―テキストマイニングによる分析―

有価証券報告書から読み解くガバナンスとリスクマネジメントの動向2026

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  • 2026-09-15

PwCアドバイザリー合同会社は、PwC Japanグループの監査・保証業務、税務との協働体制のもと、有価証券報告書のテキストマイニングにより、国内上場企業のガバナンス、リスクマネジメントの取り組み・開示について取りまとめました。

本調査は、「コーポレート・ガバナンス」「リスクマネジメント」および「その他トレンドとなっているキーワード」の3つに焦点をあて、近年、企業および投資家の間でホットトピックスとなっており、その推移に顕著な変化がみられたキーワードを中心に分析・考察を行っています。エグゼクティブサマリーでは、今年度、特に各社の意識が高まっているとみられる「地政学」と「キャピタルアロケーション」「成長投資」「株主還元」をピックアップします。

1.地政学

近年、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加え、2025年に発足した第2次トランプ政権の相互関税政策や輸出管理強化などの影響による自由貿易体制の揺らぎ、米中対立の深化、経済安全保障の強化など、さまざまな地政学リスクが日本企業の経営に影響を及ぼしています。また、2026年にはイラン戦争が始まったことで、物流やエネルギー、原油価格などで大きな影響を受けた日本企業も多く、有価証券報告書における関連リスクの開示にも顕著な変化が表れています。

「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」において「地政学」を記載している企業の割合は、2025年から2026年にかけて大きく増加しています(図表A)。ロシアによるウクライナ侵攻が行われた2022年から増加傾向にありましたが、イラン戦争によって経営上の課題やリスクとして認識する企業がさらに増加したことが背景として考えられます。「事業等のリスク」における業種別の記載割合を見ると、鉄鋼・非鉄、電機・精密、医薬品、素材・化学において、多くの企業が記載しています(図表B)。具体的な記載内容は、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」においては、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢に関する言及と併せて、経営環境の不確実性が高い旨、およびそれに伴う各種コスト上昇、サプライチェーンへの影響を記載している企業が多くみられます。一方で、「事業等のリスク」においては、より具体的なリスクとして、地政学的な対立による制裁・輸出規制や、物流・エネルギー制約により調達・輸送が制約される旨、それによる供給不足、コスト上昇などを記載している企業が多くみられます。

地政学リスクは、企業の事業運営の前提として考えるべきリスクとなっており、リスクそのものの開示にとどまらず、経営の対応力を訴求していくことが求められつつあります。今後、有価証券報告書においても、リスクが自社の調達・生産・販売に及ぼす影響を定量的に算出し、サプライチェーンの分散化や体制の整備といった対応策を具体的に示し、進捗状況を開示していくことが期待されます。

図表A:「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」および「事業等のリスク」における「地政学」の記載割合

「経営方針、 経営環境及び対処すべき課題等」および「事業等のリスク」における「地政学」の記載割合

図表B:事業等のリスクにおける「地政学」の記載割合

事業等のリスクにおける 「地政学」の記載割合

2.キャピタルアロケーション、株主還元、成長投資

2023年3月に東京証券取引所が公表した「資本コストや株価を意識した経営」の要請は、日本企業の資本効率改革を大きく加速させる転換点となりました。これを背景に、機関投資家やアクティビストは、キャピタルアロケーションの全体最適化と、成長投資・株主還元への資源配分を企業に強く求めており、キャピタルアロケーションの開示を通じた説明責任の重要性は一段と高まっています。

「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において「キャピタルアロケーション」(「キャッシュアロケーション」、「資金配分」、「資本配分」を含む)「成長投資」または「株主還元」を記載している企業の割合は、2022年以降増加傾向にあり、特に売上高が大きい企業ほど記載割合は高い傾向にあります(図表C)。具体的な記載内容として、「キャピタルアロケーション」は、成長投資および株主還元などのアロケーションの方針を検討している旨や、キャピタルアロケーションの具体的な数値の記載が多くみられます。「成長投資」は、単純な設備投資にとどまらず、事業ポートフォリオ変革、M&A、研究開発、DX・AIなどと組み合わせ、将来キャッシュフローと資本効率を高めるための資金配分の1つとしての記載が散見されます。「株主還元」は、安定配当や自己株式取得などの還元方法や、配当性向、総還元性向、株主資本配当率(DOE)などの株主還元に関連する指標、および政策保有株式の縮減などの株主還元のための資金捻出策と併せて記載している企業が多数確認できます。

キャピタルアロケーションに関する投資家の関心は、「還元実績の多寡」から「配分の規律と一貫性」へと移っており、今後、営業キャッシュフローや保有する現預金の使途を、成長投資、株主還元、財務健全性のいずれに、どの優先順位で配分するのかを、目指すバランスシート像とともに定量的に示すことが期待されます。加えて、資本コストを上回る収益性の達成状況や、政策保有株式の縮減計画、余剰資金の活用状況を示し、中長期の配分方針を一貫して開示することが、投資家との建設的な対話の礎となります。

図表C:経営方針、経営環境及び対処すべき課題等における「キャピタルアロケーション」(「キャッシュアロケーション」、「資金配分」、「資本配分」含む)「成長投資」および「株主還元」の記載割合

経営方針 、経営環境及び対処すべき課題等における「キャピタルアロケーション」(「キャッシュアロケーション」、「資金配分」、「資本配分」含む)「成長投資」および「株主還元」の記載割合

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ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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