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労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)(以下「改正法」といい、改正法による労働安全衛生法の改正を「本改正」といいます。)が成立し、2025年5月14日に公布されました。改正法の一部は公布日に既に施行されており、今後は、2026年1月1日以降順次施行されていく予定です。
本改正は、建設アスベスト訴訟の最高裁判決や建設業において個人事業者の業務上の災害が相当数発生しているという実情等を踏まえて、主に、①個人事業者等に対する安全衛生対策、②職場のメンタルヘルス対策の推進、③化学物質による健康障害防止対策等の推進、④機械等による労働災害の防止の促進及び⑤高齢者の労働災害防止の推進に係る措置を講じるものです。本改正は、安全で健康的な作業環境の確保に資するものであって、企業において人権尊重の取組みを講じる上で重要な意義を有するものと考えられますので、本ニュースレターでは、改正法の主な内容及び今後事業者において対応が求められる事項について概説します。
従来、労働安全衛生法に基づき事業者に義務付けられている措置は、事業者に雇用される労働者を危険有害因子から保護するためのものとして位置づけられ、同法による保護対象は基本的に労働者に限定されてきました。しかし、いわゆる建設アスベスト訴訟の最高裁判決(令和3年5月17日最高裁第一小法廷判決)において、最高裁が一人親方等労働者には該当しない者についても労働安全衛生法第22条及び第57条で保護される旨の判断を示した1ことを受け、労働安全衛生法等の規制の見直しを図ることとなりました。労働政策審議会安全衛生分科会及び有識者で構成された検討会において、保護対象とすべき者の範囲、保護措置の内容、保護措置をとる義務を負う者等について議論が進められ、2023年10月、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会報告書」(以下「検討会報告書」2といいます。)が公表されました。検討会報告書では、労働安全衛生法に関する制度を見直す必要性として、概要、以下のような事項が指摘されています。
かかる状況を踏まえて、検討会報告書では、労働者が行うものと類似の作業を行う者については労働者であるか否かにかかわらず労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであるという考え方の下、講ずべき措置の内容や、措置を講じる義務を負う主体、罰則の有無等について整理を行い、厚生労働省に対して法改正等を提言しています3。
本改正はかかる経緯を経て、今般成立したものです。
なお、本改正に先立ち、2022年4月、労働安全衛生法第22条に関連する、労働安全衛生規則等の11の省令が改正されています。この省令の改正により、2023年4月1日以降、事業者には、請負人(一人親方、下請業者)及び労働者以外で作業場所にいる者(資材搬入業者、警備員等)に対して、一定の措置を実施することが義務付けられました4。
本改正では、主に以下の視点からの改正が行われています。なお、以下では、改正法による改正後の労働安全衛生法を「法」といいます。
(1)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
(2)職場のメンタルヘルス対策の推進
(3)化学物質による健康障害防止等の仕組みの整備
(4)機械等による労働災害防止対策
(5)高年齢者の労働災害防止の推進
それぞれの改正内容の概要は、以下のとおりです。
①統括安全衛生責任者の選任(法第15条第1項、同第3項)
②店社安全衛生管理者(法第15条の3第1項、同第2項)
③労働災害防止策(協議組織の設置及び運営、作業間の連絡及び調整、作業場所の巡視等)(法第30条第1項、同第2項及び同第4項並びに第30条の2第1項及び同第4項)
①使用する機械等は所定の規格又は安全装置を具備すること(法第42条第3項)
②機械等について定期的な自主検査を実施し、その結果を記録すること(法第45条第2項及び同第3項)
危険有害な化学物質を譲渡・提供する者(メーカー、卸売等)による
①危険有害情報(化学物質の名称、人体に及ぼす作用等)のラベル表示
②譲渡・提供の相手方への安全データシート(SDS)の交付
譲渡・提供を受けるユーザー企業等による
③危険性・有害性等の調査(リスクアセスメント)
④ばく露低減措置(例:必要な保護具の使用)
従来、上記①ないし④の対象は特別規制による個別規制の対象となっている物質に限定されていましたが、物質の多様化や国際的な潮流を踏まえ、2023年の労働安全衛生法施行令の改正によって、GHS分類の結果、危険性又は有害性があるもの全てが規制の適用対象とされるよう、対象物質が拡大されました(対象物質は今後も順次追加される可能性があります)。
かかる経緯の下、本改正では、以下のとおり、化学物質による健康障害防止等の仕組の更なる規制強化が図られました。
本改正は、労働者のみならず個人事業者等を含む多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、事業者に新たな義務を課し、又は、既存の義務の範囲を拡大するものであり、働き手の人権尊重の取組みを行う上で重要な改正であると考えられます。
また改正法の一部は2025年5月14日に既に施行され、多くは2026年1月1日から段階的に施行されることとされています。そのため、企業としては、専門家の助言を受けて、改正法のうち自社に適用のある条項及びその施行日を予め特定し、施行日までに、社内規程の制改定や必要な措置を講じる体制を整備しておく必要があります。
1 建設アスベスト訴訟は、建設業務に従事していた元労働者等とその遺族等が、石綿による健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったからであるとして、国家賠償法に基づく損害賠償を請求した訴訟です。最高裁は、一人親方等労働者に該当しない者が安全衛生法第22条及び第57条に基づく保護対象に含まれるかという争点に対し、労働安全衛生法第22条(に基づく特定化学物質障害予防規則)は、特別管理物質を取り扱う作業場という場所の危険性に着目した規制であり、その場所において危険にさらされる者は労働者に限られないため、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨の規定である旨判示しています。また、安全衛生法第57条に関しては、労働者に健康被害を生ずるおそれのある物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者は労働者に限られないため、同条は労働者に該当しない者も保護する趣旨の規定である旨判示しています。
2 「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会 報告書」(令和5年10月)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36009.html)
3 検討会報告書の提言を踏まえた対応の一環として、本改正に先立ち、2024年5月28日、厚生労働省から「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/001257620.pdf)が公表されました。同ガイドラインにおいては、(i)健康管理に関する意識の向上、定期健康診断の受診等個人事業者等が実施すべき事項、(ii)健康診断受診費用への配慮、メンタルヘルス不調の予防、注文条件に関する配慮、医師との面談の機会の提供等注文者等が実施すべき事項が具体的に記載されています。
4 基発0415第1号(令和4年4月15日厚生労働省労働基準局長)(https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000930497.pdf)。
5 元方事業者とは請負契約(契約が2以上ある場合には、最も先次の請負契約)における注文者を意味し、特定元方事業者とは元方事業者のうち特定事業(建設業及び造船業)を行う者を意味します(法第15条第1項、労働安全衛生法施行令第7条第1項))。「(特定)元方事業者等」と記載しているのは、本文に挙げた各義務の主体には、特定元方事業者(法第15条第1項)、建設業に属する事業の元方事業者(法第15条の3)、製造業に属する事業の元方事業者(法第30条の2)等があり、義務の内容によってその主体が異なるためです。
6 関係請負人とは元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって行われるときは、当該請負人の請負契約の後次の全ての請負契約の当事者である請負人を指します(法第15条第1項)。
7 検討会報告書6ページ参照。
8 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」(https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000609494.pdf)
9 本改正の概要に関する説明8頁(https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001497667.pdf)
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