ICTの活用による農村地域の活性化

2021-06-08

将来の予測が困難なVUCA(Volatility=激動、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=不透明性)の時代において、社会および経済環境、企業の競争環境、人々の価値観、雇用と労働の在り方は急速に変化しています。加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は人と人とのつながり方に急激な変化をもたらし、リモートコミュニケーションを活用した生活様式が、ニューノーマルとして浸透しつつあります。

農村地域に目を向けると、このような変化に応じて農泊とリモートワークを組み合わせた「ワーケーション拡大」や、リモートワークの傍ら農業に関わる「半農半X」という取り組みが見られるようになりました。総務省のICT地域活性化事例では、ローカル5Gの導入による露地栽培を行なっている北海道岩見沢市、水田センサにより水温や水位などを遠隔地から確認することで効率的な管理に取り組んでいる新潟県新潟市、最新のリモートセンシング技術を活用して森林資源のモニタリングなどを行っている岡山県真庭市など多くの事例が挙げられており、これまでICTの恩恵を受けにくかった農村地域においてもインフラが整い、誰にでもICTを用いることで変革を起こせる可能性が秘められていることを示しています。

農村地域の課題とスマート農業の取り組み

農村地域が抱える課題として、大都市圏への人口流出、高齢化、総人口の減少が挙げられます。1次産業を中心とする農村地域でこの傾向は特に顕著であり、2045年までに山間農業地域における人口は半減し、平地農業地域でも人口が3割減少することが見込まれています。主要産業従事者の所得が低いことから「担い手不足」による農業従事者の減少も進行しています。

これらの課題を解決し、1次産業の中でも農業分野の所得向上や新規就農者増を実現するため、農林水産省がスマート農業の取り組みを進めています(第25回コラム「スマートアグリシティ」参照)。農業分野へのデジタル技術・ICTの活用は製造業などの他産業に比べて立ち遅れていましたが、この取り組みによって農業を「テクノロジーを活用した魅力ある産業」に変え、新規就農者の拡大および農業経営体の経営改善が図られています。

スマート農業の取り組み例

  • 労務削減・省力化のための技術(自動化ロボットなど)
  • 生産高度化に向けた技術(収穫量予測など)
  • 農業経営高度化のための技術(営農システム化など)

ICTの活用による農村地域の活性化

ICTの活用は「新しい生活様式」に対応したリモート化として推進が図られています。これは5Gに代表される高速・大容量の通信を用いた通信や、IoT機器用の無線技術であるLPWA(Low Power Wide Area)により農業現場と従事者や関係者を繋ぐことで、全員が常に同じ地域にいなくても農業を可能にするものです。

図表1: ICT技術と提供される価値

このようなリモート化は、スマート農業によって生み出されるメリットをその地域だけでなく、他の地域へも展開可能であることを示しています。つまり、農作物の生産・販売という「フィジカルな地域資源」が主であった1次産業にも、貨幣価値だけでは計ることができない経験・体験といった「バーチャルな地域資源」を生み出す余地が生まれることを示しています。例えばICT技術を用いて、次のようなことが実証、検討されています。

  • 農園のバーチャル観光資源化
    低遅延の通信技術を組み入れたロボットや人間拡張技術を用いて、実際に現地を訪問せずに農業観光体験を行う
  • 遠隔指導による栽培技術の面的普及
    高速・大容量な通信が可能な無線技術を採用したスマートグラス(AR技術)を活用することで、新規就農者に対して遠方にいる経験豊富な農家が直接栽培技術を指導する
  • 持続可能な形での農福連携の実現
    LPWAなどの無線技術を活用することで農場のデータを収集し、低遅延の無線技術を搭載したロボット栽培管理技術を導入することで、農園への往訪が困難な就業困難者の遠隔での農作業を実現する

このような取り組みは、所得および生産性の向上や地域の福祉に貢献するものであり、農村地域の課題解決を後押しする「仕組み」そのものと言えます。ICTを中心とした新たなテクノロジーを活用して、農業生産性の向上および分野・地域の枠を越えた価値の提供を行う「仕組み」こそ、これからの農村地域の社会課題の解決に有効であると考えられます。

新たなテクノロジーを活用した「仕組み」によって地域の社会課題を解決する「スマートシティ」は、農村地域においても重要な取り組みとなるでしょう。

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