット日ごとに同様の(おそらくは無益な)投票を試みるように求められるのでしょうか。
このような特別なケースにおける解決策としては、EUや米国で導入されているタフレガシーエクスポージャーに対する立法的解決策の方がより洗練されていると言えるでしょう。この法律は、ディーラー投票を含むLIBORに基づくフォールバックを事実上無効にします。
契約書の文言にかかる問題について、企業はこれまでと同様に、契約書に含まれる条項を詳細に理解することが求められます。この問題に関して、追加の規制ガイダンスあるいは法律が制定されるかは分かりません。しかし、万が一そうなった場合には、契約条項をあらためて分析する必要が出てくるでしょう。
リセット日を繰り返す中で、他の運用上の問題が発生する可能性もあります。ディーラー投票の問題は、公表停止日を過ぎたLIBOR通貨であっても、LIBOR移行プログラムの継続的なサポートとリソースが必要となる可能性が高いことを再認識させるものです。企業は、コミュニケーションチャネルを維持し、業界団体と交流するとともに、アドホックな問題に対応できるリソースを確保しておくことで、今後数カ月で発生する問題に対応することができるでしょう。
Refinitiv Benchmark Services Limited(RBSL)は、カナダ銀行間取引金利(CDOR:Canadian Dollar Offered Rate)の残りのテナーの公表停止に関する協議文書を発表しました。この協議は、カナダ代替参照金利(CARR)ワーキンググループが先日発表したホワイトペーパー(2024年6月30日以降、CDORの公表を停止することを推奨)を受け実施されるものです。
RBSLは、CDORの公表停止により生じ得る問題や、公表停止日に関する懸念について意見を求めています。加えてCDORの代替金利指標が全てのユースケースを適切にカバーしているかどうか、また、CARRが提案するCDOR移行への2段階アプローチについて、市場参加者からのフィードバックを求めています。CARRはホワイトペーパーの中で、デリバティブと証券は2023年6月までにCDORの推奨代替金利指標であるカナダ翌日物レポ平均金利(CORRA)に移行し、その後、実際の公表停止日に合わせて残りのエクスポージャーの移行を完了させるべきと提案しています。
協議文書への回答期限は2022年2月28日となっています。
今後、事態は一気に動き出すことになるでしょう。振り返ってみれば、ICE Benchmark Administration(IBA)が2020年12月にLIBORの公表停止について協議を開始した際、ベンチマーク停止の正式発表は協議終了からわずか1カ月後に行われました。これと同様に、Refinitivの協議終了後、比較的短期間のうちにCDORの公表停止に関する発表があることを市場参加者は想定しておくべきでしょう。
CARRのスケジュール案が採用された場合、デリバティブの移行完了目標日まであと17カ月しかありません。CDORをカバーする国際スワップデリバティブ協会(ISDA)のIBORフォールバックプロトコルは、移行を促進する上で大きな役割を果たすと思われます。新規発行のキャッシュ商品におけるCDORの使用停止という2023年6月末の2つ目のマイルストーンの達成は、さらに複雑な取り組みになるかもしれません。CDORの代替金利指標として推奨されるCORRAは、現時点においてデリバティブ市場以外ではほとんど使用されていません。
キャッシュ商品においてCDORの使用が中止された場合、新たな代替金利指標の開発や評価、必要なインフラの変更、金利変更に伴う顧客への説明などの課題が生じる可能性があります。米ドルキャッシュ市場のLIBORから担保付翌日物調達金利(SOFR)への移行が時に非常にゆっくりとしたペースで進んできたことに鑑みれば、カナダの金融機関は途方もない作業を前にしているように思われます。
LIBORと同様に、CDORの公表停止に関する(運営管理機関やその監督機関からの)正式発表が、ISDAのIBORフォールバックにかかるスプレッド調整の計算を開始するトリガーとなります。米ドルLIBORの場合、現在の超低金利環境において、このスプレッドを固定すると、米ドルLIBORとSOFRの間のスポットスプレッドよりもかなり大きなスプレッド調整が発生します。これにより貸し手と借り手が、現在のタイトなスプレッドと、米ドルLIBORが最終的に停止した際にフォールバックによって適用されるワイドなスプレッドとの中間点を模索するため、SOFRに関連したローンのプライシングが複雑になっています。同様の金利環境にあるカナダのキャッシュ市場も同じような課題に直面することになるでしょう。同時に米国市場は、実行可能な解決策に対する何らかの示唆やガイダンスを提供するものと思われます。
今回の市中協議は、CDORの公表停止に関する正式決定前に行われる唯一の協議となります。多額のエクスポージャーを持っている市場参加者や、重大な問題を予見している市場参加者は、今こそ声を上げるべきでしょう。
他の通貨の移行から学んだ教訓として、さまざまな業界団体や公的セクターが業界の意見に応えて数々の変更を実施したことが挙げられます。金利指標改革に関する協議は未踏の領域が多いため、他のテーマに比べて間違いなくより多くの変更がなされることになります。
デリバティブ市場におけるLIBORからSOFRへの移行が急加速しています。ISDAは、SOFRスワップの取引高が1月に初めて米ドルLIBORの取引高を上回ったと発表しました。2022年1月28日に終わる週のSOFRスワップの取引量は、米ドルLIBORの取引量を約25%上回りました。
SOFRベースのスワップ取引の取引高は一貫して高くなっていますが、想定元本については米ドルLIBORの方が依然として高いままです。同じ週の米ドルLIBORスワップの想定元本は、SOFRスワップの想定元本の2倍以上でした。
米ドルLIBORの取引高が減少する中での取引金額の増加は、ユーザー層の変化を示していると言えるかもしれません。エンドユーザーがSOFRスワップへの移行を進める一方で、米ドルLIBORによるマクロヘッジのニーズは継続しているようです。
米ドルLIBORスワップの取引はやがて、ダイナミックヘッジを採用する機関投資家ディーラーや、ポートフォリオヘッジを管理する大手金融機関に移行していくと思われます。米ドルLIBORの公表停止日が近づくにつれ、取引の減少に伴い、ビッドとオファーのスプレッドが拡大する可能性があります。結果、このような取引を依然として直接行おうとしている市場参加者の既存のポートフォリオにかかるLIBORリスクの管理コストは、あらゆる面で増加することになるでしょう。
※本コンテンツは、PwCが2022年2月に発刊した「LIBOR Transition Market update: January 1-31, 2022」の一部を抜粋し翻訳したものです。
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、カナダ銀行間取引金利(CDOR)の公表停止の発表と米ドルLIBORスワップの事前転換について解説します。
今号では米国財務会計基準審議会が発表したLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利を追加する提案の公開草案について取り上げます。
今号では米国におけるLIBOR法案の可決と、米国フェデラルファンド(FF)金利の引き上げによるSOFRレートの動き、ISDAのイベントにて業界関係者より発信された米ドルLIBORの公表停止に向けた対応などにかかるコメントを取り上げます。