DX/ニューノーマル時代における銀行業界の将来展望

2021-07-29

銀行業界の状況と環境の変化

厳しい収益環境

銀行を取り巻く環境は引き続き厳しく、預貸金業務および為替といった伝統的な銀行業務の収益は、いまだ回復の兆しが見えていません。預金業務においては、長期化する低金利環境・ゼロ金利政策の影響により大幅な収益低下、貸金業務においてはオーバーバンキングによる過当競争もあって利鞘の回復が難しい状況にあると言えます。一方、非金利収益の柱である為替においては、振込手数料に係る銀行間手数料の見直しが政治論点となるなど、手数料収入の激減が予測されます。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として政府保証による緊急融資が積み上がってはいるものの、その収益効果は限定的であると言わざるを得ません。

加えてALM(資産負債管理)を中心とした法令順守コスト、膨張するITやサイバー対策のコスト、人件費など、業務コストの増加は銀行の収益構造をさらに悪化させています。

事業環境の変化

こうした業界内の環境変化に加えて、他業界からの参入も加速化しています。預金やクレジットカード領域では小売・流通系の参入が本格化し、一部ペイメント業務では、銀行のデビットカードをも凌駕しています。これら新規参入業者はチャレンジャーバンクとも呼ばれ、自社で形成する経済圏や最新のテクノロジーを最大限活用し、伝統的銀行を脅かす存在になりつつあります。こうした環境変化に応じて、既存銀行も異業種と連携し、自行で獲得できていない新規顧客や既存顧客の活性化に向けたタッチポイント拡大に取り組んでいます。

例えば、ユーザーが簡単な質問に回答すると、AI・ビックデータを活用した総合的な分析に基づき算出されたスコアに応じて最適な条件を提示するスコア・レンディングサービスが提供されています。また、フィンテック企業が開発したオンライン上で本人確認を完結するための技術であるeKYC機能を活用したウェブでの口座開設や、他社と連携して自社の顧客に新たなサービスを開発・提供する取り組みなどが出てきています。

環境変化への足許の対応

そのような中、メガバンクは投資銀行業務や海外業務に活路を見出しつつ、グループ会社と連携した総合金融力を強化する方向にあります。一方、地域金融機関においては、地域の振興施策と平仄を合わせた中小企業融資、事業承継支援等を強化しています。

2021年5月27日には改正銀行法が成立し、銀行本体および子会社において人材派遣・紹介、広告業、データ分析やシステム販売などの新しいビジネス機会の創出が可能となりました。今後はそうした機会を活用し、競争力を向上させ、差別化したサービスを展開し、収益拡大につなげられるかという各行の創意工夫が試されることになります。

例えば、地銀が人材紹介・派遣業者と協業して人材紹介業へ参入し高度人材のマッチングサービスを提供したり、広告会社と連携して自社のウェブサイトやアプリに取引先企業の広告を表示したりといった取り組み事例が出てきています。

このようなさまざまな環境変化から、銀行は今、まさしく将来を左右する重大な岐路に立っており、これまでのビジネスモデルを変革することが求められていると言えます。

ビジネスモデル変革のポイント

変革が求められる従来の銀行ビジネスにおいて、求められる変革のポイントは以下の通りと考えます。

リテールバンキング

かつて銀行の最大の強みであった店舗・ATM網は、その維持コストとオペレーションコストの観点で銀行全体の収益を最も圧迫する要因となっています。近年、大幅に店舗やATMの削減を推進してきたものの、もう一段の削減を進めることを前提に、以下のポイントが考えられます。

図表1 リテールバンキングにおける変革のポイント

1.新たなビジネスモデル構築

顧客接点がデジタルにシフトし、デジタル経済が拡大する中で、新たな顧客層の開拓や金融機能・サービスを提供する接点をいかに再構築するかが、より重要となっていきます。さまざまな生活インフラとしてのプラットフォームを提供し、その影響力を増す異業種の事業者と連携することで、顧客カバレッジの拡大やテクノロジー活用などを取り込む動きも加速化しています。

一方、異業種連携を生かした新たな収益モデルを構築するには、グループを含めた金融機能・サービスを総動員し、知恵を絞ってマネタイズの仕組みを作っていかなければなりません。エンベデッドファイナンス(埋込型金融、Embedded Finance)と言われる新たな金融プラットフォームに代表されるような、銀行グループとしての強みを客観的に捉え差別化を図るモデルが求められています。

2.顧客アプローチの進化

顧客ニーズに応じた柔軟で機動的な顧客アプローチの有力な手段の一つとして、デジタルテクノロジーを活用したOMO(Online Merges with Offline)の導入に動きだした銀行もあります。これはオンライン(ウェブを活用した面談)とオフライン(店舗面談、営業担当者の顧客往訪)を融合させる動きであり、対面での接触自粛が推奨されている中、顧客ニーズにきめ細かく対応しながら、差別化要素であるオフライン機能との相乗効果をいかに高められるかがポイントとなります。

中国の事例ですが、モバイル決済の事業者と小売店とが連携することで、事前にモバイル決済アプリにて顔認証を済ませておけば店舗に入店でき、会計も顔認証にて決済できるといったシームレスなサービスが可能となっています。

3.データ利活用の高度化

マーケティングも、銀行のホームページやテレマーケティングを活用して店舗へ誘引する従来のやり方から、アナリティクス人材や最新のテクノロジーを活用できる機能を兼ね備えた組織的なデジタルマーケティングの実践へとチャレンジしていくことが求められています。銀行やグループが保有する膨大な属性・取引データに加え、外部データの取り込みを含め蓄積されたデータを有効に活用する仕組みを構築するとともに、顧客のセグメント化・プロファイリングを高度化しながら自行マーケティングに活用することや、加工データの外販など収益拡大につながる付加価値のあるデータに転換することがポイントとなります。

銀行によるデータを活用したビジネスの取り組みはすでに始まっています。例えば、決済データを活用して取引先の商談を仲介する支援や、データ分析支援サービスの一環として加盟店のマーケティングを支援するような取り組み事例が出てきています。

4.コスト削減の加速

低コストオペレーション実現への地道な取り組みとして、スマートフォンアプリを使ったネットバンキングへの顧客誘導や、店頭事務のタブレット化、ウェブ受付化によるペーパーレス化などに積極的に取り組む銀行も多くなっていますが、さらなるコスト削減策が求められています。

具体的には、AIを活用した顧客の金融相談対応や不正検知なども始まっており、最新のテクノロジーの活用や、エンドツーエンド(業務プロセス全体)の効率化・オペレーション自動化、デジタル化が劣後していたり既存業務が聖域化されていたりする領域(少量多品種業務・異例事務・法人業務・本部業務など)の効率化を推進していくことが引き続き求められるでしょう。

コーポレートバンキング

バブル崩壊以降、日本の企業数は減少の一途を辿り、コーポレートバンキングの裾野は縮小傾向にあります。顧客である大企業はグローバル化が加速する中で大きな変革への取り組みを余儀なくされ、ベンチャー企業もその成長スピードを加速させています。中小企業も廃業やM&Aの動きが顕著になってきており、こうした領域にはフィンテック企業など新しいプレーヤーも参入しサービス提供が活発化していきています。

こうした中で競争力を高めるには、ファイナンス+α(金融グループとしてソリューション組成力や提案の質向上)の付加価値を提供することと、営業リソースを最適化しながら生産性を向上することとの両立が鍵と言えるでしょう。

図表2 コーポレートバンキングにおける変革のポイント

1.新たな営業手法の導入

これまでの法人営業は、営業現場における顧客とのリレーションシップを起点としたフィールドサービスが中心でした。しかし、コロナ禍における営業手法の見直しやテクノロジーの活用もあり、非対面営業の手法が浸透し始めています。こうした変化を好機と捉え、保有するさまざまなデータを有効活用し、営業担当による直接的な対応が難しい中小企業領域に対するデジタルを活用した非対面のインサイドセールスを行うことで、顧客アプローチの効率化と新たな収益機会の創出が見込まれます。

2.デジタルプラットフォームの構築

マスリテール法人への対応については、営業リソース最適化の観点からも大幅な効率化が必要不可欠となります。これまで営業担当者を通じて実施されていた情報提供機能や顧客紹介機能などのサービスは、経済情報やビジネスマッチング機能などの付加価値を備えたデジタルプラットフォームの提供へと移行しています。こうした動きを単なる営業担当者の代替手段にとどめるのではなく、顧客とのコミュニケーションやシームレスな事務手続きなど、デジタル機能や最新のテクノロジーを活用したリレーション強化、取引活性化につながる基盤への進化と捉えて対応することが肝心です。

3.顧客カバレッジスキーム

より効果的で戦略的な顧客ターゲティングのためには、自行で保有する顧客の属性・決済・取引データに加え、業界指標などの外部データを活用することで、銀行目線での取引実績をベースとした顧客セグメントから脱却することが求められます。あわせて事業環境予測や顧客ビジネスの成長予測、課題・リスク検知などによって将来を予見することで、より顧客にフォーカスしたセグメンテーションやプロファイル化が可能となります。

4.グループ総合金融力の高度化

銀行・信託・証券が連携したサービスの提供強化が掲げられているものの、実態としては銀行によるファイナンス業務が中心で、依然としてグループ連携によるシナジー効果が十分成果をあげているとは言い難い状況にあります。顧客の環境変化、ニーズが多様化し複雑化する中において、信託・証券・リース・シンクタンク・決済などグループ企業の強みを生かしたソリューション組成力、顧客企業の成長や課題を解決する質の高い提案と実効力のある支援を発揮する総合力、すなわちグループとしての組織的な価値提供能力が問われていると言えます。

変革実現に向けた課題

かつて銀行の優劣を左右する要素は、健全性と経営の自由度を担保する資本の厚みや、銀行法や各種規制への対応力、目の前の顧客に対する提案力でした。しかしCOVID-19の収斂の有無を問わず、加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)時代に勝ち残るためには、新たなビジネスへの変革が求められます。

今後の競争力の源泉としては、従来通りの資本力や実行力に加えて、変化に迅速に対応していく創造力やレジリエンシーが求められるようになります。

図表3 銀行における今後の競争力の源泉

そして、そうした新しい競争力の源泉を支える組織の変革が鍵となってくることは言うまでもありません。組織の変革とは、組織図の変更などといった形式的なものではなく、むしろカルチャーの変革に近いものであり、必要な人材の再定義であり、またそうした新しい試みが機能するような仕組みづくりなのです。

加えて、求められる競争力の源泉に対していかに実効力とスピード感を持って取り組んでいけるが重要なポイントになります。従来の枠組みや固定概念にとらわれることのないチャレンジを実践していくことが期待されます。

図表4 競争力の源泉を支える組織の変革