
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2022-06-28
日本におけるスマートシティの取り組みは、実証実験のステージから実装のステージへと移りつつあります。国は2022年3月、日本のスマートシティの先端を走る「スーパーシティ型国家戦略特区」に2つの自治体、「デジタル田園健康特区」に3つの自治体を指定し、特区における規制・制度の緩和を含むスマートシティ開発の推進と、デジタル化のすそ野を広げる取り組みとして、誰一人取り残されないデジタル社会の実現を目指し、データ連携基盤を含むデジタル活用により地域の課題解決を図る「デジタル田園都市国家構想」の推進に着手しました。また、スマートシティと関連性が深い脱炭素の取り組みとしても、100箇所を選定することを目指す「脱炭素先行地域」についても第1回公募で26箇所が指定され、いよいよ本格的な取り組みが加速していくものと思われます。
実証実験のステージでは、斬新なアイデアや最新テクノロジーの可能性にチャレンジしていくことが重要でした。しかし実装のステージでは、スマートシティ推進の取り組みが真に地域の課題解決に貢献することはもちろんのこと、地域社会の仕組みや地域の社会インフラとして持続可能であること(サステナブルスマートシティの実現)の重要性が増していきます。
サステナブルスマートシティを実現するためには、以下の3つの要素(図表1)を踏まえる必要があると考えています。
第1に、住民や来訪者などの地域に関わる全ての人の「ウェルビーイング」の向上に貢献するものであることが求められます。「ウェルビーイング」は、年齢、言語、文化、性別、価値観、障がいの有無などの観点で多様性を尊重しながら社会課題を解決することにより、精神的、身体的、社会的な健全性を確保して、全ての人に多面的な幸福をもたらすことを意味します。
第2に「経済性」の担保が求められます。ここでの「経済性」とは、利用者と提供者の双方にとって経済的な合理性を追求することを意味します。実証のステージにおいて国の補助金を活用してスマートシティの仕組み、テクノロジー、サービスを導入したものの、補助の終了とともに頓挫してしまったというケースも見受けられます。実装のステージにおいては、スマートシティが提供するサービスの価値とコスト負担のバランスが取れるよう、地域のエコシステムを形成し、持続させることが重要です。
第3に、「環境に配慮したインフラストラクチャー」の採用が求められます。日本においても「温室効果ガス排出量を2030年までに2013年度比46%減、2050年までに実質ゼロ」を実現するための脱炭素の取り組みが本格化しており、地域においても脱炭素の取り組みが急務となってきています。このような背景のもと、スマートシティは省エネや再エネ利用を促進するなど、地域のCO2排出量削減を後押しし、脱炭素のみならず水資源の管理、より良い都市設計、緑地管理や生物多様性対応など環境全般の取り組みに貢献するものであることが望まれます。
図表1:サステナブルスマートシティの3要素
出典:「未来のモビリティが推進する持続可能なスマートシティ」(PwCコンサルティング・Google)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/driving-future-mobility-for-sustainable-smart-cities.html
「2050年日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」において、PwCは「スマートシティは住民中心の思考で検討すべきであり、かつ社会課題の解決を目的として推進すべきである」と定義し、スマートシティが提供する11の機能(図表2)を示しました。サステナブルスマートシティを実現するためには、提供するサービスがテクノロジーの押し付けとならないよう、住民や来訪者など全ての人のニーズを起点に機能・サービスを設計し(ヒューマンセントリックアプローチ)、提供するそれぞれの機能において「ウェルビーイング」「経済性」「環境に配慮したインフラストラクチャー」の3要素全てをバランスよく満たしながら、サービスを導入することが重要です。
例えば、地域のモビリティサービスを導入する際には、障がい者や高齢者を含む全ての人のモビリティニーズを満たせているか(ウェルビーイングの視点)、サービス提供者が持続可能な適正水準の利益を確保でき、利用者は適正な価格で利用できているか(経済性の視点)、サービス導入が地域のCO2排出量の削減に貢献しているか(環境に配慮したインフラストラクチャーの視点)、などをバランスよく考慮し、継続的に改善していくような仕組みを構築する必要があります。
いよいよ本格化する日本のスマートシティの取り組みにより、地域の課題が持続的に解決されるような社会が形成されることを願っています。
図表2:スマートシティの11の機能
出典:「2050年日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」(PwC Japan グループ)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/smart-city2050.html
このたび、サステナブルスマートシティ×モビリティをテーマとしたソートリーダシップ「未来のモビリティが推進する持続可能なスマートシティ」をGoogleと共同発行しました。ぜひご一読ください。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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