インパクトベースのサステナビリティ経営―制度会計化を目指すインパクト加重会計フレームワーク(IWAF)の目指すもの(前編)

2022-07-08

企業活動によって生じる外部不経済(インパクト)を定量指標により測定し、金銭価値化する「インパクト可視化」が近年急速に注目を集めています。今回は、インパクト可視化のイニシアティブの1つである「インパクト加重会計イニシアティブ」(以下「IWAI」)、およびそのフレームワークである「インパクト加重会計フレームワーク」(以下「IWAF」)について前編・後編に分けて紹介します。

IWAI/IWAFの特徴は、主に以下の3つのポイントになります。

  • IWAIは「インパクト加重会計」(以下「IWA」)を近い将来、制度会計化・監査対象化し、既存の資本主義を変革することを意図している
  • IWAFはサステナビリティやインパクト可視化に関わる複数のイニシアティブの考え方を取りまとめており、今後主流となり得るフレームワークの1つである
  • IWAFの目指す情報開示は、既存の財務諸表を拡大し、六つの資本ごと、ステークホルダーごとにマルチボトムラインにてインパクトを示す点で画期的である

1.インパクト可視化とは

サステナビリティ経営の推進にあたり、サステナビリティ活動がどのようなメカニズムにより長期的な企業価値向上につながっていくかを整理できていないため、より効果的な打ち手、それらに対する適切な資源配分を検討することが難しいということが挙げられます。その課題に対応するために近年急速に注目を集めているのが、「インパクト可視化」です。インパクト可視化とは、企業活動によって生じる外部不経済(インパクト)を定量指標として測定し、金銭価値化することを指します。インパクト可視化はテーマ横断的な非財務指標の比較を可能にし、目標設定や投資効果の見える化に活用できます。

2.IWAI/IWAFの目指すもの

ハーバード・ビジネス・スクールが中心となって開発するIWAIは、既存の損益計算書や貸借対照表などの財務諸表に従業員、顧客、環境といった社会に対する企業のプラスおよびマイナスのインパクトを反映させることにより、統合的な意思決定に資する財務諸表を作成することを目指しています。財務諸表上の最終損益にインパクトを加減するという点で、既存の財務諸表開示フレームワークの延長上にあると言え、企業・投資家の双方にとって取り組みやすく・理解しやすいという特長があります。

IWAIは現在の資本主義を見直し、全ての人と地球のためにより包括的で持続可能な資本主義を創造することが必要だと提唱しています。財務会計インフラの整備が大規模資本市場の発展に必要であったように、インパクト評価の会計への組み込みは、持続可能性を考慮した資本市場の発展のために必要不可欠であると考え、近い将来、インパクト評価の情報開示を規制化し、従来の財務諸表と同様、独立した第三者による監査が行われることを目指しています。インパクト評価に係る国際基準の標準化については、2022年6月GSGインパクトサミット において、GSG議長ロナルド・コーエン卿が「国際基準は早ければ2025年に導入されるであろう」 と期待を寄せています。

3.IWAFの概要

企業が実際にIWAに基づく財務諸表を作成するため、2022年にIWAFが公表されました3。IWAFは下図のように6つの資料から構成されており、2022年9月9日までがパブリックコンサルテーション期間となっています。なお、IWAF第1版は2022年末に公表される予定です。

各資料の主な内容とページ数は以下のとおりです。

図表1 IWAFフレームワーク各資料

出典:Impact Economy Foundation「IMPACT-WEIGHTED ACCOUNTS FRAMEWORK」(2022年)を基にPwCが作成4

  • Summary/サマリー
    インパクト測定が重要である理由、IWAFの目的、IWAFの10の原則を簡潔に説明しています。イラストを多用し、IWAFの概念をわかりやすく説明する内容になっています。IWAFについて知りたい場合に、最初に読むことが推奨されています。
  • Introduction/はじめに
    IWAがなぜ重要なのかを紹介し、財務的な価値創造を超えてインパクトを測定し、それをフレームワークに取り込むことの必要性を示す内容となっています。インパクト可視化を取り入れたい企業や、長期的価値創造を理解したい投資家に向けた内容になっています。
  • Conceptual Framework/概念的枠組み
    IWAFの導入を検討している企業および投資家向けに、主に概念フレームワークを紹介する内容となっています。企業に共通する5つの課題と、それらに対応する10の原則を説明しています。
  • Framework/IWAF本文
    IWAFの本文であり、3部から構成されます。第1部はIWAで用いられる用語の定義、情報開示上の一般的な要件などを紹介しています。第2部はインパクト加重会計の情報開示である統合損益計算書(IP&L)および統合貸借対照表(IBaS)について、その概念および作成方法を解説しています。第3部はIWA導入時の企業が実施すべき一般的なプロセスについて、4つのステージと10のステップに分けて解説しています。
  • Guidance/ガイダンス
    IWAを導入するためのステップ・バイ・ステップガイドです。架空の企業を例に、イラストを交えてインパクト加重会計導入時の手続きを具体的に解説しています。さらに「Further reading」として、推薦する外部公表資料を紹介しています。
  • FAQ/よくある質問
    3部構成からなるFAQであり、①一般的な質問とその回答、②IWAFと他のイニシアティブなどとの関係性、③10の原則と参考にしたイニシアティブについて解説しています。また、IWAFは原則主義であることが明言されています。

IWAFについて解説する連載の前編となる本稿では、既存の会計を基に開発されたIWAFが将来的に制度会計化を目指していることを解説したほか、IWAFを構成する各資料を紹介しました。後編では、IWAFの目指す情報開示である統合損益計算書(IP&L)、統合貸借対照表(IBaS)を紹介し、IWAFがサステナビリティやインパクト可視化に関わる複数のイニシアティブを反映して設計されている点について解説します。

また、PwC JapanグループはIWAFの解説を含めたThought Leadership「インパクトベースのサステナビリティ経営~インパクト加重会計(IWA)フレームワークの理解とインパクト可視化の今後の展望」の発行を8月に予定しています。また、企業活動のインパクトの可視化を支援するSustainability Value Visualizerという手法を開発しています。

1:GSG, 2022年. 「GSG IMPACT SUMMIT SERIES」(2022年6月20日閲覧) https://gsgii.org/impact-summit-series-2022/.

2:Pioneers Post, 2022年. 「Impact transparency is ‘revolutionising’ behaviours, says Serafeim at GSG Summit」(2022年6月20日閲覧)
https://www.pioneerspost.com/news-views/20220617/impact-transparency-revolutionising-behaviours-says-serafeim-gsg-summit.

3:Impact Economy Foundation,2022年.「Our Initiatives」(2022年6月10日閲覧)
https://impacteconomyfoundation.org/.

4:Impact Economy Foundationはハーバード・ビジネス・スクール(IWAI)、シンガポール・マネージメント大学、ロッテルダム経営大学院、Impact Instituteとのパートナーシップである

執筆者

磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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山田 弓子

アソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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