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社会を変えることを1人で成し遂げることは難しいため、仲間を集めて力を合わせる必要があります。そのためにはただ単に仲間内で盛り上がっているだけではなく、取り組みの中核を成し、推進の原動力となるようなコミュニティを作ることが求められます。そういったコミュニティは「ビジョン実現に必要なリソースやサポーターを引き寄せて力を1つにする場」「ビジョン実現に向けて動くこと・考えることをともにする場」と定義できます。
一人ひとりの中に芽生えたビジョンに共感する気持ちや、「何かやってみよう」という気持ちを集めて連結させ、1つの力や声にして行動につなげていきます。そして1つになった力や声は、これまで進んでいなかった課題解決を前進させ得る力を持ちます。また、コミュニティが目指す課題解決を後押しし、その影響力を大きくしていくことにつながります。
そういった好循環が生まれているコミュニティには、いくつかの特徴があります。本稿では、人と人の結び付きである「紐帯」に注目します。
米国の社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱した「弱い紐帯の強み(The strength of week ties)」とは、「緊密で親密な社会的なつながりを持つ人より、弱い社会的なつながりを持つ人の方が、自分にとって新規性のある情報をもたらしてくれる可能性が高い」とする考え方です。聞きなれない用語である「紐帯」とは、「人と人との結び付き」と解釈しましょう。
このコミュニティが自分にとって有益だと考えるものについては、「弱い紐帯」が多く存在しているものです。
毎日話をして、おおよそ考えていることが分かるような家族や、関心事項が似たような同僚、あるいは趣味嗜好が似ている親しい友人などは、同じような社会空間で行動をしています。そのため、接する中でやり取りする情報の多くは自分が知っていることであり、紹介される人は既に知り合いであったり、似たようなタイプだったりすることがほとんどです。よって、目新しい情報に触れることは多くはありません。
一方、弱い紐帯で結び付いている人、つまり少し知っている程度の知り合いは、自分とは異なる社会空間で行動しています。よって、自分が知らないことを知っていたり、思ってもみなかった人を紹介してくれたりする可能性が高くなります。そして日頃、あまり接することのないような情報を受け取ることができるのです。
情報は人から人へと流れていきます。日頃から緊密度が高く、強い紐帯で結ばれている人の間では、親しみ慣れた情報が流れていきます。しかし、日常的に接することがないような弱い紐帯で結ばれている人の間では、その紐帯を通して目新しい情報が流れていきます。紐帯を通じて、情報が伝播し、広く拡散されていきます。
コミュニティにおいて自分にとって有益な情報が行き来するためには、「弱い紐帯」が多く存在していることが重要です。社会に対する課題や自分の関心事項、あるいは社会情勢などの重要なニュースを効率的に行き来させ、さらに互いに気付きを得たり、思考を深めたり、また解決のために必要な知識やスキルを持ち寄ったりするような機能を持つコミュニティとするには、このような仕掛けが必要です。
会社組織でも、地元住民の集まりでも、関心事項をともにする集まりでも、それら一つひとつがコミュニティです。人は意識的に、あるいは無意識にいくつかのコミュニティに所属しています。
コミュニティがうまく立ち上がると、いろんな人間関係ができあがっていきます。その中には強い結び付きや弱い結び付きがあり、時には衝突しながらも穏やかな結合を保ち、全体調和が図られていきます。
コミュニティプロデュースの役割を担う人は、コミュニティの編集に取り組むことになります。そして紐帯同士の質を向上させるような策を講じたり、別のコミュニティとの紐帯を作ったりしていきます。これまで、なんとなく雰囲気で作り上げてきたコミュニティの中に、しっかりと意味のあるつながりを作り上げていきます。別のコミュニティなどとの橋渡しは、ブローカーの存在が必要となるため、別のコラムでご紹介します。
コミュニティに属する人々は、そこに属していないと接することができない異質なものを取り込むこと、自分に何か新しい示唆を与えてくれるものに期待しています。同質性の高い集団に多様性の考え方を取り込むのではなく、元から少し違う人同士を共存させて、その差異や違いも学びにしようという編集力が求められていきます。
これからの課題解決では、特定のテーマを深く掘り下げて思考することや、隣接するテーマに関係する情報の収集に取り組むことももちろん必要ですが、あまり関係のないような異質な領域の情報に触れ、新しい着想を得ることも大事です。
人と人、組織と組織の関係性を変えていきながら、一緒に考えたり動いたりする仲間がいる豊かなコミュニティを持つことは、組織が社会に向かって新しい分野やテーマを開拓していく際の重要なポイントだと考えます。
【参考文献】