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2022-11-02
近年、注目度を高めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。今回のテーマは「メタバースと支払い」です。
メタバースに人々が集まり、その中での社会的活動が増えていくと、プラットフォーマーとの取引のほか、メタバースにおけるユーザー同士の自由な取引も盛んになっていくと思われます。そして、取引において必要となるのが、代価の支払、すなわち決済です。
メタバースにおける決済についても、通常のECサイトにおける決済と同様に考えられるケースが多いと思われますが、ECサイトと比較した時のメタバースの大きな特徴は、匿名性と現実社会における生活同様の没入感ではないでしょうか。例えば、VR装置を付けた状態で、メタバースで出会うユーザー同士が匿名のままシームレスに決済できるのが理想でしょう。また、Web3.0の発想に基づけば、資金の流れにプラットフォーマーや決済代行業者を挟まず、ユーザー同士でダイレクトに決済を完了させるニーズもあると考えられます。
このような決済の実現には技術的な対応も不可欠となりますが、本記事では、メタバースにおける決済手段として想定し得るもののうち、前払式支払手段、暗号資産、ステーブルコインおよびNFTについてご紹介します。
プラットフォーマーが提供するイベントへの参加やゲーム内アイテムの購入に対する支払いなど、プラットフォーマーとユーザー間で取引が繰り返し生じ得るものについては都度小口の決済が行われるコストを回避する観点から、プラットフォーマーが有償で発行する自家型前払式支払手段(資金決済法3条4項)や、おまけとして付与するポイントやコインが決済手段として選択肢となると考えられます。
自家型前払式支払手段の場合、使用場面が発行者や発行者と資本関係があるといった密接な関係の者に対する決済に限られ、原則として届出義務や未使用残高の50%の保全義務が生じるなど一定の規制がかかる一方 、実質的な審査を伴い手続完了まで時間を要する「登録」は不要であり、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認もかからないので、メタバースにおける匿名性を維持しつつ比較的簡易に実装できる決済手段と言い得るでしょう1。
これに対し、一般的なECサイトのように、ポイントなどによる決済の後、最終的に発行者が加盟店たるユーザー(売主)に対して法定通貨により使用ポイント相当額を支払うことを想定するのであれば、発行にあたり、第三者型前払式支払手段発行者または資金移動業者としての「登録」が必要となります2。
また、上記のとおり、自家型前払式支払手段の「使用」は、発行者であるプラットフォーマー(または密接関係者)との間の取引しか対象とできませんが、特定の前払式支払手段を用いるユーザー同士であれば、前払式支払手段そのものも決済手段になり得ると考えられます。この場合、買主が売主に前払式支払手段の残高を「譲渡」して、買主の残高が減少する一方、売主の残高を増加させるに過ぎず、前払式支払手段を「使用」して売主が発行者に対して精算金の支払を求めるものではないため、直ちに自家型前払式支払手段が売主たるユーザーを加盟店とする第三者型前払式支払手段と解されたり、売主たるユーザーが加盟店管理の対象となったりするわけではないと考えられます。ただし、譲渡可能な前払式支払手段を発行する場合は、不適切利用防止措置など法令およびガイドラインに定められた対応が必要となるので留意が必要です2。
前払式支払手段の場合、発行者や加盟店に対する決済にのみ利用できるといった制限がかかりますが、そういった制限なくユーザー間で自由に決済を完結させたい場合や、異なるプラットフォーマーの運営する複数のメタバースを行き来する場合などにおいては、ブロックチェーンに記録された暗号資産やステーブルコインが、決済手段の選択肢の一つになると考えられます。
暗号資産を決済手段として利用する場合、プラットフォーマーがユーザーの暗号資産を管理し、取引のたびにユーザーの指示に基づいて暗号資産の移転を行うとすると、プラットフォーマーは暗号資産交換業の登録が必要となります。また、犯罪収益移転防止法に基づき、ユーザーの取引時確認を行う必要があります。
一方、プライベートウォレットにより管理されている暗号資産をユーザー間で移転する場合には、匿名のまま、暗号資産の移転にプラットフォーマーを介在させることなく、決済を完了させることができます。ただし、没入感を維持したまま相手方のアドレスに暗号資産を送付するためには、各ユーザーのアドレスがプラットフォーマーの管理するアカウントと紐づいて管理され、その情報がなるべくシームレスに他のユーザーに伝わるような仕組みが必要と考えられます。
また、ユーザー同士の取引の場合、プラットフォーマーは、双方の債務の同時履行を図ることにより、ユーザー間トラブルの未然防止機能を果たす役割が期待されることがあります。その対応方法としては、ユーザー間の取引にかかる目的物の移転と決済手段である暗号資産の移転が同時履行されるようなスマートコントラクトを組み込むことのほか、金銭(法定通貨)により決済されるECサイト同様、プラットフォーマーが一時的に対価を預かる、いわゆるエスクローサービスを提供することも選択肢の一つでしょう。ただし、暗号資産のエスクローについては、プラットフォーマーが「他人のために暗号資産の管理」を行うことになるため、文言上は暗号資産交換業に該当すると考えられます(資金決済法2条7項3号)。この点、金銭のエスクローについては、そのエコシステムとしての役割に鑑み、直ちに規制の対象とはしない方向での整理がなされており3、暗号資産についても何らかの解釈指針が示されることを期待する声もあります4。
Peer to Peer(P2P)の取引を志向する場合、ステーブルコインも有力な選択肢の一つになると考えられます。法定通貨の価値と連動した価格(1コイン=1円など)で発行され、発行価格と同額で償還を約するいわゆるデジタルマネー類似型のステーブルコイン5の発行・償還は、為替取引に該当します。そのため、銀行以外の一般事業者は資金移動業の登録が必要となり(資金決済法37条)、また、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認義務もかかります。
さらに、2023年に施行予定の改正資金決済法により、「電子決済手段」に分類されるデジタルマネー類似型のステーブルコインは「電子決済手段」(改正資金決済法2条5項)に該当し、電子決済手段の売買・交換やそれらの媒介、他人のための電子決済手段の管理(カストディ業)のほか、残高管理などについても、電子決済手段等取引業に該当し、登録が必要となります(改正資金決済法2条10項、62条の3)。
非代替性トークン(NFT)が用いられるメタバースにおいては、NFT同士または他のデジタルアイテムとの交換にNFTが用いられる場合もあると考えられます。この場合においても、基本的には、単にNFT自体が取引の目的物になっているに過ぎず、直ちに決済手段としての経済的機能が認められるとして暗号資産に該当するわけではないと考えられるでしょう。
ただし、ERC1155の標準規格を採用しているNFTについては、「暗号資産」の該当性に少し注意が必要です。ERC1155の標準規格は、一度に複数のトークンを取引することができる設計とされており6、これにより、1回の取引(トランザクション)で複数のトークン化されたアイテムをまとめて送付できるほか、1回の取引(トランザクション)で複数の相手にNFTなどのトークンを送付することができます。NFTにおいて多く用いられているERC721の標準規格においてもNFT100個を取引することは可能ですが、個々にトランザクションを行う必要がありますので、NFTの個性に着目しない単なる数量的な取引の対象とされる場面は、あまり多くは想定されないのが現状です。これに対し、ERC1155の標準規格においてNFT100個という塊を1回のトランザクションで取引できるとなると、実質的にはERC20の標準規格で発行される一般的なFT(Fungible Token=代替性トークン)同様であるとして、「暗号資産」と解される可能性があり得ると考えられます。
以上のとおり、決済手段の一例を概観しましたが、この他にもさまざまな決済手段が考えられ、また技術の進歩に伴い新たな決済手段が創出されることが予想されます。その中で、事業者がどのような規制の適用を受け、どういった法律を遵守すべきなのかは必ずしも明らかではないことが多いため、メタバース上での決済手段を検討するにあたっては、専門家とも相談の上、実施するのが望ましいでしょう。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
土肥 里香
TMI総合法律事務所, 弁護士
落合 一樹
TMI総合法律事務所, 弁護士
1 基準日(3月末および9月末)における発行した前払式支払手段の未使用残高が1,000万円を超えない場合は除かれます。また、自家型・第三者型問わず、有効期限が発行から6カ月未満である前払式支払手段は、資金決済法における前払式支払手段の規定が適用除外となるため、そのようなサービス設計とすることも選択肢の一つと言えます。
2 前払式支払手段に関する内閣府令23条の3、金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係)」Ⅱ-2-6
3 資金移動業者に関する内閣府令1条の2第3号イ参照
4 自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PT「NFTホワイトペーパー(案)」3項(3)など。
5 それ以外の法定通貨建のステーブルコイン(アルゴリズムで価値の安定を試みるものなど)は暗号資産や金融商品として規律されると考えられます。
6 ERC1155の標準規格は、ファンジブルとノンファンジブルのいずれの特徴も有することから、その他にもマルチトークンスタンダードやセミファンジブルトークンなどとも説明されており、詳細な設計が公開されています(https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-1155)。