地域に貢献したいという思いできっかけを掴む 和光市長 柴﨑光子 (インタビュー当時)
2001年にプライスウォーターハウスクーパース税務事務所(当時)に入所し2007年まで在籍した柴﨑光子氏は、生まれ育った地元である埼玉県和光市で独立開業後、市の監査委員を経て市長選挙に立候補しました。2021年5月に当選後、現在まで市長として市政の運営・改革に携わっています。民間企業から政治の世界に飛び込んだ理由やきっかけに加え、現在の仕事に活きているPwC時代の経験や今後の展望について語ってもらいました。
私はプライスウォーターハウスクーパース税務事務所(当時)で勤務した後、個人事務所の開業やシンガポールでの海外生活を経て、生まれ育った埼玉県和光市で市長を務めています。
以前は政治や公の仕事にはそれほど関心はありませんでしたが、市の監査委員を務めたことが市長として働くきっかけとなりました。監査委員は市に設置される役職で、市の財務や経営に係る事業の管理が適正に行われているかを毎年確認する役割を担います。
SNSを通じて面識があった和光市の前市長は、私が大手プロフェッショナルファーム出身の税理士であることを知っており、監査委員に推薦してくれました。そして前市長が辞任する際、自分と同じ志で市政に取り組んでくれる後任を探す過程で出馬のお声がけをいただきました。
お声がけいただいた当時、私はシンガポールに在住しており、和光市に戻り税理士の仕事をしようと考えていました。一方で、いつか地域に貢献できる仕事がしたいという思いもあり、周囲に相談するうちに市長選に立候補する気持ちが固まりました。当初は親を含め家族にとても反対されました。ただ子どもが背中を押してくれたことで、最終的に家族の同意を得ることができました。
政治というまったく知らない世界に飛び込むことに、不安や葛藤がなかった訳ではありません。ただ、後でチャンスを逃したと後悔したくありませんでした。私は常に「迷ったらとりあえずやってみる」という姿勢を大切にしています。仮に落選したとしても、税理士としての専門性があるのでどうにかなるという気持ちもありました。
市には市民の数だけ多様な利害関係や価値観が存在します。そのため、民間企業よりも価値の実現が複雑で難易度が高いと感じています。批判やお叱りを受けることも少なくありませんが、同時に私たちの働きを評価してくださる方々もおり、日々学びを得ながらやりがいを感じています。
私は2001年3月にプライスウォーターハウスクーパース税務事務所(当時)に入所し、2007年まで在籍していました。
私が就職活動をしていた頃は超就職氷河期。大学卒業後、知人の紹介でなんとか税理士事務所に就職させてもらいましたが、そこは従業員が6、7人しかいない小さな事務所で、長く勤めることは難しいと感じていました。
学生の頃から英語を使う仕事に就きたいと思っていた私は、大学3年生から勉強を始めていた税理士資格試験の合否がまだ分からないタイミングで3年半勤めた事務所を辞めて、英国に行きました。その後、プライスウォーターハウスクーパース税務事務所の面接を受け、採用されることになった時はとてもうれしかったです。
私は4月から出社する予定だったのですが、面接を担当してくれたパートナーからは「繫忙期に入社しないと雰囲気が伝わらない」と言われました。幸運にも2000年12月に税理士試験に合格し、翌年3月からシーズン真っ只中の現場でいきなり働くことになりました。
その後の日々は本当に楽しかったです。市長の仕事もそうですが、初めての仕事は分からないことだらけで無我夢中になります。当時は若く、体力もありました。仕事はハードでしたが、だからこそ短い時間でいろいろ学ぶことができました。
PwC時代に学んだことはたくさんありますが、最大の教訓は、自分が費やした時間・熱量には比例した成果が得られるということです。効率的に働くことは良いことですが、がむしゃらに取り組んだ経験もまた自分の糧になります。昨今では働き方にさまざまな価値観や制限がありますが、やったことはやっただけ返ってくると現役の皆様に伝えたいです。なにより、がむしゃらな時間と空気を共有したメンバーとは、深いつながりを得ることができます。
現代社会には情報が溢れており、本やネットを開けば、一人でも勉強することができます。しかし、人との出会いは簡単ではありません。PwCは豊かな経験を積めるだけでなく、想像もしていなかったような多様な方々に出会える場所です。出会いこそ人生の宝であり、PwCはその貴重な接点になると感じています。
近年ではどの自治体も人材不足に悩まされています。例えば、DXを推進するために2~3年の期間で専門職を募集しても、報酬や待遇などの条件に限界があり人材がなかなか集まりません。外部の専門的な知識を持った人材に、期間限定でも構わないので協力してほしいという思いは多くの自治体に共通しています。PwCのようなプロフェッショナルファームではそうした支援を通じて公共分野への貢献の機会を得ることもできると思います。
和光市は私が生まれる2年前、1970年に大和町から市となった自治体です。当時の人口は約5万人でしたが、現在では約8万5,000人に増加しています。問題は市内のインフラが人口の規模拡大に対応できていないことです。自転車や車の数も急増しており、住宅が建ち並ぶ中、道路など交通インフラの拡張が物理的に難しい状況です。これをどうにか上手く整理を進めていきたいと考えています。
コミュニティの在り方を変えることも目標の一つです。和光市は地下鉄の始発駅もあり、通勤・通学の利便性が高いエリアです。近年では他地域から引っ越して来られる住民も増えていますが、後から移住された方々と、昔から住んでいる住民には交流する機会がほとんどありません。両者が心地よく住める新たなコミュニティを実現していきたいです。
また個人的には国際交流にも力を入れたいと考えています。現在、和光市は米国ワシントン州ロングビュー市と姉妹都市関係を結び、長年にわたり良好な関係を築いてきました。しかし、米国は渡航費が高いため、直接の相互交流が難しい状況です。韓国や中国などアジアの自治体関係者とも親交を深め、国際的なつながりをさらに増やしていきたいです。
PwCでは、多様な経験と人との出会いが待っています。私はPwCで、人生の宝となるような貴重な経験や出会いに恵まれました。これからプロフェッショナルファームを目指す皆様にも、一度全力で働いてみることをおすすめします。専門性を磨くだけでなく、一生付き合える仲間とのつながりを得ることができるでしょう。