【エネルギー業界で導入が進むサーキュラーエコノミー】~循環型モデルへの転換を目指して~

2021-09-28

※2021年8月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーションニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する前の2019年、オーストリアで開催されたPwCのエネルギーチームのミーティングに参加した際、ドイツの大手鉄鋼メーカーから排出ガスを再利用するプロジェクトの紹介がありました。製鉄所では生産工程において排出ガスが大量に発生しますが、このプロジェクトでは排出ガスに含まれるCO2からアンモニアやメタノールの化学品や肥料の原料を製造しており、「サーキュラリティ(循環型モデル)」を実現しています。さらに特筆すべきは、鉄鋼、エネルギー、化学といった業界の垣根を越えて推進しているということで、海外の取り組みは日本より進んでいるという印象を強く持ちました。

一方、2020年5月に経済産業省は「循環経済ビジョン2020」を公表。また、2021年1月には環境省と経済産業省が「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を公表するなど、日本においても資源の採取、生産、利用、廃棄という従来のリニアエコノミー(直線型経済)からサーキ ュラーエコノミー(循環型経済)への移行が加速しています。

今回はサーキュラリティの原則と戦略を紹介したうえで、エネルギーおよび関連業界でビジネスを展開する日本企業がどのようにサーキュラーエコノミーに対応すべきか、海外企業の先進的な取り組みを通して考察します。

サーキュラリティの原則と戦略

サーキュラリティは、3つの原則と、それぞれの原則から導かれる10の戦略を中心に考えることができます。図1は、生産・流通と消費の両方の段階を通して、途切れることのない資源の流れを示したものです。

図1 サーキュラリティの原則と戦略 出典︓PwC「Take on Tomorrow 新たな未来への考察」

リニア型のオペレーションモデルにサーキュラリティを取り入れる

化石燃料の採掘と使用を中心としたモデルで事業を行うエネルギー業界は元来リニア型に分類されます。しかし、そうした企業でも事業の一部にサーキュラリティの要素を取り入れることは可能で、実際すでに化石燃料使用の影響を減らすための先進技術の活用が始まっています。例えば、米国の石油・ガス探査・生産会社であるOccidental Petroleumは、工場や発電所から出る温室効果ガスを大気中に放出せずに回収する方法を実証実験中です。回収したガスは古い油田に注入され、残った石油を押し出し、石油回収率の向上に使われます。ガスはそのまま地中にとどまり、自然環境には放出されません。また、Occidental Petroleumは、Allam Cycleという新技術の実証に取り組むテクノロジー企業への投資も行っています。Allam Cycleは低炭素発電を可能にする技術で、燃料の天然ガスを空気ではなく純粋な酸素で燃やすことで、CO2を出さずに電力を生み出すことができます。また、ガス火力発電所から排出され、健康に影響を及ぼす大気汚染物質の代表格である窒素酸化物の発生も防げます。

バッテリー(蓄電池)はカーボンフットプリントを減らすが、資源確保やイノベーションが必要

バッテリー技術の利用拡大は、再生可能エネルギーの貯蔵と運輸業界の脱炭素化の中核をなす戦略ですが、バッテリーの製造には大きなカーボンフットプリントが伴います。電気自動車(EV)については、その製造過程から排出されるCO2の量は内燃エンジン車よりも大きいものの、使用中の直接・間接のCO2排出量が少ないため、ライフサイクル全体の平均で見るとカーボンフットプリントは小さくなります。ただし、バッテリー製造にはレアメタルと呼ばれる希少な鉱物資源が必要となります。現在、その需要が急増し、資源の争奪戦となっていることからコスト増や地政学的な観点から調達できなくなるリスクがあるため、日本においてもレアメタルのリユース・リサイクル、レアメタル以外でのバッテリー製造といったイノベーションが重要となってきます。

例えば、ドイツでは大手自動車メーカーが素材加工・リサイクル事業者と連携して電気自動車の高電圧バッテリーからコバルトとニッケルを回収し、新しいバッテリーに使用する実証実験に取り組んでいます。また、中国の車載電池メーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)は米国電気自動車のテスラとコバルトフリーのリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の供給契約を結んでいます。

水素を活用し、セクターカップリングでP2Gを推進

バッテリー以外に注目すべき技術として水素を中心とした取り組みが挙げられます。水素を活用したセクターカップリングにより電力、ガス、運輸、化学、鉄鋼など幅広い業界の脱炭素化ソリューションの実現が見込めるため、複数の業界を組み合わせたサーキュラーエコノミーにおいて、水素は極めて重要な役割を果たします。つまり、太陽光発電や風力発電で生まれた余剰電力を水素に変えて貯蔵し、逆に電力が不足した際には水素を電力に変えて供給することができるのです。この技術はPower to Gas(P2G)と呼ばれ、ドイツのいくつかの電力・ガス会社が力を入れて取り組んでいます。また、世界最大のグリーン水素プロジェクトとしては、米国ガス事業者のAir Productsや、サウジアラビアの巨大なスマートシティプロジェクトのNEOMが参加し、50億米ドル規模のP2G技術を活用した水素製造施設の建設が進行中です。そこでは1日当たり650トンのグリーンアンモニアを製造し、世界各地にグリーン水素を供給する計画となっています。

サーキュラリティのエコシステム

上述のとおり、エネルギーおよびその関連業界でビジネスを展開する日本企業のサーキュラリティ実現に向けては、鉄鋼、ユーティリティ、自動車など、複数の業界の事業者が連携することによってエコシステムを構築することが重要となります。エコシステム構築に向けては、そこに利益を共有するコミュニティがあることを認識してコラボレーションできる仕組みを設計し、参加者がその推進に資するような文化やスキルを醸成する必要があります。また、そのコミュニティには政府や規制当局も含まれます。よって、エコシステムがいかにイノベーションを推進できるか、イノベーション実現のためにいかに迅速に規制を見直すことができるかがポイントとなります。

図2】 サーキュラリティのエコシステム 出典︓PwC「Take on Tomorrow 新たな未来への考察」

執筆者

片山 紀生

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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