
LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年6月1日~7月15日)
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループが更新した移行ロードマップ、公表が開始されたターム物SONIA、LIBORベースのデリバティブ移行にかかるCCPの対応について取り上げます。
英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループ(Sterling RFR WG)は、LIBOR移行のロードマップを更新し、2021年の最優先事項を発表しました。これと併せてSterling RFR WGと英国金融行為規制機構(FCA)が発表したプレスリリースには、企業が今すぐ行動を起こすとともにLIBOR移行を先延ばししないことの重要性を強調する英国銀行規制当局の声明が含まれています。
更新されたロードマップでは、次のような市場のマイルストーン(推奨)が示されています。
米国の銀行規制当局が発表したガイダンスと同様に、Sterling RFR WGは、上記の目標期日以降であっても、既存ポジションのリスク管理を目的としたLIBORベースのデリバティブの新規契約が適切な場合があることを認めています。
今回のロードマップの更新は、英ポンドLIBORの公表停止への対応に取り組む企業に向けた従来のガイダンスや期待を大きく変えるものではありません。市場関係者は、ICE Benchmark Administration(IBA)のLIBOR停止にかかる市中協議から数週間以内に公表停止期限を確定し、ISDAプロトコルの下で適用されるスプレッド調整値を明確化する発表があることを期待しています。最新のロードマップは、今後数週間から数カ月にかけて、LIBOR移行を進める上で全ての組織がとるべき、また銀行やその他の金融機関に対して期待すべき、実践的なステップを改めて示すものです。
Sterling RFR WGが提案する「2021年第3四半期までに、可能な限り既存のLIBORエクスポージャーの契約修正を完了する」というマイルストーンが、前回の目標期日から後ろ倒しされたものであることに気づいた関係者もいることでしょう。前回のロードマップでは、2021 年第 1 四半期末までに「LIBORベースの契約を大幅に削減」することが示唆されていました。しかし、このロードマップの変更を理由に、レガシーLIBORエクスポージャーの削減を遅らせるのは危険です。LIBOR停止まで残された時間が限られていることを踏まえ、特定の暫定的な期限に向けて対応するのではなく、可能な限り既存のエクスポージャーの移行作業を早めるべきです。
今回のSterling RFRWGの発表に、英イングランド銀行(BoE)とFCAが参加し、推奨マイルストーンへの支持を表明していることから、規制当局が目標期日に向け進展がないことについていつまでも寛容な姿勢を保つと期待しないほうがよいでしょう。繰り返し述べているように、市場参加者は、経済的なコントロールを維持し、立法的解決策への不確実性に対処する第一の方法として、LIBORエクスポージャーの削減に取り組むべきです。
RefinitivとIBAはそれぞれ、英ポンドLIBORに代わる推奨代替指標金利であるポンド翌日物平均金利(SONIA)のフォワードルッキングなターム物金利の公表を開始しました。SONIAは後決め翌日物金利であることから、SONIAを参照するデリバティブ取引の市場価格に基づいてフォワードルッキングなターム物金利を算出しています。
英国の銀行規制当局とSterling RFR WGは、ターム物金利を必要とするのは、英ポンドのローン市場のごく一部に限られるという見解を繰り返し表明してきました。前述した更新ロードマップの一環として、Sterling RFR WGはFICC Markets Standards Board(FMSB)と緊密に協力してターム物金利を「適切に限定的に使用するための市場基準」の策定を進めていることを発表しました。この基準は、今年2月に市中協議の形で公表される予定です。
米国では、引き続き多くの市場参加者が、担保付翌日物調達金利(SOFR)に基づくデリバティブの流動性が高まることで、頑健なフォワードルッキングなターム物SOFRの構築が可能になると期待しています。米国代替参照金利委員会(ARRC)は、SOFRを参照するデリバティブ市場の流動性が十分に高まることを前提に、実務で利用可能なSOFRターム物金利を公表する目標期日を2021年第2四半期に設定しています。なお、ターム物SOFRの参考値(ベータ版)は2020年10月から公表されています。
欧州では、ユーロ短期金利(€STR)を参照するデリバティブ取引の市場価格から、フォワードルッキングなターム物金利を算出・公表するために、ベンダーが同様の提案をしています。しかしながら、参考値はまだ公表されていません。日本では、2020年10月より、日本円のオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)から算出されたターム物金利の参考値が公表されています。
ターム物SONIAは、複数のプロバイダーが2020年7月から参考値を公表しており、約6カ月間のベータテストを経て確定版が公表されることになりました。
一部の市場参加者は、LIBORの代替としてのフォワードルッキングなターム物金利の必要性を声高に主張してきました。英ポンド市場に関してSterling RFR WGや英国の銀行規制当局は、ターム物金利を必要とする商品は貿易金融、中小企業や個人向け融資などのごく一部であると考えていることを明言しています。直近の Sterling RFR WGの議論では、ターム物金利の使用抑制が優先事項とされていますが、「市場基準」がターム物金利の使用制限にどの程度の効力があるかは不明です。
ターム物SONIAの公表は、米ドル市場においても、頑健なターム物SOFRの開発ができるという自信につながる可能性があります。しかし米国の規制当局は、英国の規制当局と同様の懸念を表明しており、市場参加者には可能な限り後決め複利SOFRを利用するよう促しています。ターム物SOFRを主な解決策として検討している企業は、ターム物SOFRの確定版の公表時期と、銀行は「米ドルLIBORを参照金利とする新規契約の締結を可能な限り早急に中止する」という規制当局の期待が一致するか、慎重に検討すべきでしょう。ターム物SOFRの参考値(ベータ版)の提供開始から3カ月強が経過しましたが、SOFRを参照するデリバティブ市場の厚みと流動性はまだ発展途上です。仮にターム物SOFRが実際に利用可能になったとしても、ARRCが先般発表した提案依頼書(RFP)においてベンダーの公表目標日としている2021年第2四半期末より前の公表になる可能性は低いと考えられます。
フォールバックと同様に、フォワードルッキングなターム物RFRをLIBOR移行における第一の選択肢とすべきではありません。ターム物RFRは、特定のニーズを満たすものであり、他に選択肢がない一部の商品や契約に対する解決策です。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は、LIBORの公表停止日に先立ち、LIBORベースの清算済み金利スワップの転換に関する提案を発表し、市場参加者からのコメントを募りました。また、2020年 12 月には、ロンドン・クリアリング・ハウス(LCH)が会員に対して同様の市中協議を行ったことが広く報じられています。
OISをベースとしたスワップ市場は成長し始めています。ISDAプロトコルが発効した場合、LIBORからの移行には、現在のOISスワップ市場とは異なるコンベンションが適用されます。例えば、IBORフォールバックプロトコルの対象となるスワップは、金利期間終了後、利息の支払いを行う前に金利を決定する「ルックバック」を採用することになります。一方、標準的なOISスワップの現在の市場コンベンションでは、金利期間の終了時に利息の支払いを計算し、期間終了の 2 日後に支払いを行います(ペイメントディレイ)。このようなコンベンションの違いは、以下のような課題を生むと考えられます。
これらの課題に対処するため、CME と LCHは、既存のLIBORスワップから市場標準の新しいOIS契約への先取り移行を検討しています。これはLIBOR公表停止時にISDAのIBORフォールバックプロトコルに基づいてレガシーLIBORベースの商品を転換するのではなく、LIBORの実際の停止日の直前に転換を行うものです。ISDAのIBORフォールバックプロトコルが、LIBORとそれに代わるそれぞれのRFRの差を考慮したスプレッド調整を含むことで価値移転を最小化するのに対し、CCPは主にスプレッドにかかる現在価値の差額分(価値移転分)を補うために現金補償を行う予定です。
このようなスワップの先取り移行により、金利計算の特徴とコンベンションが統一された交換可能なRFR参照OIS取引が一定数行われることになるでしょう。
LIBORが実際に停止する前にLIBOR参照のスワップを移行することで、CCPの移行が簡素化されます。また、新規取引と転換後の取引を同一の商品コンベンションで行うことで、市場参加者はCCPでのネッティング取引によるメリットを維持することができるでしょう。しかし、LCHとCMEにおける清算済みスワップの先取り転換が行われたとしても、ISDAのフォールバックにより転換される相対取引やその他既存の清算済みLIBORスワップとの間には、適用されるコンベンションの違いが残る可能性があります。また、借り手は、コンベンションとしてペイメントディレイではなくルックバックを適用して日次後決め金利を参照する変動金利の現物商品(ローン、債券など)のキャッシュフローと、正確に合致するスワップ取引を求める可能性もあります。このような顧客のニーズに応えるために、清算対象外のスワップが増え、またそれに伴い担保や資本要件が増加することで、結果的に価格設定に影響が出るおそれがあります。
市場参加者はまた、補償金額の支払いに備えて自社の資金調達能力も検証しておくべきです。今回の補償金額は、2020年10月の清算済み米ドル金利スワップにかかる実効フェデラル・ファンドレート(EFFR)割引からSOFR割引への移行時よりも大きくなると思われます。この時には価格調整利息(PAI:変動証拠金に支払われる利息)とその結果としての割引率が変更されただけでしたが、LIBORベースのスワップからRFRベースへ移行する場合は、主にISDAのスプレッド調整値にかかる現在価値の変化分が現金支払額の大きさを左右します。ブルームバーグによると、本レポート執筆時点におけるスプレッド調整値の調整額は、関連するRFRに対して、米ドル3カ月物LIBORで約 26 ベーシスポイント、英ポンド3カ月物LIBORで約 12 ベーシスポイントとなっています。満期までの残存期間が 5 年のスワップの転換日におけるスプレッド調整値であると仮定した場合、転換時の支払い(割引を無視した場合)は、米ドルの変動レグではスワップの想定元本の約 1.25%、英ポンドでは約 0.6%となります。
※本コンテンツは、PwCが2021年1月に発刊した「LIBOR Transition Market update: January 1-15, 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、カナダ銀行間取引金利(CDOR)の公表停止の発表と米ドルLIBORスワップの事前転換について解説します。
今号では米国財務会計基準審議会が発表したLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利を追加する提案の公開草案について取り上げます。
今号では米国におけるLIBOR法案の可決と、米国フェデラルファンド(FF)金利の引き上げによるSOFRレートの動き、ISDAのイベントにて業界関係者より発信された米ドルLIBORの公表停止に向けた対応などにかかるコメントを取り上げます。