スマートアグリシティと脱炭素

2022-08-23

国連食糧農業機関(FAO)によれば、「農業・森林・その他土地利用」からの温室効果ガス(GHG)純排出量は年間77億トン(2018年)であり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表している世界全体の排出量(490億トン)の16%を占めています。

「農業」と「森林・その他土地利用」とに分けた場合、影響の大きな項目(各上位3位)は以下のとおりです(FAO、2018年)

領域 項目 GHGの種類 数量
農業 消化管内発酵 CH4 20.9億トン
  燃料利用 CO2 9.5億トン
  草地に放置された家畜の糞尿 N2O 8.8億トン
森林・その他土地利用 森林による吸収 CO2 -26億トン
  森林から農地などへの用地転換による増加 CO2 29億トン
  耕作地からの排出 CO2 6.8億トン

農林水産分野における温室効果ガスの削減方法の方向性について、現在農林水産省が取り組んでいる環境イノベーションの方向性をまとめた表は以下になります。

農地や森林、海洋によるCO2吸収
  海藻類の養殖技術や、ブルーカーボンの創出など
  バイオ炭の農地への投入や、早生樹・エリートツリーの開発および普及など
  高層建築物の木造化や改質リグニンをはじめとするバイオマス素材の低コスト製造や、量産技術の開発および普及
農畜産業からのメタン・N2O排出削減
  メタン排出の少ないイネや家畜の育種や、N2Oの発生を削減させる資材の開発
  メタン・N2Oの排出を削減する農地や、家畜の管理技術の開発
  メタン・N2Oの削減量を可視化するシステムの開発
再エネの活用およびスマート農林水産業
  農山漁村に適した地産地消型エネルギーシステムの構築
  作業最適化などによる燃料や資材の削減
  農林業機械や漁船の電化や、水素燃料電池化など

スマートシティ・まちづくりの観点からは、「農山漁村に適した地産地消型エネルギーシステムの構築」が関連しますが、ここ数年、このエネルギーシステムの構築に関して先進的な事例が出てきています。

  • 環境省は2022年4月、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭部門、業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロの実現を目指す「脱炭素先行地域」の1つとして、バイオガス発電を活用した街づくりを実践している北海道上士幌町を選定しました。上士幌町では、「かみしほろ電力」により、バイオガスプラント(6基分、1,950kW)で発電された電気を特定卸供給により地域に供給しているのですが、町内全域(住宅2,505戸が含まれる)を対象として設定しており、脱炭素先行地域の第1回公募において採択された自治体の中でも、取り組みが広範にわたっていることが特徴です。
バイオガス発電の 概要
  • ある総合ガス企業では、自社で経営する菜園に併設された木質バイオマス発電所においてトリジェネレーション(発電で生じた電気・熱に加えてCO2も農業に活用)を実現しており、エネルギーの地産地消だけでなく、林業振興(通常であれば廃棄される木材の有効活用)や農業振興(熱・CO2といったエネルギーコストの削減)といった地域課題の解決にも寄与しています。また、当該菜園では、通常ではあればCO2施用するために燃やしていたLPGが不要になることから、J-クレジット1のプロジェクトに認証され、J-クレジットの販売による収益化への道を切り開きました。
農業を中心としたエネルギーマネージメントシステムの 概要

上記の事例のように地域の資源を活用し、電気を生み出し、農業に活用するのみならず、余った電力を売電することにより得られる収益を地元に還元する取り組みが出てきています。さらには、J-クレジットの創出による新たな収益源までも生まれてきており、「持続可能な農山村」に向けて、環境・社会価値に対する適切な対価が、適切なプレイヤーに還元される仕組みが生まれつつあります。

なお「スマート農業」については、本連載の第25回『スマートアグリシティ』において、「農業により社会の連帯・連携をより一層深く広くする活動のことである」と述べました。脱炭素社会の実現に向け、スマート農業が多くの地域においてのエネルギーマネジメントの中心的な役割を担いつつあります。

  1. J‐クレジット制度:省エネルギー設備の導入や森林管理により削減・吸収される温室効果ガスの排出削減量・吸収量を、「クレジット」として国が認証する制度

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