
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2021-06-08
将来の予測が困難なVUCA(Volatility=激動、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=不透明性)の時代において、社会および経済環境、企業の競争環境、人々の価値観、雇用と労働の在り方は急速に変化しています。加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は人と人とのつながり方に急激な変化をもたらし、リモートコミュニケーションを活用した生活様式が、ニューノーマルとして浸透しつつあります。
農村地域に目を向けると、このような変化に応じて農泊とリモートワークを組み合わせた「ワーケーション拡大」や、リモートワークの傍ら農業に関わる「半農半X」という取り組みが見られるようになりました。総務省のICT地域活性化事例では、ローカル5Gの導入による露地栽培を行なっている北海道岩見沢市、水田センサにより水温や水位などを遠隔地から確認することで効率的な管理に取り組んでいる新潟県新潟市、最新のリモートセンシング技術を活用して森林資源のモニタリングなどを行っている岡山県真庭市など多くの事例が挙げられており、これまでICTの恩恵を受けにくかった農村地域においてもインフラが整い、誰にでもICTを用いることで変革を起こせる可能性が秘められていることを示しています。
農村地域が抱える課題として、大都市圏への人口流出、高齢化、総人口の減少が挙げられます。1次産業を中心とする農村地域でこの傾向は特に顕著であり、2045年までに山間農業地域における人口は半減し、平地農業地域でも人口が3割減少することが見込まれています。主要産業従事者の所得が低いことから「担い手不足」による農業従事者の減少も進行しています。
これらの課題を解決し、1次産業の中でも農業分野の所得向上や新規就農者増を実現するため、農林水産省がスマート農業の取り組みを進めています(第25回コラム「スマートアグリシティ」参照)。農業分野へのデジタル技術・ICTの活用は製造業などの他産業に比べて立ち遅れていましたが、この取り組みによって農業を「テクノロジーを活用した魅力ある産業」に変え、新規就農者の拡大および農業経営体の経営改善が図られています。
ICTの活用は「新しい生活様式」に対応したリモート化として推進が図られています。これは5Gに代表される高速・大容量の通信を用いた通信や、IoT機器用の無線技術であるLPWA(Low Power Wide Area)により農業現場と従事者や関係者を繋ぐことで、全員が常に同じ地域にいなくても農業を可能にするものです。
このようなリモート化は、スマート農業によって生み出されるメリットをその地域だけでなく、他の地域へも展開可能であることを示しています。つまり、農作物の生産・販売という「フィジカルな地域資源」が主であった1次産業にも、貨幣価値だけでは計ることができない経験・体験といった「バーチャルな地域資源」を生み出す余地が生まれることを示しています。例えばICT技術を用いて、次のようなことが実証、検討されています。
このような取り組みは、所得および生産性の向上や地域の福祉に貢献するものであり、農村地域の課題解決を後押しする「仕組み」そのものと言えます。ICTを中心とした新たなテクノロジーを活用して、農業生産性の向上および分野・地域の枠を越えた価値の提供を行う「仕組み」こそ、これからの農村地域の社会課題の解決に有効であると考えられます。
新たなテクノロジーを活用した「仕組み」によって地域の社会課題を解決する「スマートシティ」は、農村地域においても重要な取り組みとなるでしょう。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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