
LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年6月1日~7月15日)
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、米ドルLIBORの公表停止延期案とこれに伴う今後の対応について解説するほか、各国の検討体で実施されている各種市中協議について取り上げます。
LIBOR の運営機関である ICE Benchmark Administration (IBA) は、英ポンド、ユーロ、円、スイスフランLIBORおよび米ドルLIBORの2つのテナー(1週間物・2カ月物)について、2021年12月31日以降、公表を停止する意向を市中協議にて発表しました。またIBAは、米ドルLIBORの残りのテナーについて、2023年6月30日まで継続した後に公表を停止する意向を示しています。本市中協議への意見の提出期限は2021年1月25日までです。
IBAによる市中協議の結果待ちではあるものの、各国規制当局は一連の共同声明と発表資料を通じて、LIBORの公表停止時期に関する追加情報を提供しています。米連邦準備制度理事会(FRB)のNate Wuerffel氏は、先般開催された業界イベントにおいて、市場参加者に対し、LIBORの将来に関するさまざまな公的セクター・民間セクターからの発表を「集合的な枠組み(collective framework)」と見なして検討するよう促しました。
主な発表の概要は以下の通りです。
FRB、米通貨監督庁(OCC)および連邦預金保険公社(FDIC)は米ドルLIBORの継続的な使用に関するガイダンスを公表しました。主なポイントとしては以下が挙げられます。
FRBのシニア・アソシエイト・ディレクターであるDavid Bowman氏は業界イベントにおいて監督指針に言及し、「銀行は今すぐに米ドル LIBOR の新たな利用から脱却を図るべきである」と提案しています。
IBAの主要規制当局である金融行為規制監視機構(FCA)は米ドルLIBORの公表停止日が明確になったことを歓迎する声明を公表しました。またFCAも、米国の監督当局と同様に、2021年以降、監督下にある企業による米ドルLIBORの使用を制限することについての検討を示唆しています。
国際スワップデリバティブ協会(ISDA) は、FCA の市場・ホールセール政策担当ディレクターであるEdwin Schooling Latter氏、FRBのDavid Bowman氏、モルガン・スタンレーの機関投資家向け証券担当副委員長であり米国代替参照金利委員会(ARRC) 議長であるTom Wipf氏らを招きウェビナーを開催しました。IBA の市中協議によりLIBOR 公表停止までの計画が明確になることを前提に、本ウェビナーではLIBOR の今後の方向性が概括されました。
ARRCは、これまでに行ったアナウンスの概要と今後の米ドルLIBORへの影響についてまとめたガイドを発表しました。
英イングランド銀行(BOE)のAndrew Hauser氏は、業界イベントの講演において、企業はどの通貨であっても、できるだけ早く代替金利指標(ARR)で取引ができるよう準備をしなければならないと強調しました。また、既存のLIBOR参照契約を積極的に修正する重要性に言及し、LIBORが公表停止した際、LIBOR参照のデリバティブ契約をARRに移行する仕組みを提供するISDAのIBORフォールバックプロトコルの批准を強く推奨しました。
LIBOR移行において、2021年末を「デッドライン」と呼ぶ向きがありますが、これは単にFCAとパネル銀行との間で締結しているLIBORの呈示継続に関する合意が2021年末に終了するということに過ぎません。IBAの市中協議の結果を踏まえて、この点は変更されることになるでしょう。今回の発表により、LIBORに初めて明確な公表停止期限が設けられようとしています。
市場参加者はこれまでLIBOR移行における主なハードルとして、明確な期限がなく終了時期が不明確であることを指摘してきました。しかし、今回行われた発表によりLIBOR移行の全体的なスケジュールや主要なメカニズムが確認されたことで、様子見の姿勢をとってきた企業も、必要とされる行動を開始できるようになるはずです。
とはいえ、すべての疑問が解消したわけではありません。例えば、市場参加者は、2023年まで続くと予想される米ドルLIBORのスプレッド調整を2021年の早い段階で固定することが賢明であるかどうかについて、すでに疑問の声を上げています。また、LIBORの恒久的な停止に関する契約条項(もしくはフォールバック条項)がない、あるいは十分な内容の条項を含まないLIBOR参照のレガシー契約には、重大な運用上および法律上のリスクが残されています。欧米におけるシンセティックLIBORの公表や立法的救済策など、潜在的な解決策は有望視されていますが、その範囲や実現方法に関する詳細はまだ確定していません。
フォールバック条項を含むレガシー契約の場合であっても、契約ごとに移行がどのように行われるかについては、多くのバリエーションがあります。同一企業の類似商品の契約を比較しても、契約上のフォールバック条項に含まれる具体的な条項には大きなばらつきがある傾向があります。結果、LIBOR の公表停止に関する条項の微妙な違いやウォーターフォール構造の違い、誰が LIBOR の公表停止を発表するかによっても、特定の契約に対する影響が決まる可能性があります。このような複雑な状況を踏まえ、企業は、契約書に含まれるフォールバック条項を包括的かつ詳細に把握するとともに、今後の発表に対応するためのコンティンジェンシープランを早急に策定するべきです。
前回のマーケットアップデート1(11 月 16 日~11 月 30 日)で提言した通り、特定の米ドル LIBORが2023 年まで公表されることを理由に、移行への取り組みを遅らせるべきではありません。実際、ここ数週間で実施されたさまざまな業界イベントでは、多くの規制当局者が同様の発言を行い、IBA の 2023 年 6 月 30 日の公表停止目標を「猶予」と誤認することについて警告を発しています。今取り組まねばならないことは、これまで以上に多くあります。銀行はARRに基づく新商品を市場に投入し、またモデル、システム、プロセスを更新してリスクフリーレート(RFR)での取引能力を確立するとともに、既存の LIBOR エクスポージャーの削減戦略の策定に向けて、引き続き全力で取り組んでいくべきです。
欧州理事会は、欧州連合の金融ベンチマーク規制(EU BMR)の改正案について欧州議会と合意しました。この改正案は、重要なベンチマークが停止した場合に、当該ベンチマークを法定のARRに置き換えることを規定するものであり、2020年7月の欧州委員会(EC)の提案に基づいて欧州議会と理事会が交渉した結果です。
この改正により、ECは、フォールバック条項がない、もしくは不十分な契約に対し、公表停止するベンチマークを置き換える法定のARRを指定する権限を与えられることになります。このメカニズムは、最近ARRCが提案しニューヨーク州で提出された法案と類似しており、米国では連邦レベルでも同様の法案が検討されています。ECが代替金利を指定する際には世界中のRFRワーキンググループによる推奨を考慮することになるでしょう。
当初の提案からの主な変更点は以下の通りです。
欧州議会と欧州理事会は、最終規則を2020年12月31日までに採択することを目指しています。
ECの当初提案から欧州議会との合意まで、6カ月かかりませんでした。過去の類似の法制化に比べてはるかに迅速に対応できたことは、LIBOR の停止前に変更ができないレガシー契約に対する立法的救済策の重要性を示すものです。
フォールバックと同様に、改正された EU BMR は、レガシー契約への最終手段というセーフティネットとなります。第3回ユーロRFRに関するラウンドテーブルでは、ワーキンググループのメンバーと規制当局の双方が、市場参加者は立法的救済策に頼るのではなく、契約の事前移行を優先すべきと強調しました。
積極的な事前移行の推奨は、まだ多くの不確実性が残っていることを踏まえれば、真実味があるといえます。第一に、ECが新たな権限を行使するという保証はありません。第二に、いずれの立法措置も、前述のARRCの提案や英国の金融サービス法案下でのFCAの権限拡大など、他の法域でのアプローチとどのように相互作用するかは完全には明らかになっていません。例えば、2020年末に英国のEU離脱(ブレグジット)移行期間が終了することの影響や、2021年以降、EU BMR改正がどのような状況でUK BMRの一部となり得るか、あるいは残り得るかについては、市場参加者間の意見が分かれています。
訴訟の可能性やレガシー契約の移行条件に関する見通しなど多くの未解決の課題を考慮すると、市場参加者が可能な限りエクスポージャーを積極的に削減しようとする動機は十分にあると言えます。
英ポンドRFRワーキンググループは、非線形デリバティブのLIBOR移行に関する考慮事項について文書を公表し、ポンド翌日物平均金利(SONIA)を参照する金融商品をベースとした機能的な市場を創設する可能性を示唆しています。また本文書は、後決め複利SONIAを用いていくつかの主要なオプション商品が組成可能であることを示しています。
当ワーキンググループは、リスク管理の目的で必要とされる取引を除き、2021年末より後に満期を迎える英ポンドLIBORを参照する非線形デリバティブの新規取引を停止する目標期日として、2021年の第2四半期/第3四半期を提示しています。非線形デリバティブのコンベンションに関するガイダンスを提供し、目標期日の達成に向けた企業の取り組みを支援することを目指しています。本文書は、現在の IBOR コンベンション、予想される RFR コンベンション、および ISDA の IBOR フォールバックプロトコルがさまざまな商品に与える影響について、ISDA が2020年9月に更新したサマリーを補足するものです。
本文書は、キャップ、フロア、ヨーロピアンスワップションのインターバンク取引のための好ましいコンベンションについて、英ポンドオプションディーラー15社を対象に実施した調査結果をもとに作成されたものです。また、バミューダンスワップション、キャンセラブルスワップ、インバースフローター(コール可能なものを含む)、コンスタント・マチュリティ・スワップ(CMS)のキャップとフロア、LIBOR 後決めスワップ、およびCMS レートを参照するタイプも含めたさまざまなレンジ・アクルーアル・ペイオフについて、予想される課題に関する考察を提供しています。
各タイプの商品について、ワーキンググループの分析では、原資産としての後決め複利SONIAの適合性、SONIAを参照する取引がLIBORベースの取引と経済的に同等の方法で行われるかどうか、およびSONIAスワップレートの公式なフィキシング(Fixing)に関する情報が取引決済の推測に必要かどうかについて検討しています。
またLIBOR後決めスワップは、後決め複利SONIA には適合しないと考えられる唯一の商品タイプでした。キャップやフロア、インバースフローター(コール可能なものを含む)、スタンダード・レンジ・アクルーアル(コール可能なものを含む)などは、運用上は可能であるが、LIBORバージョンと経済的に同等ではないと判断されました。最後に、CMS関連商品、現金決済のヨーロピアンおよびバミューダンスワップション、IRR(内部収益率)現金決済のヨーロピアンスワップションにおいて、SONIAベースの市場を確立するためには、SONIAスワップレートの公式なフィキシングが前提条件となることを明らかにしました。
本文書はRFR ベースの非線形デリバティブがポスト LIBOR の世界でどのように機能するかについての実務的な文献が非常に限られる中で、タイミングよく発表されたものです。ISDA の商品一覧では、IBOR のフォールバックがペイオフと決済に与える影響が詳述されていますが、RFR を参照する新しい非線形デリバティブ商品の発行準備を進めているモデル開発チームや商品開発チームにとって、商品固有の RFR コンベンションに関する限定的な議論の利用価値は限られると思われます。市場参加者が移行戦略を検討するにあたっては、本文書でまとめられているコンベンションや互換性の考慮事項に関する追加情報が有用なツールとなるでしょう。
しかし、市場参加者が新しいRFRベースの非線形商品のコンベンションに関し、コンセンサスを迅速に形成できるかは不明です。提案されているいくつかのペイオフの変更にどのように対処するかについては、引き続き意見の相違が認められます。新規契約が行われる前に、市場参加者間でのさらなる議論が必要であることは間違いなく、特にレンジ・アクルーアルのような複雑な商品の場合はなおのことでしょう。例えば、モデリングの観点からすると、翌日物RFRと日次複利RFRのどちらを採用するかで結果が大きく変わってきます。金融機関の大半は、モデルに必要な変更を加え、関連するモデルの検証作業を実施する前に、業界における商品コンベンションをより明確にしたいと考えるでしょう。
市場参加者は、新たな商品戦略を策定するにあたり、RFR ベースの新たな非線形デリバティブの挙動が、引き続き当初の目的を満たしているかどうかを検討する必要があるでしょう。例えばスワップションなどいくつかの商品の中には、IBOR ベースの商品と同じような動きをするものもあると思われます。他の商品、例えばキャップやフロアの場合、RFRへの移行は商品の特性や、ひいては将来的な使用方法を変更する可能性があります。このワーキンググループの文書は、確定的な基準や推奨事項を提供するというよりも、これまでにあまり時間を割いてこなかったテーマについて、さらなる議論を行うためのたたき台となることが期待されます。
スイス金融市場監督機構(FINMA)は、LIBORの移行ロードマップを公表しました。FINMAの推奨は、2020年初めに金融安定理事会(FSB)が提案したLIBOR移行のタイムテーブルと整合しています。
FINMA は、2021年のLIBOR参照契約の取引量をモニタリングする予定であり、特に市場参加者のLIBORエクスポージャーの削減状況を注視するとしています。また、LIBOR移行は引き続きFINMAにおける2021年の監督上の優先課題であることから、金融機関の準備が不十分であると判断された場合には、「個別金融機関に対する評価(institution-specific measures)」を講じるとしています。
スイス市場では、いくつかの商品カテゴリーで進展が見られますが、他のカテゴリーはまだ発展途上にあります。例えば、住宅ローンでは、スイスフランLIBORに代わるRFRであるスイス翌日物平均金利(SARON)の採用が進んでいます。2020年初めに複数の銀行がSARONをベースとしたARM(変動金利型モーゲージ)ローンの提供を開始すると、多くの金融機関がこれに追随しました。
しかし他の商品では、こうした移行はそれほど進んでいません。FINMAも、2020年に発表した「リスクモニターレポート2020」において、市場全体のLIBORエクスポージャーが2020年上半期に増加していることを指摘しています。すでに多くの銀行が十分な準備を進め、RFRでの取引能力を確立しているようですが、中にはRFR商品の本格導入を躊躇している市場参加者もいます。その理由として、借り手の関心の欠如、多様な取引コンベンションの存在、RFR参照商品の流動性が発達途上であることなどが挙げられています。
FINMA のロードマップと、IBA の LIBOR 停止に関する市中協議の公表のタイミングが重なったことは、意図的であった可能性があります。LIBOR 公表停止の期限が迫る中、FINMA が推奨する目標期日の重要性は増しています。企業は、現在の移行計画が、全ての通貨の LIBOR について推奨されている目標期日を順守できるようになっているかを今一度確認すべきでしょう。
※本コンテンツは、PwCが2020年12月に発刊した「LIBOR Transition Market update: December 1-15, 2020」の一部を抜粋し翻訳したものです。
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、カナダ銀行間取引金利(CDOR)の公表停止の発表と米ドルLIBORスワップの事前転換について解説します。
今号では米国財務会計基準審議会が発表したLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利を追加する提案の公開草案について取り上げます。
今号では米国におけるLIBOR法案の可決と、米国フェデラルファンド(FF)金利の引き上げによるSOFRレートの動き、ISDAのイベントにて業界関係者より発信された米ドルLIBORの公表停止に向けた対応などにかかるコメントを取り上げます。