内部統制報告制度(J-SOX)の現状に関する480社の調査結果―ニューノーマル下でのデジタル活用を示唆

2021-12-17

日本では2008年より内部統制報告制度(以下「J-SOX」)が施行されたことを受け、上場企業は財務報告の信頼性の確保、事業経営の有効性と効率性の維持、事業経営に適用される法令の遵守などを妨げるようなリスクに対応するべく、内部統制の整備および運用を進めてきました。

J-SOXの導入から10年以上が経過し、経営資源(システムインフラ、人的リソースなど)を活用した内部統制やその評価方法の効率化は図ることができている一方で、テクノロジーの進展をはじめとする経営環境の変化に伴い、新たな課題も出現しつつあります。

このような実態を踏まえ、PwCあらた有限責任監査法人では2018年以降に業務プロセスを変更した企業を対象に、「業務プロセスの見直しの実態」「内部統制における対応状況」「内部統制評価のあり方」の3つの切り口から調査を実施しました。内部統制や内部統制評価の実効性を向上させた企業の取り組みを分析し、業務見直しのポイントやデジタルツールを活用した内部統制の効率化、ニューノーマル下で企業が目指すべき姿などについて考察しています。

※調査内容の詳細については、ページ下部のフォームよりお問い合わせください。

調査概要  
調査対象 企業の内部統制の実施担当者
および内部統制評価担当者
実施期間 2021年6月24日~2021年7月6日
調査方法

インターネットモニター調査

サンプル数

480サンプル(1社1回答)
業種・規模は右図参照

1.内部統制・内部統制評価の見直しは、業務プロセスの見直しと歩調を合わせて進める必要がある

内部統制や内部統制評価の実効性を向上させている企業の多くは、業務プロセスの変更に伴い、内部統制や評価の方法も適宜見直していることが分かりました。このことから、内部統制・内部統制評価の効果的な見直しを実現するためには、業務プロセスの見直しと歩調を合わせて進めることが重要であると考えられます。

コロナ禍によりビジネスを進めるうえで時間的・物理的制約が発生し、その影響もあってテクノロジーが一層進展するなど、近年は経営環境にさまざまな変化がありました。しかし、それらの変化に適応すべく、2018年以降に業務プロセスの変更に取り組んだ企業は全体の約3割に留まっていることが分かりました。

また、業務プロセスを変更した理由の約4割は「デジタル化推進活動(テレワーク導入を含む)」に起因したもので、多くの企業がデジタル化を進めていることが分かりました。

さらに、2018年以降に業務プロセスを変更した企業の7割以上が「財務報告に係る内部統制監査上のリスクの再検討」を実施していることが分かりました。業務プロセスの変更に伴うリスクの変化に対応するべく、内部統制の見直しも行われていることが読み取れます。

2.内部統制と内部統制評価はデジタル化(デジタルツール活用)の方向に

内部統制・内部統制評価をデジタル化している企業ほど、その実効性を向上させていることが分かりました。特に、以下の3つの領域については高い効果が認められました。

  1. 手作業が多い領域
    正確性・効率性を害するリスクが大きく、財務報告上の重要な虚偽表示リスクも大きいため、デジタル化による効果が得られやすい
  2. 業務プロセスがデジタル化している領域
    前提となる業務が既にデジタル化しているプロセスは、内部統制のデジタル化に着手しやすい
  3. 定型化された作業が多い領域
    定型業務の多い領域は、デジタル化することでオペレーションミスを低減しやすい

3.企業の目指すべき姿:業務の可視化がスタートポイント

日々の業務にデジタルツールが次々と組み込まれていく中で、実効性ある内部統制を実現するには、業務を可視化することがスタートポイントとなります。そして、業務プロセスの変化やその背景にあるリスクの変化を把握・分析し、内部統制や内部統制評価のあり方をタイムリーに見直すことが重要であると考えられます。

 

急速に変化し続ける経営環境下において、ニューノーマルへの移行をパッチワーク的に進めてきた企業の多くは、さまざまな課題に直面しているのではないでしょうか。環境変化に耐性がついてきた今だからこそ、業務の可視化をスタートポイントとして経営戦略・業務プロセスレベルでの課題の検討を進め、ニューノーマル時代において最適な経営基盤の構築につなげるべきだと考えます。

執筆者

市川 敦史

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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組橋 勇一朗

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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