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経営環境が激変する昨今、CFOには税務を含む経営リスクをどう説明し、企業価値向上につなげるかが改めて問われています。また、米中輸出規制や関税政策の変化、サプライチェーン再編、海外拠点戦略の見直しが進む現在、税務はもはや決算・申告だけの専門領域ではなくなりつつあります。
税務は、成長投資、海外拠点再編、キャッシュ創出といった「攻め」と、コンプライアンス、リスク管理、説明責任といった「守り」が必要とされる領域です。だからこそ、CFOが攻めと守りを統合する「指揮者」として機能するためには、税務を経営判断の起点に据えることが有効だと考えます。そして、税務を経営の意思決定を支える重要な情報基盤に位置付け、CFO組織変革を具体化する出発点として捉えます。
本シリーズでは、PwC Japanグループ発行の「持続的な成長と企業価値向上に向けたCFO意識調査 2025年版」(以下、CFO意識調査)の知見を基に、CFO組織の変革と税務ガバナンス強化の関係を取り上げます。第1回は、CFOの未来像を「攻めと守りを統合する指揮者」として捉え、なぜ税務をCFOアジェンダの中心に据えるべきか、同調査をリードしたPwCコンサルティング合同会社の小林たくみから、PwC税理士法人の塩田英樹が考察を引き出します。
対談者
塩田:
今回の対談ではCFO意識調査を起点に、税務をより大きな経営テーマとして捉え直したいと考えています。税務は外から見ると、どうしても申告・納税・調査対応といった実務のイメージが強い領域です。しかし実際には、キャッシュ、リスク、グローバル拠点、投資判断に深く関わっており、企業価値に影響を与える余地が大きいと考えます。そのギャップについて、CFO意識調査をリードされた視点から、どう見ていますか。
小林:
CFO領域全体で見ると、税務は比較的「職人芸」に見られがちです。しかし本来、税務は、キャッシュ創出やリスクコントロールを通じて企業価値に貢献できる機能ではないでしょうか。CFO意識調査でも、攻めと守りのバランスを取りながら企業価値向上をリードするCFO像が浮かび上がりました。だからこそ、税務をCFOアジェンダの一部ではなく、経営判断の中心に近いテーマとして扱うことが必要だと考えています。
塩田:
税務がCFOのキャリアパスに組み込まれにくいことも、課題の一つだと思います。税務の専門性が高まるほど、経営層や他部門から距離ができやすいのではないでしょうか。しかし、税務がクロスボーダーで複雑になり、グローバル観点も踏まえた判断が必要になるほど、CFOが税務への理解をより深め、税務部門との対話を深めることが重要になります。
小林:
税務は専門性が高い上に規制変化も激しく、グローバルレベルでも課題を捉える必要があるため、経営からは見えにくい「死角」になりやすい領域です。付け焼き刃では扱えない領域であるがゆえに、税務担当者に任せておけばよい、という発想になりやすい。しかし、戦略的なドライバーになるべき税務の領域が見えにくくなっている状態は、企業にとって大きな機会損失につながるのではないでしょうか。
塩田:
では、企業は税務をどのように経営判断のテーブルに置いていくべきでしょうか。税務部門だけで税務を語っても、CFOや事業部門の関心は広がりにくい。税務を、事業戦略、財務戦略、リスク管理、人材・組織設計と接続して考えることが必要だと感じています。
小林:
おっしゃるとおり、重要なのは、専門領域をまたいだ連携です。従来は、税務、会計、財務、リスク管理、M&A、テクノロジーといった各領域が、個別に高度化することで一定の機能を発揮してきました。しかし、CFOが向き合う課題は、もはや一つの専門領域だけでは解くことが困難です。CFOの変革ジャーニーの中で、必要な専門性を横断的に組み合わせる発想が求められています。
塩田:
税務に関心を持つCFOはもちろんいらっしゃいますが、全てのCFOが税務を経営テーマとして捉えているわけではありません。だからこそ、税務の論点を単独で解決するのではなく、企業における成長投資、海外拠点、キャッシュ、リスク、説明責任と結び付けて総合的に捉えていただくことが大切だと考えます。
小林:
日本企業でも、税務をCFOアジェンダの中心に組み込み、戦略的なドライバーとして使う議論ができる土壌が、少しずつ整いつつあるのではないでしょうか。ただし、単に欧米型の「攻め」を模倣すればよいわけではありません。日本企業には、税務コンプライアンスや社会的信頼を重視しながら、企業価値を高めるための「攻めと守りの両立」が求められます。
CFO意識調査を踏まえ、私たちが税務を経営判断の起点とすべきと考える理由は、税務が単なる管理機能ではなく、企業の成長戦略とリスク管理を同時に映し出す領域だからです。海外拠点の再編、サプライチェーンの見直し、M&A、移転価格、関税、国際課税ルールへなどの対応は、いずれも事業の「攻め」と、コンプライアンス・説明責任という「守り」の双方に関わります。CFOがこれらを統合的に判断するには、税務を経営判断の後工程ではなく、構想段階から組み込む必要があるのではないでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 小林 たくみ
塩田:
地政学リスクの高まりも、税務を経営テーマに押し上げています。関税、輸出規制、租税条約、M&Aの潮流変化など、海外事業を取り巻く環境が変わるたびに、税務上の論点も変化します。CFOにとっては、事業戦略の見直しと税務ストラクチャーの検討を切り離して考えることが難しくなっています。
小林:
そこで問われるのは、リスクアペタイト、つまり組織の目的や事業計画を達成するために、進んで受け入れるリスクの種類と量をどう定めるかです。リスクというと守りの印象が強いですが、どこまでリスクを取って成長を追求するかという「攻め」の判断も含まれます。例えば、関税を含む税務リスクを、事業ポートフォリオや海外拠点戦略の中でどう位置付けるか。これはCFOが全体像を見て判断すべきテーマです。
塩田:
重要なのは、税務リスクを「自然に通り過ぎるもの」にしないことですね。誰が、どの情報に基づき、どのタイミングで判断するのか。ここが曖昧なままだと、税務担当者の個別判断に依存し、経営としての意思決定になりにくいと感じます。
小林:
そのとおりです。経営課題とは、それぞれの立場の人が期待役割を果たしながら、必要な判断を下すことが要請される課題と捉えるべきだと考えています。税務領域では、税務部門中心で判断し、他の関係者が十分に関与しないケースも起こりがちなのではないでしょうか。しかし、複雑なリスクが重なり合う時代には、部門間の様子見による「ポテンヒット」を防ぐためにも、CFOが関係者を束ねる役割を担う必要があります。
塩田:
CFOは、税務の専門家と同じレベルの知識を持つ必要はありません。ただ、関係者を束ね、取りまとめるためには、税務部門と会話が成立しなければなりません。税務を理解せずに、組織全体を指揮することは難しい。まさに、「楽器」ごとの「楽譜」を、ある程度読める状態にすることが必要なのだと思います。
小林:
CFOが全ての「楽器」を演奏できる必要はありません。しかし、何が良い演奏で、どこに違和感があるのかを判断できなければ、指揮はできません。税務で言えば、論点の重要性、リスクの大きさ、経営への影響を理解し、適切なタイミングで議論を促せることが重要です。
塩田:
むしろ税務は、CFOに必要な、指揮者としての能力を鍛える場にもなり得る、と考えます。グローバル拠点を取りまとめ、当局とコミュニケーションし、難解な論点を社内の非専門家に伝える。これらは単なる税務知識ではなく、経営の共通言語に翻訳する力です。
PwC税理士法人 パートナー 塩田 英樹
塩田:
一方で、経営判断に税務を組み込むには、データが不可欠です。税務では、そもそも必要なデータ収集がマニュアル化・属人化している、収集のためのシステム投資が後回しになる、年に一度の申告対応で足りると見られがち、といった課題があります。
小林:
これは非財務情報開示にも近い課題です。情報開示や申告のためだけにデータを集めると、投資対効果が見えにくくなります。しかし、それが企業価値にどのようなインパクトを与えるのかという観点で見ると、データ整備の意味は変わります。税務データは、コンプライアンスのためだけでなく、経営判断を支える材料になり得ます。
塩田:
経営者に税務の重要性を伝えるには、見える化と仕組み化が必要と考えています。税務部門が何を見て、何を判断し、どのように企業価値に影響しているのかが可視化されなければ、経営アジェンダとして扱われにくい。だからこそ、税務データを集め、経営に伝わる形に変換する仕組みが求められます。
小林:
CFOが指揮者として関係者を巻き込むには、測定できないものを測定可能にし、見たくないものも見えるようにすることが重要です。データは単に管理するためのものではなく、関係者を同じ議論の場に引き寄せるための共通基盤です。測定できないものは管理できず、管理できないものは改善できません。
塩田:
AIの発達によって、同じデータでも、経営層、事業部門、税務部門、海外拠点など、相手に応じた見せ方がしやすくなっています。税務データを一つの報告資料に閉じ込めるのではなく、経営層、事業部門、海外拠点など、意思決定の相手に応じて適切な形で提示することが必要です。
小林:
これからのCFOに求められるキーワードは「ストーリーを語る力」だと思います。数字を示すだけでは、人は動きません。背景となるデータを基に、相手にとって意味のあるストーリーを組み立て、変革につなげる。税務も同じで、データを活用して経営の言葉に翻訳することで、初めて企業価値に結び付く議論になっていくのではないでしょうか。
塩田:
生成AIの活用が進むと、定型的な作業は大きく自動化されていきます。税務でも、申告書作成、情報収集、論点整理、当局対応の準備など、AIが支援できる領域は広がるでしょう。そうなると、税務部門の価値は「作業を正確にこなすこと」だけではなく、どの論点を経営に上げ、どのように判断につなげるかに移っていきます。
小林:
ファイナンス組織全体も大きく変わるはずです。AIやデジタルエージェントが定型業務を担うようになれば、人の役割として残るのは、事業とのコミュニケーション、方向付け、投資家や当局など外部ステークホルダーとの対話が中心になっていくと考えられます。つまり、人に求められるのは、データと専門性を前提に、意思決定の意味を語る力です。
塩田:
だからこそ、現在の延長線だけで組織を考えることには、危機感が出てきますね。税務部門は少数精鋭で運営されてきた企業も多く、専門性の高さゆえに担い手の確保も難しくなっています。人材不足を単に採用でカバーしようとしても、業務そのものが変わっていく中では、十分な解決策にはなりません。
小林:
その意味では、人材不足は「課題」というより、すでに見えている「与件」に近いと思います。人が足りないから人を増やす、という発想だけではなく、外部専門家の活用、業務の標準化、データ基盤の整備、AIによる知見の蓄積を組み合わせて、組織能力そのものを再設計する必要があります。
塩田:
税務の知見も、これまでは個人に蓄積されたものと後世に引き継ぐ「フロー」として扱われていました。しかし生成AIを活用すれば、社内外で蓄積した知見を「ストック」として活用し、次の判断に生かすことができます。そして後世の人は、蓄積されたストックを使用し、新たな知見を生み出すことが人材不足を与件としながらも組織の質を高めていくポイントであり、人材育成やキャリアプランの基本的な考え方になるのかと思っています。
小林:
税務、会計、監査、リスク管理、テクノロジーといった専門領域は、それぞれが個別に高度化するだけでは不十分です。企業に求められているのは、複数の専門性を経営課題に合わせて組み合わせ、意思決定の質を高めることです。CFOはその中心で、各専門領域を束ねる指揮者としての役割を担うことになります。
塩田:
税務を起点に考えることで、CFO組織の変革はより具体的になっていきますね。なぜなら税務は、グローバル、キャッシュ、リスク、データ、当局対応、人材といった論点を横断し、成長戦略とリスク管理の双方に直結する領域だからです。税務を経営の周辺ではなく、CFOアジェンダの中心に置くことによって、CFOは攻めと守りを統合する「指揮者」として、より実効性のある意思決定をリードできるようになると考えます。
本コラムシリーズの第2回では、「税務から始めるデータドリブン経営」をテーマに、CFO組織がどのようにAIやテクノロジーを活用し、経営判断の高度化につなげるべきかを掘り下げます。
PwCコンサルティング合同会社のパートナーとして、価値創造経営イニシアチブをリード。マネジメントコンサルティング・テクノロジコンサルティング双方の専門性を有する。ファイナンス機能を筆頭にコーポレート機能全般の戦略立案、構造改革、組織再編、業務設計から、ERP導入、GBS(グローバル・ビジネス・サービス)やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、AI などを活用したオペレーション改革に至る エンド・ツー・エンドのプロジェクトをリードした実績を持つ。
PwC税理士法人のインターナショナルタックス(国際税務)部門パートナーとして、グローバル・ミニマム課税やタックスヘイブン税制をはじめとする国際課税ルールへの対応を支援。併せて、連動するテクノロジーの活用や専門人材不足といった課題の解決に取り組み、税による価値創造をリードしている。
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