LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年10月16日~10月31日)

今号では、2021年末の新規契約におけるLIBOR使用停止に向けて米国の規制当局が発出した当局間声明、ECが採択したスイスフランLIBOR・EONIAを参照するレガシー契約に対する立法的救済策などについて取り上げます。

1.米国のLIBOR移行に係る当局間声明

米国連邦準備制度理事会(FRB)は、消費者金融保護局(CFPB)、連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)、全米協同組織金融機関監督庁(NCUA)および各州の銀行規制当局と共に当局間声明を発表し、金融機関が基準金利としてのLIBORからの移行に向けた取り組みを継続する重要性を訴えました。最も広く使用されている米ドルLIBORのテナーは2023年6月まで発行されますが、規制当局は、既存ポジションのリスク管理のための限定的な例外を除き、米ドルLIBORに基づく新規契約の締結は2021年末で終了することを期待しています。また、新たなLIBORエクスポージャーを創出する契約や、既存契約の期間を延長する契約は、「新規」とみなされるべきであるとしています。しかし、2022年より前に締結された法的強制力のあるコミットメントファシリティの引き出しは、この定義には含まれていません。本声明では、代替金利指標としての適切性を評価するための考慮事項や、フォールバック条項への期待のほか、顧客やカウンターパーティとのコミュニケーション、代替金利指標による取引に向けたオペレーションの準備の重要性が強調されています。

監督当局は、代替金利指標の評価について、「代替金利指標の選択が適切であることを確認するために必要なデューデリジェンスを行うこと」が、金融機関による安全かつ健全な業務(safe-and-sound practices)への取り組みの一部と考えています。代替金利指標の適切性の評価に関する同様の期待は、同じ週の始め(10月18日)に発表されたOCCの移行準備自己評価ツールの更新における核となっています。Michael Hsu OCC長官代行はこのような期待を、米国代替参照金利委員会(ARRC)の第6回SOFRシンポジウムの開会あいさつの中で述べています。またHsu氏は、当局間声明で取り上げられた他の重要ポイントに触れ、2021年12月31日をもってLIBORの新規契約を停止するという規制当局の期待は「本気である」と述べています。

PwCの見解

米ドルLIBORが新規契約で使用できなくなるまで残り2カ月を切った現在、銀行の移行作業に切迫感を持たせようとするこの協調的な取り組みは驚くべきものではありません。当局間声明で示された代替金利指標の評価に関するガイダンスや「新規」のLIBOR契約の定義は、多くの監督当局のガイダンスがそうであるように、全ての事態に対応するものではありません。しかしいずれの場合も監督当局は、銀行がLIBORへの依存を解消するための取り組みを続ける上で、意思決定の指針となるより明確な枠組みを提供しています。

最近、規制当局は、米ドルLIBORに代わる追加金利オプションとして提案されている信用感応度の高い金利指標(CSR)について、主にLIBORとの類似性から、それらが持つ(LIBORと同様の)リスクに警告を発しています。これらの警告の中にはきわめて直接的なものもあればそうでないものもあり、一部の市場参加者は錯綜するメッセージに困惑しています。しかし、今回のガイダンスでは、CSRに対する規制当局の見解に解釈の余地はありません。例えば、ARRCのシンポジウムでのHsu氏の発言は、2021年初めの発言と比べても明らかに批判的なものです。Hsu氏はこれまでも銀行が選択した参照金利の適切性を示すことの重要性を説いていましたが、今やCSRに対して特に懸念を示す規制当局側の1人となっています。

CSRは一部の銀行においては資金調達リスクを管理する上で有用かもしれませんが、その一方で、当局間声明が提案するように、CSRの適切性を明示的に検討し、顧客に対して実証することは、他の金利指標よりさらに困難であると思われます。また市場参加者の中には、LIBORの「新規」使用の定義について、より厳格なガイダンスを望む声も出てくるでしょう。資本市場およびその金融商品は、時として非常に複雑であり、全ての状況において提示された定義を容易に適用することはできません。とはいえ、その原則は明確だと言えるでしょう。つまり、米ドルLIBORのエクスポージャーを、米ドルの絶対額、またはその期間の長さのいずれかの観点から積極的に増やした金融機関は、より厳しい監督を受けるだろうということです。

米国の銀行は、他国の銀行に比べて、代替金利指標の選択やLIBORエクスポージャーの削減について、より大きな力を与えられていると言えます。しかし、大きな力には大きな責任が伴います。銀行には、自行の決定に関する明確な説明、証拠の提示、そして一貫した行動を確保するための適切なガバナンスと監督が期待されています。金融機関は、公表停止日が近づくにつれ、監視の目が厳しくなることを想定しておかなければなりません。おそらく、今後20カ月間で準備が整っていることを十分に証明できない金融機関は、ますます厳しい結果にさらされる可能性があります。

2.スイスフランLIBORまたはEONIAを参照するレガシー契約に対する立法的解決策

欧州委員会(EC)は、スイスフラン(CHF)LIBORに対してスイス翌日物平均金利(SARON)ベースのスプレッド調整済み代替金利指標を、ユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)に対してユーロ短期金利(€STR)ベースのスプレッド調整済み代替金利指標を指定する、2つの施行規則を正式に採択しました。LIBORまたはEONIAの公表が恒久的に停止した場合、これらの指定金利指標は、LIBORの恒久的停止に対応する適切なフォールバック条項がないEU法が適用される契約および金融商品において、それぞれの参照金利指標に置き換わることになります。

EONIAは、€STRに8.5ベーシスポイント(bps)の固定スプレッド調整を加えたものに置き換えられます。EONIAは2021年末に終了することを見越して、すでに1年以上前から、€STR+8.5bpsで表示されています。

CHF LIBORの代替金利は、各テナーで異なります。国際スワップデリバティブ協会(ISDA)のIBORフォールバックプロトコルが採用する方法と同様に、代替金利指標には、過去5年間のCHF LIBORとSARONの差の中央値に基づくスプレッド調整が含まれます。この調整値は、英国金融行為規制機構(FCA)とICE Benchmark Administration(IBA)によるLIBOR公表停止の発表を受けて、2021年3月5日に確定しています。1カ月物 CHF LIBORは30日複利のスプレッド調整済みSARONに置き換えられます。3カ月物、6カ月物および12カ月物 CHF LIBORは、90日複利のスプレッド調整済みSARONに置き換えられます。スプレッド調整値は、置き換えられるLIBORインデックスのテナーの長さに応じて増加します。

PwCの見解

多くの市場参加者が安堵の深呼吸をすることでしょう。ユーロリスクフリーレート(RFR)に関するワーキンググループの過去の提言に沿ったEONIAに関するソリューションは、主にデリバティブ市場に関連するものですが、CHF LIBORベースの契約に関するソリューションは、(地域や契約の種類において)より広範囲に及ぶ重要性を持っています。スイス以外では、ユーロ圏のさまざまな地域の銀行がCHF LIBORベースの個人向け住宅ローンを提供しており、その契約額は約350億ユーロに達しています。中でもポーランドのエクスポージャーが最も大きく、オーストリア、スロベニア、オランダ、フランスの金融機関も大きなエクスポージャーを抱えています。

CHF LIBORのシンセティックLIBORは存在しないことから、今回のECの発表は、年末のCHF LIBORの停止により法的な担保がなくなるはずだった契約にセーフティネットを提供するものとなりました。ほとんどの契約者は、法的な解決策に頼ることは経済的なコントロールを放棄することを意味するため、引き続き積極的な移行が最善と考えると思われますが、契約修正の取り組みに遅れをとっている企業にはこのバックアップは確かに支援となるでしょう。

とはいえ、本法制に頼ることが、何もせずにすぐに実行できる解決策ということではありません。関連する法域のフォールバック条項やその他の契約条項などについて本法制の適用可能性を判断することは、必ずしも容易ではないからです。金融機関は、どの契約が本法制の適用範囲に入るのか十分に理解する必要があります。また金融機関の保有契約数によっては、オペレーション上の課題が残る可能性があります。ハードワイヤードフォールバックの運用と同様に、新しい金利指標をシステムに反映させるには、対応するガバナンス、プロセス、コントロールを整備しなければなりません。

長期テナーの代替金利を90日複利のSARONに限定することは、米国における変動金利モーゲージ(Adjustable-Rate Mortgage: ARM)をめぐる議論を彷彿とさせます。ここではEUのいくつかの消費者保護法が定めるのと同様に、対象金利計算期間にかかる利息について消費者が事前に把握できるようにする(金融機関が事前に通知する)ことが求められます。一方で、バックワードルッキング金利の金利参照期間と、その金利が適用される金利計算期間との間には、経済的な差異があると考えられます(対象金利計算期間より前の期間を金利参照期間とするため)。金利参照期間を長くすること、つまりより長期のテナーの代替金利を採用することにより、その差異による影響が拡大する可能性があります。

LIBOR公表停止日が迫っていることもあり、公的セクターは、資産クラス間で可能な限り公平かつ一貫した方法で、残存する問題を解決しようとしています。実際、司法措置、金利計算、商品を問わずどの課題に対しても、実装されたソリューションには驚くべき一貫性があります。ISDAのスプレッド調整を一律に一貫して使用することで、不確実性が取り除かれ、予測が可能となります。

3.ISDA北米地域カンファレンス

先日開催されたISDAの地域カンファレンスでは、LIBOR移行が話題となりました。事前資料の中で、ニューヨーク連邦準備銀行(FRB NY)のNate Wuerffel上級副総裁は、2021年内に米ドルLIBORの新規使用を終了するという監督官庁のガイダンスは、「非常に限られた例外を除いて、絶対である」と述べています。以下では、Wuerffel氏のスピーチと続いて行われたパネルディスカッションに関するISDAのTwitter投稿の一部を紹介します。

「LIBORの終焉に備えましょう。年末の監督上の期限(supervisory deadline)に確実に間に合うように、米ドルLIBORの新規使用を積極的に控え、また、米ドルLIBORの代替金利指標を選択する際には、その選択肢を慎重に検討しましょう」

Nate Wuerffel氏

「銀行は、LIBORの使用を減速させながら停止に向かうでしょう。企業は今から時間をとって、2021年末以降の世界をどう見ていくのかをしっかり理解するよう努めるべきです」

Tom Wipf氏

「今もなお米ドルLIBOR契約を締結している企業には、LIBORの公表停止に備えて今すぐ行動することを強く勧めます。代替金利への移行を、12月まで待っていてはいけません」

Nate Wuerffel氏

「LIBORに似ているという理由だけで参照金利指標を選択することは、非常に残念な結果を招く可能性があります」

Nate Wuerffel氏

「ターム物SOFRを参照するキャッシュ商品のヘッジ手段に、ターム物SOFRを参照するデリバティブしか使えないことを考えると、これは一方通行の市場になりかねません。ベーシスリスクを管理することはできますが、市場の片側にしかリスクを蓄積できない市場というのは他にはあまりありません」

Thomas Pluta氏

「米ドルLIBORからの移行が遅れると、財務上、業務上、風評上のリスクが生じ、2021年末の監督上の期限に間に合わなくなる可能性があります」

Nate Wuerffel氏

※本コンテンツは、PwCが2021年11月に発刊した「LIBOR Transition Market update: October 16-31 , 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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