Ten Years to Midnight 世界に迫る4つの危機とその戦略的な解決策

世界に迫り来る4つの危機とその戦略的な解決策

世界が直面する最も差し迫った課題の解決策は、手の届くところにあります。しかし、私たちに残された時間はあと10年しかありません。

世界が直面する危機には、共通の際立った特徴があります。これらの危機に対する解決策を見出して実行に移すまでに、私たちに残された時間はあと10年しかないということです。この難題を乗り越えるには、これまでのアプローチは通用しません。20世紀型のアプローチは世界全体の生活水準を確実に向上させた一方で、今私たちが直面する差し迫った危機ももたらしました。より良い未来をつくるためには、マーケットの創造性と力学に基づきながらも、それを新たな文脈でとらえ直し、体系的に異なるアプローチをとる必要があります。

PwCネットワークのストラテジー&リーダーシップ部門グローバルリーダー、ブレア・シェパードによる著書『Ten Years to Midnight――世界に迫り来る4つの危機とその戦略的な解決策』では、危機の根本的な原因について精査し、その危機を回避できる戦略的な解決策を提案しています。

4つの危機

PwCは、今日の世界が直面する重大な課題をADAPTというフレームワークで要約しています。これらの課題は以下の4つの危機をもたらしており、対処しないままでいると、今後10年間で取り返しのつかない損害を引き起こすと考えられます。 危険なほど複雑に絡み合ったこの4つの危機を前に、私たちは未来を再考し、再構築することを迫られています。これらの危機はまた、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって一層加速しています。

社会に出たばかりの若い人々が、この危機による影響を痛感しています。失業や希望する仕事に就けない状態が世界中で蔓延する時代にあって、雇用はさらに不安定になり、一部の都市では住宅購入費用が年収の中央値の最大40倍にまで上昇し1、多くの国で高齢者の増加によって若者にかかる税負担が大きくなっています。

しかし、これは若者だけの問題ではありません。間もなく定年退職を迎える人々は十分な老後の蓄えがないまま退職することになり、現役世代も業務の自動化などによる失業リスクにさらされながら、住宅ローンや養育費、教育費を抱えています。

1. 出典: https://www.numbeo.com/property-investment/

技術革新は世界の人々の生活水準と生産性を飛躍的に向上させてきましたが、それに伴う悪影響を抑制する仕組みは十分に働いていません。PwCでは、中等教育を受けた人々が携わる仕事の36%、初等教育しか受けていない人々が携わる仕事の44%が、2030年までに業務の自動化によって失われてしまうと試算しています1

20世紀のエネルギーインフラが環境や気候に及ぼしてきた影響や、大規模なテクノロジープラットフォームが社会に与えた影響など、テクノロジーは意図せず新たな問題を生み出しています。人間の脳や行動に対する劇的な変化から、プライバシーの侵害、労働力のあらゆる層における仕事の消失にいたるまで、社会に多大な利益をもたらすと考えられていたテクノロジーは、重大な危機をももたらしているのです。

1. 出典: PwC, “Will Robots Really Steal Our Jobs? An international analysis of the potential long term impact of automation,” 2018. http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/

社会が急速に変化している一方で、社会のさまざまな制度やシステムは過去のままです。その結果、本来ならば社会の安定をもたらすべき制度・システムへの不信が高まり、さまざまな社会不安を引き起こしています。

この危機の最も顕著な例は、気候変動に対する世界規模の対応が遅々として進まないことです。2016年に発効したパリ協定の全体目標は、世界の平均気温の上昇を「産業革命以前のレベルから2℃未満に収める」ことでした。195の署名国のうち、この目標を達成できたのはたったの7カ国であり、その中に温室効果ガスの主な排出国は含まれていません1

さらに現在、経済政策や新型コロナウイルス感染症のワクチン開発など、世界規模での協力が必要な別の問題においてもこうしたリーダーシップの危機が表れています。自国内や地域内の懸念が深刻になりすぎると、リーダーの行動はますます偏狭になり、世界はゼロサムゲームとして認識されます。

1.出典:“Climate Action Tracker,” https://climateactiontracker.org/countries

解決策

私たちが抜本的かつ体系的で、大規模な変化を引き起こすまでに残された猶予は10年です。上述の4つの危機に、20世紀型のアプローチは通用しません。そのアプローチこそが、現在の危機を引き起こした原因だからです。本書では、PwCが考え得る最良の方法に基づく代替案を提供し、今日の世界が直面している現状や課題、そしてチャンスに適応するためのアプローチをどのように改めるべきかを提案しています。私たちは成功の意味を再定義し、新たな方法で未来を目指さなくてはなりません。

経済成長の再考――起点はローカルから

私たちはまず、グローバル化を再考することから始めなければなりません。第二次世界大戦以降のマクロ経済学の古典的な論理では、グローバル化と世界的な貿易が富と繁栄を生むとされてきました。確かにそうした一面はありましたが、問題はこの経済的成功こそが上述したような危機を生んだことにあります。

世界はもはや、低コストで生産された製品やサービスを大規模に消費する意思もなければ、能力もありません。私たちはこれまでのグローバル化の論理を見直し、個々のローカルエコノミーの力強い発展を目指すところから始めなければなりません。

成功の再定義――壊れかけた世界を生き抜く

これまでの指標は、もはや万能ではありません。各国は、GDPの成長に過度に集中した結果、国民の幸福度に大きなばらつきがあることを見逃してきました。経済成長は普遍的なものではなかったのです。さらに、経済成長は必ずしも社会の進歩とともに起こったわけではありませんでした。株主価値に焦点を合わせるあまり、企業は社会に対するより大きな責任を見失っていました。

私たちは、あらゆる国や組織、個人が持続的な成長を遂げるには相互に依存しあう必要があるという認識に基づき、包括的な形で成功を再定義する必要があります。

社会システムの修復――土台の強化

私たちは社会システムを修復する必要があります。教育機関にこれ以上、未来ではなく過去に向けた教育を続けさせるわけにはいきません。また、国際機関だけに分断が進む世界の調整を任せることもできません。

国家や企業を含むさまざまな組織が社会における役割を認識し、その役割を果たすことを念頭に置いて自らを再設計する必要があります。迅速な変化を許容しながら、ステークホルダーを幅広く関与させるガバナンスが必要となります。

テクノロジーの刷新――社会的利益としてのイノベーション

テクノロジーが作り出した問題はテクノロジーのみによって解決できるものではありません。テクノロジーは自らが引き起こす問題に対して責任を持たないのです。テクノロジーによって社会の広範なニーズを満たすには、意図せずもたらされる影響について敏感になり、社会的利益を念頭に置いた設計を行うことが不可欠です。これを達成するには、少なくとも5つのシンプルな考え方に着目することが重要です。

  • 私たちは、理解できないものは制御できないということ
  • 情報は公共財と私的財産の両方の性質を強めているということ
  • あらゆる組織にはそれぞれに追求すべきアジェンダがあるため、市民社会が責務を果たさなければならないこと
  • 予見できない物事をも管理する方法を学ばなければならないということ
  • 人々がどのようにテクノロジーを利用するかによって結果がポジティブにもネガティブにもなり得るからこそ、私たち自身が自らを律する必要があるということ

速く、大胆に――問題は待ってはくれない

上述したアイデアはいずれも通常なら実行に時間がかかるものですが、私たちにはそんな余裕はありません。あと10年のうちに着手すれば良いのではなく、わずか10年のうちに根本的かつ体系的な変化を起こさなければならないのです。これほどの規模で迅速に対応が求められる先例はほとんどありませんが、例えばマーシャルプラン*のような歴史上の教訓から学びを得た取り組みがいくつか進み始めています。

*第2次世界大戦後に、当時の米国国務長官のジョージ・マーシャルによって推進された、欧州諸国のための復興援助計画。

リーダーシップの影響の再定義――相反する性質をバランスよく発揮する

今日の世界においてこれほど大規模な変化を起こすには、その任務にふさわしいリーダーシップが求められます。

私たちには新しいモデルが必要です。リーダーたちには一見相反するように見える能力や感性が求められています。新たなリーダーは、テクノロジーを熟知していながらも、人間の仕組みや心理に長けていなければなりません。英雄のように勇敢でありながらも、周囲の声に耳を傾け、必要であれば進路を変更する謙虚さを持っていなければなりません。私たちが変えようとしている物事の根本的な要素について深く注視しながらも、きわめて革新的でなければなりません。

国家や機関、企業を率いるリーダーがまず取り組むべきタスクは、このようなリーダーシップを身につけ、私たちを脅かす危機にこの世界が対応できるようにすることです。

最後に、本書は新型コロナウイルス感染症の発生以前に書かれたものですが、パンデミックにより、これまでに述べた傾向はいずれも加速しています。世界をさらにひどい場所にしないために、私たちが考え直し、行動するための時間はほとんど残されていないことを忘れてはなりません。

しかし、本書の結論は希望に満ちています。著者は人類がこの課題に立ち向かうことができると信じており、世界の現状を把握する枠組みと全ての人に役立つ未来をつくり出すための考え方を、およそ200ページにわたって述べています。本書が伝える最も重要なメッセージは、今すぐに取り組もうということなのです。

著者について

ブレア・シェパード

PwC ネットワーク ストラテジー&リーダーシップチーム
グローバルリーダー


2012年よりPwCの戦略およびリーダーシップ開発のグローバルリーダーを務める。リーダーシップ、企業戦略、組織デザインなどの領域で100社以上の企業や政府にアドバイスを提供。 デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授、名誉学長。


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舟引 勇

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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マーケットリーダー、PwC Japan合同会社 執行役常務, PwC Japan

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