【海外ユーティリティ企業40社の動向と日本企業への示唆(第2回)】~ビジネスモデル転換に向けたキートレンドと戦略的ポジショニング~

2020-06-01

※2020年6月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

前回は欧州、北米、アジア太平洋において上場する時価総額の大きいユーティリティ企業40社(Global Top40、以下GT40)が選択するビジネスモデルを紹介しました。今回はビジネスモデル転換に向けたGT40の取り組みや戦略的ポジショニングを概説のうえ、日本企業への示唆を考察します。

GT40のビジネスモデル転換に向けた5つのキートレンド

GT40はリスクを管理するとともに付加価値を創出し、ビジネスモデルを転換するために、下記の5つキートレンドに沿って、目に見える変化を遂げてきています。

  1. マーチャント市場と上流事業におけるリスク低減
  2. ネットワークおよび再生可能エネルギー投資への転換
  3. エネルギーサービスへの参入
  4. イノベーション施設や能力の拡大
  5. 戦略に適合したビジネスの合理化

1.マーチャント市場と上流事業におけるリスク低減

GT40は電力卸市場や原油・ガスの先物市場の価格の影響を受けやすい高リスク事業の上流開発や石炭火力への依存を減らし、脱炭素化を促進しています。

2.ネットワークおよび再生可能エネルギー投資への転換

GT40は信頼性の高い大規模な分散型エネルギー源(Distributed Energy Resources、以下DER)に対応するため、ネットワークへの投資を加速しています。また、欧州における持続可能なエネルギー目標や補助金は、再生可能エネルギーの魅力的な機会を創出しており、北米での7%に対して、欧州のプレイヤーは設備投資の約30%を再生可能エネルギーへ割り当てています。

3.エネルギーサービスへの参入

GT40は安定的に成長が見込めるセグメントの特定や顧客の囲い込みに向けてBTM(Behind The Meter:需要家サイド)のB2B、B2C製品・サービスを軸とした市場ポジショニングの確立に積極的に取り組んでいます。これらの製品・サービスは、DER、e-Mobility、スマートホーム等に渡って拡がっています。また、欧州のプレイヤーは、多くの場合、買収を通じてサービスラインを強化しており、2017年にEngieはEV-Boxを、EnelはEnerNocをそれぞれ買収しました。

4.イノベーション施設や能力の拡大

GT40はイノベーションを促進するために施設や人材に多額の投資を行っています。EDFは、世界10カ所に渡って広範なイノベーション・研究開発の拠点を保有しています。Enel、EDP、E.ONなどの欧州プレイヤーが8カ所の研究開発拠点を保有し、EDFに続いています。これらのイノベーションセンターでは、マイクログリッド、e-Mobility、デジタル化、蓄電池などの専門的なテクノロジーやアプリケーションの開発に取り組んでいます。

5.戦略に適合したビジネスの合理化

欧州のプレイヤーは戦略に適合するため、大規模な事業再編を通じてポジショニングの転換を図ってきました。2016年、E.ONは大規模発電をベースにしたUniperを分離し、E.ONは再生可能エネルギー、ネットワークおよびソリューションへの転換を図りました。2018年、E.ONとRWEはビジネスモデルをさらに明確にするため、保有資産(株式)のスワップに合意した。Ørsted は資産を積極的に売却し、再生可能エネルギーへのビジネスモデルの転換を図っています。

GT40の戦略的ポジショニング

差別化と成長度の2軸における各社の状態を踏まえて、GT40のポジショニングをプロットします。

図1の分類において、「Highly Innovative:高度に革新的」な企業は、新エネルギー(DER、蓄電池等)、新市場(スマートホームなど)で差別化し、新しい提案を展開しています。また、「Serial:連続的な成長状態」とは、発電から顧客ソリューションまで、多くの事業セグメントにまたがって成長していることを意味します。

Enel、Engie、EDFなどの欧州のユーティリティ企業がこの「Highly Innovative」かつ「Serial」に位置付けられますが、北米、アジア太平洋のプレイヤーと比較して従来のポジショニングの見直しや組織変革、新たな顧客価値の提供が進んでおり、優位的地位を確立しています。

図1:GT40の戦略的ポジショニング

市場全体で見ると、再生可能エネルギー、DER、蓄電池などの技術革新とコスト削減により、大規模集中型から小規模分散型の電源構成に移行するとともに、分散型電源同士を連携する電力系統や送配電事業、仮想発電所(Virtual Power Plant、以下VPP)の提供が拡大しています。

また、新たなビジネスモデルへの転換に向けて最も重要な要素が“Energy as a Service”となっている。Energy as a Serviceとは「テクノロジーを活用したエネルギー効率化やデータ分析、ディマンドレスポンス、マイクログリッド構築などのサービスをエネルギーと統合して提供すること」であるが、これらを新たな収益源としている。

ポスト電力システム改革に向けた日本企業への示唆

国内のエネルギー需要は人口減少や省エネルギーの進展で伸びが見込めないため、国内ユーティリティ企業は、積極的に成長ポテンシャルの大きい海外での事業展開を図っています。一方で、海外ユーティリティ企業は自国で培ったビジネスノウハウを元に、再生可能エネルギーやVPPなどの分野で日本市場への参入を拡げつつある。つまり、国内ユーティリティ企業は国内外で海外プレイヤーとの競争に打ち勝っていかなければなりません。

また、大手電力会社はこの2020年4月1日の送配電部門の法的分離により電力システム改革の一旦の区切りをつけることになりますが、再生可能エネルギーの主力電源化や原子力発電所の安全対策、自然災害を踏まえたレジリエンス強化など、ポスト電力システム改革としても取り組むべき課題は山積しています。

さらには、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により移動手段の燃料になる石油の需要が落ち込む一方で、テレワーク等の働き方の変化によりデジタル化が進展し、これまで以上に電化が促進されることが想定されます。

このような環境の下、国内ユーティリティ企業が市場ポジショニングや競合との差別的優位性を確立するためには、従来型の規制に対応した守りの戦略ではなく、脱炭素化、分散化、デジタル化を加速させる上述の海外の先進的企業のようにリスクや将来の不確実性に対応し得る、大胆な戦略や事業再編、M&A、絶え間のないイノベーション、スピード感のある施策実行が求められます。

PwC Japanグループではグローバルネットワークを活用した海外エネルギー市場調査、海外プレイヤーのベンチマーク、クロスボーダーM&A、需要・供給想定を踏まえた事業戦略策定、デジタルを活用した新規事業開発などにおいて豊富な実績があります。ぜひお問い合わせください。

“Global power strategies”のフルバージョン(英語版のみ:全60ページ)は下記からダウンロード可能です。また、CEOインタビューもこちらをご覧ください

執筆者

片山 紀生

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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