次世代モビリティにおける勝者の条件 MaaS時代の王道とは?

2019-09-03

多様な移動・輸送手段を仮想的にワンパッケージ化し、サブスクリプションモデルを適用することで、シームレスな利用を可能にする「MaaS」(Mobility as a Service:移動のサービス化)は、実証実験から実用化、そしてグローバルレベルでの適用・導入の段階にあります。ここから浮かび上がるのは、MaaSをはじめとする、「モビリティ」への取り組みは、「もはや自動車産業を中心に語られていない」「他の国・地域・領域のベストプラクティスは、必ずしも最適解ではない」「新たな主役はまだ決まっていない」などの事実です。

このような状況を踏まえ、今後のヒト・モノ・カネ・サービス・データの移動の中核となる新たなエコシステムを「次世代モビリティ」として捉え、「次世代モビリティ」時代における新たな事業機会のポイントを整理します。

世の中の「モビリティ」の捉え方

世界的に都市化は進む傾向にあり、特に発展途上国では、今後急激に都市化が進行し、渋滞・交通事故、環境問題といった、さまざまな社会問題が顕在化していきます。日本を含む先進国においては、既に都市化が進み公共交通が発達しています。一方で、地方都市、郊外・山間地などでは過疎化が進み、コンパクトシティ化といった持続可能な街づくりが課題となっています。しかし、順調に進展している事例は多くありません。

これらの課題に対する打ち手として、テクノロジーを駆使することで街全体の最適化を図るスマートシティ化が推進されています。都市生活者の価値観変化も影響し、シェアリングエコノミーによるさらなる資源の有効活用が必須となる中で、「モビリティ」は都市の交通機能を持続的に担う位置づけとして捉えられています。例えば、CES(※1)における議論も、単なる「移動の最適化」ではなく、「都市計画」の領域まで及んできています。狭義の「MaaS」はこの全体最適化を実現する手段として発展していきますが、この「モビリティ」は、もはや「クルマ」の話ではないのです。

1)The International Consumer Electronics Show:世界最大の家電見本市

MaaSの「型」はさまざま

MaaSの構築を考える場合、渋滞・交通事故、環境負荷などの問題解決か、路線バスをはじめとする公共交通機関の衰退などの問題解決かといった「何を目的とするか」という視点が重要です。MaaSの基本的なコンセプトを基に、抱える課題に応じて適応するモデルを検討しなければなりません。

MaaSの先行事例として有名なフィンランドのヘルシンキにおける取り組みは、都市型MaaSに分類されます。サステナビリティに関する都市政策の一つとして、自家用車から公共交通への移動モードシフトに主眼が置かれています。それ以外にも、郊外型MaaSや田舎型MaaSなど、ヒトの移動に限らず、モノの移動も含めて、地域や課題に対応したMaaSが既に実現されています。

MaaS時代の新たなエコシステムとは?

MaaSを含むシェアリングエコノミーの目的は「アセットの最大活用」ですが、アセット保有者視点では他社に自社のアセットを貸し出すことによる資産効率の最大化、利用者視点ではCAPEX(※2)なしにサービス利用(都度利用またはサブスクリプション)できる簡易性、というメリットをそれぞれ生み出します。

サービスの価値が利用者数に依存するネットワーク外部性が存在するMaaSは、全体最適の実現に寄与する、スマートシティの構成要素の一つとして位置づけられますが、このMaaSのエコシステムを成り立たせるために欠かせない仕組みが大きく三つあります。

2)Capital Expenditure:設備などの有形資産のため支出する金額

需要に応じて単価設定するダイナミックプライシング

  • 閑散時に料金を下げて需要増を、繁忙時には料金を上げてマッチング率向上を図ることで、稼働率を高め、営業収入の増加につなげる。

所有データの共有経済化への対応やサイバーセキュリティへの対応といった市場参加条件の整備

  • さまざまなモビリティが接続され、統合されていくことで、所有データを流通させる仕組みの構築や、さらに高まるセキュリティリスクへの対応により、持続可能なサービスとして社会実装につなげる。

オンライン決済や移動データの蓄積などによる新たな与信の仕組み

  • 担い手としての個人(ライドヘイリング(※3)、C to C物流など)およびMaaSユーザーの信用証明により利用者増につなげる。

この中でキーテクノロジーになるのはダイナミックプライシング技術ですが、この潮流を正しく捉え、正しい手段を講じているプレーヤーは世界でも数社です。

3)自動車による送迎サービス

「次世代モビリティ」時代の勝者の条件

フィンランドのヘルシンキで展開されているMaaSモデルは、公共交通機関の運営を一部公費で賄っているからこそ成り立つモデルと言われますが、価値の源泉そのものは移動後の「コト」に明確にシフトしていくことに変わりはありません。ヒトの輸送により消費者から対価を得るだけでなく、フードデリバリーや買い物代行といったモノの輸送や家事代行サービスなどの輸送により、受益者からも対価を得るモデルを確立し、プロフィットプールを拡大しているライドシェアプレーヤーも出現しています。

別の視点で言えば、移動の前後に周辺サービスを付加して、モビリティそのものの付加価値を向上させようとするのではなく、周辺サービスの価値向上に移動を組み込んで、モビリティの付加価値を向上させる、という発想の転換が求められます。まず、各地域や領域の生活・事業・ニーズなどの実態を正確に把握・理解し、そこに自社の強みを生かした「サービスとしての移動」を組み込むモデルを構築する必要があるでしょう。グローバルモデルのローカル適用は、必ずしもうまく行くわけではありません(ある国で圧倒的シェアを持つ相乗り大手が別の国で駆逐されたのは、決して保護政策などのためではありません)。

競争は既に始まっていますが、まだ勝者は決まっていません。いち早くゲームルールを押さえ、先行者優位性を築いたプレーヤーが、勝ち残っていくでしょう。

担当者

北川 友彦

ディレクター
PwC Strategy&

阿部 健太郎

シニアマネージャー
PwC Strategy&

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