
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2021-06-22
朝起きてダイニングに向かうとスマートスピーカーから今日の予定が伝えられた。今日は定期健康診断の日だ。その場でタクシーの予約を口頭でスマートスピーカーに伝える。
予定通りにタクシーが配車され、行き先を告げることなくかかりつけの病院へ。手元の診察アプリには病院からの問診票が届いている。日々の血圧や体温などはすでに連携されているようだ。その場で前回の診察からの身体の変化を入力する。
病院のゲートをくぐると、アプリのステータスが「予約」から「来院」に自動的に変わった。そのままスマートフォンに案内表示された診察室へ。少し待つと名前が呼ばれた。すでに問診内容は医師の手元に届いている。異常はないが、次回は定期検査が必要とのこと。先生にお礼を伝え、診察室を後にすると、即座に次回検査/診察日のレコメンドがスマートフォンに表示された。カレンダーと連動しているので、スケジュールの重複は発生しない。示された候補日時から1つを選んで確定する。
会計は自動決済なのでそのまま病院を後にする。病院の滞在時間はおよそ20分。家について一息入れているといつもの薬が届いた。内容を確認し、スマートフォンに受け取り確認のバーコードを読み取らせる。まだお昼前だ。これから何をして過ごそうか。
数年後の日常風景はいかがだったでしょうか。このレベルであれば「もうすぐ実現する」と感じた方も多いのではないでしょうか。これらのサービスやアプリ、要素技術はいずれもすでに実装段階にあり、薬剤の配達などについても一部で実証実験が始まっています。
ではなぜ、このような未来がまだ実現していないのでしょうか。大きく2つの障壁があると考えられます。
1つ目は個人情報の連携です。特に医療情報は国内法において、要配慮個人情報に該当するため、その活用や第三者への提供については一部の目的を除き、患者からの同意取得が実質必須となっています。このような未来の実現にはサービスやアプリを横断したシームレスな情報連携が必須となりますが、患者をはじめとする利用希望者も、サービスを提供する事業者も現段階では未定の状況です。誰がどのようなタイミングでこれらの同意を取得するのか、また取得すればよいのかが決めきれていないため、シームレスな情報連携の実現には至っていないと考えられます。
2つ目は費用対効果です。上記の未来を実現するためには、病院側も自動ゲートや患者を追跡するセンサーなど、新たな設備投資が必要となります。しかし、病院側は業務効率化などのメリットは理解できるものの、利用者数や費用対効果が読めないため、投資に踏み切れないのが現状だと考えられます。
個人情報に関する同意や、費用対効果いった障壁を解消する一つの可能性がスマートシティだと考えています。例えば、ある特定の地区において「当該地区にお住まいの方は近未来的なサービスが受けられます。ただし、そのためには個人情報などのシームレスな連携に同意が必要です」という形で、住民が居住を始めるなどのタイミングに合わせて、自治体やデベロッパーが包括的な同意を取得するという手段が考えられます。そして、スマートシティにサービスを提供する事業者は自治体やデベロッパーの取り決めた情報の取り扱い規約に同意するというわけです。このような仕組みを整えることで、各サービス提供者は安心して事業者間で必要な個人情報を共有することが可能になるのではないでしょうか。
この包括的な同意は任意であることが想定されるため、スマートシティ開発前から居住している人を含め、全住民の同意を取ることは現実的には難しいかもしれません。しかし、地域の一定数の住民が新たなサービスの利用を希望する場合、近隣やスマートシティ内の病院なども設備投資に踏み切りやすくなると考えられます。
少し前まで絵空事として描かれていた未来はすぐそこまで来ています。未来に向けて、地域単位のシームレスな情報連携体制を構築することこそが、利便性が高く、誰にとっても快適な医療体制実現の鍵だと言えます。「数年後」が1~2年後なのか、10~20年後なのか。それを決めるのは、まさに今の私たちと言えるでしょう。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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