英国のEU離脱(ブレグジット)に向けた取り組みと考察 ブレグジットフォーラム開催報告~

はじめに

PwC Japanグループは、2017年2月8日に「PwC Japan‐Brexit Forum‐ 英国のEU離脱シナリオに向けた課題と対策 ~日本企業にとってのチャレンジと機会~」(PwC Japan グループ主催、外務省、JETRO後援)を開催いたしました。本フォーラムでは、外務省経済局、駐日欧州連合代表部、駐日英国大使館、そしてドイツ、フランス、オランダの大使館や政府関係機関だけでなく、EU法の観点から庄司克弘慶應義塾大学教授、そして株式会社日立製作所、エーザイ株式会社、日本を代表する企業などが一堂に会し、プレゼンテーションやパネルディスカッションを通し、ブレグジットに向けた其々の視点や意見を結集したフォーラムとなりました。

本フォーラムでは、定員200名のところに予想をはるかに上回るお申し込みを頂戴し、また当日も300名以上の方に参加いただき、大盛況のうちに終了しました。

当日は、本フォーラムへ参加いただいた方にブレグジットについてアンケート調査を実施しました。本稿では当該アンケート調査結果に基づき、ブレグジットにこれから直面する企業にどのような課題があるかどのような状況であるかについての考察について述べます。

アンケート調査結果とその考察

ブレグジットフォーラムで実施したアンケート調査では、115名の方が有効回答でした。製造業(自動車、製薬など含む)、金融業、サービス業など幅広い業種の方から回答を頂戴しました。主な構成割合は以下のとおりです。製造業が過半数を占め、その次にサービス業および金融業がそれぞれ20%占めていました。

【図表1】回答者の業種別構成割合

【図表1】回答者の業種別構成割合

考察1 多くの企業がブレグジットにつき情報収集中と回答。分析対応している企業はまだ少ない。

まず、質問「ブレクジットに関する検討状況と対応状況をご回答ください。」という問いに対して、「情報収集中」、「課題を分析中」、「課題に対し対応検討中」、「外部アドバイザーなどに相談中」、「すでに対応を実施」の選択肢を用意しました。回答結果は66%が「情報収集中」との状況であることが判明しました。また、「課題を分析中」を選択した回答者は22%、「課題に対し対応検討中」を選択した回答者は10%という結果がでました。「情報収集中」と回答した企業のコメントとしては「今後どうなるか何も決まっていないので、対応は何もできない状況である。」「まだ交渉開始前なので、課題をあげているレベルである。」などのコメントが多く見受けられました。

【図表2】ブレクジットに関する検討/対応状況への回答結果

【図表2】ブレクジットに関する検討/対応状況への回答結果

このような回答およびコメントが多く見受けられた背景には、アンケートを実施した2月時点において、英国がEUに対して正式に離脱通知をしていない状態であったことが可能性としてあげられます。2016年6月の国民投票にて英国民はEUから離脱することを選択しましたが、実際にはまだ英国はEUに対して離脱通知をしておらず、また英国最高裁の判決により、離脱通知のためには英国議会の承認が必要となったことにより、本当に英国がEUから離脱するのかどうか自体がまだ不確実だったという背景であったと想定されます。もちろん、離脱通知した後、ブレグジット後の英国とEU間の関係についての将来像が不確実であることから、影響を分析したくても対策案の確立が難しいという現実が考えられます。また、業種別に当該回答を集計しましたが、金融業は課題に対し対応検討中の割合が相対的に多く締めていました。これは、金融業特有のEUパスポート制度への対応は早めに検討しなければならないという背景が考えられます。

考察2 多くの企業が英国もしくは欧州大陸側の片方からの情報中心のためバイアスに不安を抱く。

私たちは、当フォーラム開催に際してさまざまな企業へ訪問しました。そのなかで多かったのが、「他の日本企業がどのように検討し、対応しているか。」についての関心が多くありました。われわれが訪問した会社60社程度(金融業除く)の中でも、確かに「情報収集中」もしくは「分析中」とのコメントした企業が大多数でした。「情報収集中」もしくは「分析中」という企業が抱えている課題として浮かび上がります。それは、情報収集に当たり、どうしても「グループ内の英国拠点からの情報が中心であるため、欧州大陸側(EU側)の目線が含まれていない。」もしくは「欧州大陸側だけの情報であり、英国からの情報がない。」という点です。つまり、どうしても片方からの情報のバイアスがかかっているのではないか、という本社側の不安感です。その意味で、本ブレグジットフォーラムでは英国大使館の他に、EU代表部、仏、独、蘭から代表者が登壇し、両方の視点で議論されている点が高く評価されていました。

「情報収集中」もしくは「分析中」という企業が抱えている課題としてもう1つ取り上げるべき点は、他の企業がブレグジットに対してどのような動きをしているのか、そしてどのような対応をしているのか、に関心を寄せている点です。課題としてはあるものの、自社への直接的影響は軽微であるため会社として特段アクションはないものの、他社の動向次第で、自社の戦略をどう変更・対応するべきかを考える企業も見受けられます。

最後に

3月末に英国は正式にEUへ離脱通知しましたが、離脱通知後、ブレグジットの2年間の交渉期間と併せて、EU主要国での選挙(5月にフランスの大統領選挙があり、9月にはドイツの議会選挙)が控えています。今後英国とEU関係はどうなるのか、そしてEUそのものがどのような姿へ変化していくのか、注目されています。前述の考察のとおり、多くの企業は情報収集中、もしくは分析中であり、中立的な視点に留意しながら他社の動向も関心を持ちながら、対策立案・実行していくことになりそうです。

番外編:米国トランプ政権による影響・課題

ご存知のとおり、米国トランプ政権では、いわゆるアメリカファースト、保護主義を打ち出し、貿易におけてはNAFTAの見直しや中国からの関税をかけるなど、日本企業にあたえる潜在的影響が考えられます。ブレグジットフォーラムでのアンケート調査に併せて、米国トランプ大統領による懸念事項について調査しました。以下の図が、その懸念点についてのサマリーです。最も多かった回答は、関税や保護主義政策による影響でした、その次は為替・ドル安政策でした。一方で、インフラ投資や規制緩和なども打ち出しており、日本企業にとって一概にマイナス効果とも言い切れず、プラス面も想定されます。今後具体的な政策が発表されていき、日本企業にとっての影響がより明らかになることから、今後の動きに注目です。

【図3】トランプ政策の課題項目

【図表3】トランプ政策の課題項目

主要メンバー

舟引 勇

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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