LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年10月1日~10月15日)

今号では、キャッシュ市場で進む貸出金利としてのSOFRの利用と米国住宅都市開発省によるLIBOR移行にかかる規則作成事前公示について取り上げます。

1.キャッシュ市場(ローン、債券など)でのSOFR利用拡大

ターム物担保付翌日物調達金利(SOFR)を当初から参照する初のレバレッジドローンの詳細が、規制当局への申請書類により明らかになりました。このローンは、「SOFR調整(SOFR adjustment)」と従来のクレジットスプレッドの両方を別々に組み込んだ金利設定となっており、スプレッド調整後SOFRにフロアが適用されています。

SOFRはこれまで、債券発行、リボルビングクレジットライン、相対ビジネスローン、シンジケートローン、消費者ローンなどに利用されてきましたが、今回そこにレバレッジドローンも加わりました。米国代替参照金利委員会(ARRC)はプレスリリースの中で、SOFRの貸出金利としての利用拡大の道を切り開いた金融機関の努力を称賛する一方で、その他の全ての市場参加者に対し、LIBORへの依存度を下げるよう呼びかけています。今回の発表では、2021年内に米ドルLIBORの新規使用を終了するという規制当局の期待に応えるために、「今後6週間がそのような活動を減らすための重要なウィンドウ期間になる」ことを強調しています。

PwCの見解

これまでもSOFRを参照する相対ローンは水面下(非公表)で行われていますが、公開されたシンジケートローンで利用されることで、このような取引の仕組みの透明性が高まります。今回公表された条件は変更される可能性があります。実際、最近の報道では、このローンの金利設定は、発行者と投資家の間で議論の余地があると言われています。ただし今回の取引の仕組みは、今後、類似取引がどのように行われるかをいち早く示したものと思われます。

リスク・フリー・レート(RFR)がさまざまな商品で使われるようになったことにより、コンベンションの進化が続いています。RFRに連動する最初の変動利付債(Floating-Rate Note:FRN)が市場に登場した際、発行者は利息計算に関しさまざまなコンベンションを試行していました。その後、発行件数や発行額が増加するにつれ、市場のスタンダードは徐々に収束していきました。貸し手、借り手、投資家が新しいRFRベースのローンに関する金利設定を模索する中で、そのような商品の金利設定や文書化の方法についても同様の試みが行われると予想されます。

今後も検討が続くと思われるコンベンションは、マイナス金利に対応するフロア設定とスプレッド調整です。今日では、スプレッド調整は、新しいSOFRベースの世界になじみのない人々に対してLIBORとの比較可能性を提供するものとなっています。しかし、2023年6月末より後は、米ドルLIBORの公表停止により、このようなスプレッド調整の必要性はなくなります。実際、2021年末以降は新規のLIBOR取引が認められないことを考えると、新規のSOFR取引の金利設定はもはや新規のLIBOR取引と比較することができなくなるため、(LIBORと比較するために)別途スプレッド調整を見積もる意味がなくなります。

2.米国住宅都市開発省(HUD)のLIBOR移行にかかる規則作成事前公示(ANPR)

米国住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development: HUD)は、連邦住宅局(Federal Housing Administration: FHA)が保証するフォワード変動金利モーゲージ(Adjustable-Rate Mortgage: ARM)およびホーム・エクイティ・コンバージョン・モーゲージ(HECM)におけるLIBOR移行についてのコメントを求める規則作成事前通知(Advance Notice of Proposed Rulemaking: ANPR)を公表しました。HUDは、HECMプログラムにおいて、(米ドルLIBORの代替として推奨されている)SOFRを採用し、そのモデル文書における契約上のフォールバック条項を更新すると発表していました。

HUDは今回の通知で、新規のフォワードARMおよびHECMの代替金利指標への移行を成文化する計画と、既存ARMのLIBOR移行の最適なアプローチについて、コメントを求めています。検討が必要な課題の1つに、フォワードARMとHECMでアプローチを変えるべきかという問題があります。コメントの提出期限は12月6日となっています。

PwCの見解

HUDの提案は、コンフォーミング・モーゲージ・ローン発行市場におけるLIBOR移行の完了に必要な最終フェーズを示すものです。すでに連邦抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は、2020年12月31日をもってLIBOR連動型ARMの購入を中止しており、2020年第4四半期にはSOFR連動型ARMで構成された最初の証券を発行しています。

主にローン投資家、オリジネーター、サービサーの関心事となるべきこのANPRは、フォワードARMの発行が非常に少なくなっている時期に発表されました。2021年9月、政府抵当金庫(ジニーメイ)は728億米ドルの住宅ローン担保証券(Mortgage-Backed Security:MBS)を発行しました。そのうちのわずか2,800万米ドル分がARMであり、その全てが米国変動利付国債利回り(Constant Maturity Treasury:CMT)に連動していました。このように、代替金利指標への移行は、少なくともすぐには、住宅ローン業界に大きな業務上の混乱をもたらすことはないと考えられます。

ジニーメイの変動利付MBS商品は、CMTが退役軍人省(VA)保証の住宅ローンに認可された唯一の変動金利指標であることから、今後もCMTにインデックスされたARMが担保となると思われます。HECMの発行市場は、2021年初頭にCMTに移行し、9月には9億米ドル以上のHECMローンを発行しています。

今回のANPRの公表により、FHAが保証する変動金利のフォワードモーゲージやリバースモーゲージなどのローン商品と、ジニーメイの証券化ビークルとの間の整合性が図られる可能性があります。ジニーメイは、2020年9月の時点で、「保証を行う政府機関(insuring agencies)の認可が得られれば、SOFR ARMおよびHECMローンを含むローンプールを担保としたシングルクラスMBSの組成を促進する準備はできている」と述べていました。その準備が完了しつつあります。

HUDは、米ドルLIBORに代えてスプレッド調整後のSOFRを参照レートとする提案についてコメントを求めています。ARRCが消費者向け商品の参照金利指標としてターム物SOFRを推奨していないことから、翌日物金利であるSOFRが代替金利指標として用いられる可能性が最も高いと考えられます。

LIBOR連動証券を含むLIBORベース商品の新規発行の終了期限である2021年12月31日が間近に迫っています。今回のANPRによってHUDは、米ドルLIBORに代わる金利指標に対する業界の要望だけでなく、新しい金利指標を導入した場合に、住宅ローンのサービシング業務、必要書類、情報開示、コミュニケーション戦略にどのような影響があるのかについて、理解を深めることができると思われます。

※本コンテンツは、PwCが2021年10月に発刊した「LIBOR Transition Market update: October 1-15 , 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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