米国上院が日米租税条約改正議定書を批准

2019-07-18

1.米国上院における最近の動向

米国時間2019年6月25日、米国上院外交委員会において、長年停滞していた「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書」(以下、「議定書」)が可決されました。これに続き米国時間2019年7月17日、米国上院本会議において議定書が可決されました(賛成95、反対2)。今後は、大統領による批准書署名を経て日米両国による批准書の交換が行われた日に議定書は発効します。

議定書による主要な改正項目は以下の通りです。

2.改正のポイント

1)第10条(配当)、第11条(利子)

投資所得(配当及び利子)に対する源泉地国免税の対象が、以下の通り拡大されています。

現行条約

議定書

配当

免税要件:

(1)持分割合50%超

(2)保有期間12カ月以上

免税要件:

(1)持分割合50%以上

(2)保有期間6カ月以上

利子

原則:10%

原則:免税

金融機関等の受取利子:免税

2)第13条(譲渡収益)

不動産化体株式譲渡を定める第13条2項が改正され、所在地国で課税される「他方の締約国内に存在する不動産」の範囲が以下の通り規定されました。日本の不動産化体株式譲渡と米国の不動産化体株式譲渡が区分して規定されたことで、それぞれの国内法に対応しやすく改正されたものと考えられます。

a)第6条(不動産所得)に規定する不動産

b)当該他方の締約国が日本である場合には、その資産の価値が主として第6条に規定する不動産であって日本国内に存在するものにより直接または間接に構成される法人、組合又は信託の株式又は持分

c)当該他方の締約国が米国である場合には、合衆国不動産持分

3)第15条(役員報酬)

現行条約において「役員の資格で取得する役員報酬」とされているものが、議定書では「取締役会の構成員の資格で取得する報酬その他これに類する支払金」と改正され、「役員」の範囲が明確化されています。

4)第20条(教授)

一定の要件を満たす教授の報酬等について源泉地国免税の規定がありましたが、本条項は削除されました。

5)第23条(二重課税の排除)

現行条約では議決権付株式の10%以上とされている保有株式要件が、議定書では発行済株式の10%以上とされています。

6)第25条(相互協議)

条約の規定に適合しない課税に関する相互協議手続に関して、日米税務当局間の協議により2年以内に事案が解決されない場合には、納税者からの要請に基づき、第三者から構成される仲裁委員会の決定により事案を解決することが新たに規定されています。

7)第27条(徴収共助)

相手国の租税債権の徴収を相互に支援する徴収共助について、現行条約では条約濫用の場合に対象範囲が限定されていますが、議定書では滞納租税債権一般について適用されるように対象範囲が拡大され、具体的な実務手続きが明記されています。徴収共助の対象となる税目は、日本については、所得税、法人税、復興特別所得税、地方法人税、消費税、相続税、贈与税です。

3.適用対象

1)源泉徴収される租税:議定書の発効日3ヶ月後の日の属する月の初日以後に支払われる額から適用。

(例)2019年9月16日に発効した場合:2019年12月1日以後に支払われる額

2)その他の租税:議定書発効年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度に適用。

(例)2019年9月16日に発効した場合:2020年1月1日以後開始各課税年度

3)第25条(相互協議)の改正により加わる仲裁制度規定:

a)議定書発効日において日米の権限のある当局が検討を行っている事案については議定書発効日から適用。

b)議定書発効後に検討が行われる事案については、検討開始時から適用。

4)第26条(情報交換)第27条(徴収共助)の改正後の規定;議定書発効日から適用。

参考

日米租税条約改正議定書テキスト、説明書および概要(外務省)

【本件についてのお問い合わせ先】

PwC税理士法人 米国タックスデスク

パートナー 山岸 哲也
パートナー 山口 晋太郎
ディレクター 小林 秀太

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ディレクター 有馬 一茂