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PwCあらた基礎研究所だより 第2回 コーポレートガバナンスと監査──これらの切っても切れない関係

3 コーポレートガバナンスと監査

3.1 内部統制をめぐる両者の関係

所有と経営の分離が進んだ近代企業においては、それらが一致する企業と異なる事情があります。企業経営や事業展開、業務遂行に日々関係し強大な権限を有する経営者と、本来は会社の所有者(出資者)という立場ですが、直接関与することのできない株主が存在することを前提に、両者間の潜在的な利害対立を背景として執行に従事する経営者をいかにして監視するかとの問題提起から、コーポレートガバナンスが注目されるようになりました。

企業組織をどのように構築するかは、一次的にはわが国の会社法、金融商品取引法のような「ハードロー」(議会の議決により制定される法律)が扱うテーマであり、ルールベース(細則主義)で詳細に企業行動が規制されます。ハードローはエンフォースメントの観点からは有効と言えますが、同時に企業活動の柔軟性を確保するという要請を考慮する必要があります。硬直的な規制は、企業のイノベーションを妨げるためです。

すなわち、コーポレートガバナンスはハードローだけで完結するものではなく、より緩やかなプリンシプルベース(原則主義)によるソフトロー(コードやガイドラインなど、国家権力によりエンフォースメントされない規範)が有効な領域があります。このソフトローの有効性を確保するうえでは、専門家による判断を伴う監査が重要な役割を果たしています。1990年代以降、英国においてコーポレートガバナンスの「真空地帯」におけるソフトローの重要性が増し、会計士の役割が重要視されるようになったとされます。それが「監査の爆発」の現象を生み出したと言えるかもしれません。

3.2 英米モデルと日本モデル:日本における特徴

コーポレートガバナンスは、「誰がどのように会社企業を統治するか」の問いかけを内容とし、その国の株式会社法制とも深く関係します。各国の制度や文化の影響を受け、「比較コーポレートガバナンス論」と称する研究領域さえ新たに論じられています。ここでは、英米モデル(アングロサクソンモデル)と日本モデルを比較し、その特徴について解説します。
 
まず、英米におけるコーポレートガバナンスの立て付けは「監督の機関」と「執行の機関」から構成されています。監査のための特別な会社機関はなく、職業的専門家は独立の立場から両方の機関と対峙するという構図となっています。もっとも、英国型のコーポレートガバナンスと米国型のコーポレートガバナンスでは会計士の位置が異なります(図表1、図表2)。
 
次に、こうした英米型に対して、日本の場合は、もともと「監査の機関」としての監査役が存在しています。大会社において監査役として社外監査役の設置が新たに義務づけられたのは1993年の商法の改正時からのことです。これが英国におけるキャドベリー委員会の勧告の翌年であるのは興味深いことです。
 
このため、他の「監督の機関」と「執行の機関」との関係で監査をどのように位置づけたらよいかの論点が残ります。本来なら「監督の機関」の強化を通じて図られるべきコーポレートガバナンスへのアプローチを、「監査の機関」の強化を通じて図るとする企業側の意向により、「監査の機関」に軸足をおいた改革がなされるとのわが国独特の企業文化が背景において複雑に関係したことが指摘されています(鳥羽(2007))。

4 おわりに――英国におけるコーポレートガバナンスと監査の改革と日本

21世紀初頭までにさまざまなコーポレートガバナンスに関する仕組みが各国でとられてきましたが、英国では近年、社会的な影響の大きな企業における会計不正事件が頻発し、それに対応する形で監査改革が進められています(飯沼・山口(2021))。本稿のテーマとの関係でその特徴を一言で示せば、監査とコーポレートガバナンスとを一体として改革する「ホリスティックアプローチ」が英国政府から提示されていることが挙げられます。

これは、企業をとりまくステークホルダー、すなわち取締役会(経営陣)、投資家(株主)、監査人、規制当局がそれぞれの役割を果たすことが、改革の目的達成に必要ということを意味しています。監査とコーポレートガバナンスとがまさに「切っても切れない関係」にあることを、英国政府の提案は物語っていると言えます。

コーポレートガバナンスにおけるソフトローとしてのコードの制定は1990年代に英国で始まり、OECD原則を経由して、わが国にもいわゆる「アベノミクス」における「第3の矢」、成長戦略の一環として近年導入されるに至っています。

コーポレートガバナンスは各法域の制度や文化を踏まえて具体化されますが、「ホリスティックアプローチ」の考え方は英国だけにあてはまるものでなく、より普遍的なアプローチである可能性があります。英国で米国流の内部統制報告制度の新たな制度化が議論されていることも、全体として普遍化に向かう方向性を示していると言えるかもしれません。今後の改革の進展をきめ細かく見守っていく必要があると思われます。

参考文献

飯沼篤史・山口峰男「監査を巡る英国の状況と日本企業への影響②」経営財務3516号(税務研究会2021年)

鳥羽至英『内部統制の理論と制度執行・監督・監査の視点から』国元書房,2007年

鳥羽至英『監査を今、再び、考える。』国元書房,2018年

鳥羽至英・秋月信二・永見尊・福川裕徳『財務諸表監査』国元書房,2015年

Flint, D. Philosophy and Principles of Auditing:An Introduction , 1988. The Macmillan PressLtd.(井上善弘訳『監査の原理と原則』創成社,2018年)

Power, M. Organized Uncertainty: Designing aWorld of Risk Management , 2007. Oxford UniversityPress.( 堀口真司訳『リスクを管理する不確実性の組織化』 中央経済社,2011年)

英国における監査改革の動向については、参考文献のほかPwC's View第26号(2020年5月)に寄稿した以下の記事もあわせて参照いただければ幸いです。

山口峰男「英国における監査改革の動向から、企業情報開示のあり方に関する今後の議論の方向性を探る―ブライドン・レビュー」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202005/brydon-review.html


※1 Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission


執筆者

山口 峰男

PwCあらた有限責任監査法人
PwCあらた基礎研究所
所長 山口 峰男