税務起点の価値創造シリーズ第4回(最終回)

CFO変革としての税務ガバナンス──経営基盤の体制強化へのポイントとは

  • 2026-09-17

本シリーズではこれまで、税務を起点としたCFO組織変革の在り方を段階的に議論してきました。第1回では税務を経営判断の起点として捉える必要性、第2回ではデータ・AIによる意思決定基盤の高度化、第3回ではそれを支える人材・組織の変革と、税務の価値を経営の言葉で語る必要性に焦点を当ててきました。最終回となる本稿では、これらの要素を統合し、「税務ガバナンスをどのように経営基盤として機能させるか」という観点から議論します。

対談者

  • PwC税理士法人 パートナー
    野田 幸嗣 
  • PwC税理士法人 パートナー
    塩田 英樹

複雑化するビジネス環境でのガバナンスニーズの高まり

塩田:
これまでの議論を振り返ると、第1回で税務をCFOアジェンダに位置付け、第2回でデータ、第3回で人材・組織変革という観点から、個別の要素を整理してきました。今回はそれらを「どのように統合して機能させるか」がテーマです。その前提として、昨今の企業を取り巻く環境変化をどう見ていますか。

野田:
地政学リスク、経済安全保障、そして生成AIをはじめとする技術革新により、企業の事業環境そのものが大きく変わっています。

私自身、長く移転価格コンサルティングに携わり、移転価格と関税貿易アドバイザリーの双方を統括する立場から、具体的な例で話しますと、移転価格と関税という、本来はトレードオフになり得る領域を切り離して管理していては、企業価値を守ることは難しいと考えます。関税負担を抑えようと輸入価格を引き下げれば、移転価格上の利益配分に影響が及ぶ。逆もまた然りです。これまで税務の「外側」にあった関税や輸出入規制、サプライチェーン全体の設計といったテーマが、クロスボーダー取引を通じて税務と分かちがたく結び付いています。

PwC税理士法人 パートナー 野田 幸嗣

PwC税理士法人 パートナー 野田 幸嗣

塩田:
第1回でも税務は他の領域と切り離せないと議論しましたが、その相互の影響度合いがさらに高まっているということですね。

野田:
そうです。税務・関税・規制・サプライチェーンは、単独で最適化することが難しい領域です。だからこそ、こうした課題を横断的に捉え、全体として最適化する「統合ガバナンス」の視点が不可欠になります。

「経営基盤」としての税務ガバナンスの再定義

塩田:
従来の税務は、コンプライアンス、すなわち「守り」の側面に重点が置かれてきました。そこから企業価値向上につながる税務組織の役割とはどのようなものでしょうか。

PwC税理士法人 パートナー 塩田 英樹

PwC税理士法人 パートナー 塩田 英樹

野田:
税務組織は、経営層・各事業部・グループ会社、さらには外部ステークホルダーとの関係性の中で再設計され、単なる専門部門という位置付けではなく、企業全体の意思決定に関与する「機能」へと進化できると考えています。

その際に重要になるのが、体制構築(ガバナンス設計)と施策実行(オペレーション)の両輪で進めるという視点です。守りとしてのコンプライアンスやリスク管理に加え、攻めとしてのキャッシュ創出や構造最適化にまで踏み込むことで、企業の価値向上に貢献できるのではないでしょうか。

「税は変えられないもの」「適切に対応していればよいもの」という認識を変え、設計や運用次第でキャッシュやリスクを能動的にコントロールできる領域として税務を捉え直す。守りを固めることは出発点にすぎず、そこからキャッシュ創出と事業機会の獲得へと連続的につなげていく。この「守りから攻めへの連続性」こそ、税務ガバナンスを単なる管理体制ではなく、企業価値創造をもたらす経営基盤へと再定義する核心だと考えています。

データとAIが前提となる税務ガバナンス

塩田:
第2回では、データとAIによる意思決定基盤について議論しました。この観点でのつながりについて考えを聞かせてください。

野田:
今後、企業競争力の土台には、組織体制やサービス設計におけるAIの活用が前提になると考えます。生成AIの活用により、従来は見えていなかった情報を扱えるようになってきました。例えば、海外子会社の申告・決算データなども、網羅的に分析できる可能性が広がっています。

そうすると、データの取り扱いの意味合い自体が変わります。従来は「情報が取れないから見られない」「データがある一部領域に特化する」という判断も前提にありましたが、今後はデータ全体を把握し、その中から重要な論点を抽出する方向に変わっていくと思います。

塩田:
税務部門の高度化に向けた変革において、重要となる視点はどこにあるのでしょうか。

野田:
一般的には、AIやテクノロジーをいかに実装するか、属人的な業務をいかに標準化・見える化し変革の土壌を整えるか、といった手段の議論が多いですが、データはただ集めればよいものではありません。収集した結果、何が判断でき、どのアクションにつながるのかが明確でなければ、データ整備は単なるコストになります。

オペレーショナル移転価格(OTP)の例を挙げますと、移転価格ポリシーを「文書上のルール」で終わらせず、日々の業務の中で継続的にモニタリング・運用できる「実務で動く管理プロセス」へと昇華させる。期末の一括調整に依存するのではなく、データを経営データとして活用し、サプライチェーンの効率性評価や運転資本の改善、資金効率の向上にまでつなげていく。つまり、「キャッシュ創出につながるか」「リスク低減につながるか」「コントロール可能な領域か」という価値の出口から逆算してデータを設計する。技術ありきではなく、価値ありき。この視点が重要と考えます。

塩田:
第2回の「データは意思決定のためのインフラ」であるという点が、つながってきますね。

野田:
はい。データ収集、可視化、判断、アクションというサイクルを回し続けることで、ガバナンスの機能強化にもつながります。そして、そのプロセスの定着化が、企業のビジネス環境変化に柔軟に対応できる「再現性」をもたらすと考えます。

税務価値の可視化と説明責任

塩田:
第3回では、税務の価値を経営の言葉で語る必要性について議論しました。

野田:
税務の価値という視点での課題は、そのインパクトが見えづらいことだと思います。本来は経営課題へのインパクトもあり、コントロール可能な領域であるにもかかわらず、「変えられないもの」として扱われているケースが多い。

塩田:
その認識を変えていく上で、ポイントとなるのはどのようなことでしょうか。

野田:
税務におけるKPIとしての可視化、経営指標との接続、ストーリーに基づく説明が不可欠です。実効税率(ETR)やフリーキャッシュフローへの貢献といった指標で税務のインパクトを定量的に示し、経営層や投資家が理解できる言葉で語る。これにより、税務が意思決定に組み込まれます。

そこで重要となるのは、守りの説明責任と、攻めの価値貢献を同じ土俵で可視化し、伝えることです。「リスクをどれだけ低減したか」だけでなく、「税務の取り組みがどれだけのキャッシュを生み、事業機会を広げたか」までを経営の言葉で示す。これが税務を真の経営アジェンダへ引き上げる鍵となるのではないでしょうか。

塩田:
税務ガバナンスは他のガバナンス領域と比べて、その重要性が浸透していない印象があります。

野田:
はい。税務は高い専門性が求められ、「税は払うもの」という認識やタックスプランニングに対する倫理観といった要因も影響しています。だからこそ、税務を価値創造の文脈で再定義し、その意義を丁寧に説明していく。この「認識の転換」が、税務ガバナンス強化の出発点となると考えます。

税務を事業・ガバナンスと接続する

塩田:
ここまで、税務ガバナンスの再定義、データとAIの活用、そして可視化と説明責任について議論してきました。今後、これらを事業運営やガバナンス全体の中にどう位置付けていくべきでしょうか。

野田:
先ほど述べたとおり、関税対応などの実務観点からは、税務は事業戦略やサプライチェーン検討、規制対応と密接に結び付いています。こうした観点から、税務は独立した専門領域ではなく、企業の事業方針そのものに組み込まれるべきテーマと言えます。したがって税務ガバナンスも、事業戦略・リスクガバナンス・サプライチェーン戦略などと接続して設計される必要があります。テクノロジー活用による効率化、税務部門の体制検討は、あくまで出発点です。そこからさらに先へ、データを経営判断に生かし、キャッシュと事業機会の創出にまでつなげる。守りの整備の先にある「攻めの価値創造」までを見据えた組織変革・プロセス設計が重要です。

塩田:
本シリーズでは、第1回から第3回にかけて、税務を起点としたCFO変革の要素を整理してきました。最終回では、これらの施策を個別に進めるだけでは不十分であり、統合課題としてガバナンスを機能させて初めて企業価値につながるという点を、まとめとします。

税務ガバナンスを「経営基盤の高度化」として再定義すること。それがCFO変革の実装フェーズであり、今後の企業競争力を左右するテーマになると考えます。

野田:
グローバルでビジネスを展開する企業の課題を統合的に捉え、データとテクノロジーを価値の出口から設計し、守りを固めた上で攻めの領域へ拡大していく。この一連の流れを経営基盤として実装できた企業こそが、変化の時代を勝ち抜いていく。私たちは、その実装の伴走者でありたいと考えています。

対談者略歴

PwC Japanグループのリスク&ガバナンスチーム主要メンバーであり、PwC税理士法人においては移転価格チームと関税貿易アドバイザリーチームを統括。移転価格調査、相互協議、事前確認、BEPS関係の文書化業務など、数多くの移転価格コンサルティングサービスを中心に、事業再編や国際税務に対するサービスもワンストップで提供する。

PwC税理士法人のパートナーとして、グローバル・ミニマム課税やタックスヘイブン税制をはじめとする国際課税ルールへの対応を支援。併せて、連動するテクノロジーの活用や専門人材不足といった課題の解決に取り組み、税による価値創造をリードしている。


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