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Brexit後における英EU将来関係取り決めの展望

2018-03-13

はじめに

英国とEUはBrexit後を見据えて、将来的に英EUパートナーシップを構築しようとしています。それは、1.貿易・経済協力、2.テロ・国際犯罪対策および3.安全保障・貿易・外交政策を対象としています。2と3の各分野については双方間で立場の相違点はほとんどありませんが、1の分野では双方の立場が著しく異なり、対立しています。
英国は、2019年3月29日にEUを正式離脱する予定ですが、それまでに主に貿易に関する英EU将来関係取り決めの予備協議が行われます。次いで、離脱の翌日(2019年3月30日)から2020年12月31日までに設定される予定の移行期間(約21カ月間)には将来関係取り決めについての本交渉が行われます。その結果については予断を許しませんが、英国とEU27カ国はそれぞれの国益を守りながら、双方にとって受け入れ可能で、Brexitのダメージを最小限にする合意に達することができるのでしょうか。

1.レッドライン‐英国対EU

まず、英国とEUが将来的経済関係の取り決めについて交渉する場合のスタートラインを確認しておきましょう。英国とEUは、Brexit後においても北アイルランド国境にハードな国境が出現することを回避する点では一致しています。しかし英国は、EUの単一市場と関税同盟から離脱して、EUとの間に独自の包括的で深化した自由貿易協定を締結することを目指しています。なぜならば、それが英国のBrexit交渉レッドライン(譲れない一線)に合致しているからです。英国のレッドラインは、第1にEU司法裁判所の管轄、第2に人の自由移動、および第3にEU財政への義務的分担をそれぞれ排除すること、また、第4に独自の通商政策を追求する自由を確保することです。それらを全て死守すると、EUとの共同歩調はとれないので、必然的に単一市場と関税同盟にはとどまることができません。レッドラインをめぐる英EUの対立点は図表1のとおりです。

【図表1】Brexit交渉における英EUレッドラインの比較(対立点)

英国側のレッドライン

EU側のレッドライン

1.EU司法裁判所の管轄の排除

2.人の自由移動の除外

3.EU財政への義務的分担の拒否

4.独自の通商政策を追求する自由

1.単一市場の一体性の維持

2.EU法秩序と政策決定の自律性の維持

3.英国に対して、EU離脱の結果としてEU加盟国より有利な条件を得ることがないようにすること(「いいとこ取り」不可)

4.競争、国家援助、税制、社会政策、環境基準などでの同一競争条件の確保、など

(出典:Joe Owen, Alex Stojanovic and Jill Rutter, “Trade after Brexit: Options for the UK's relationship with the EU”, Institute for Government, 2017に依拠して庄司克宏作成)

しかし、縛りの少ない自由貿易協定ならば、英国はEUと締結することが可能です。例えば、EUがカナダや韓国と締結した自由貿易協定などです。ただしそれに伴って、貿易障壁のレベルは高くなります。特に金融サービスをはじめとするサービス貿易は、自由貿易協定ではあまり発展していません。EUも、英国との協定におけるサービス貿易に他国との協定よりも有利な条件を与えるつもりはないようです。EU加盟国としての義務を果たさないで、そのような「いいとこ取り」を認めると、他のEU加盟国も英国と同じことを求めるようになるかもしれないからです。その点についてEUのバルニエ首席交渉官が図表2のように説明しています

【図表2】バルニエEU首席交渉官の英EU将来関係取り決め説明図

英国とEUの将来関係

(出典: European Commission, TF50 website on 19 December 2017)

2英国はなぜ「カナダ・プラス・プラス・プラス」を追求するのか?

英国は、いわゆるカナダ・モデル(EUカナダ包括的経済貿易協定:CETA)を基本にサービス貿易の自由化を上乗せした「カナダ・プラス・プラス・プラス」を目指しています。CETAは、工業製品の99%に関して関税を撤廃し、また、農業産品については鶏肉や鶏卵などを除き、90%を超える品目で関税を撤廃するものです。しかしサービスでは、CETAは一定のサービス市場を開放するにとどまります。特に金融サービスでは、英国にとって最も好ましい「単一パスポート制度」は含まれていません。

このようにCETAでは、英国側の前掲レッドラインのどれも超えていないのですが、その一方で金融サービスをはじめとするサービス分野で自由化の範囲が極めて限定されています。つまり、英国がEUとの交渉で目指している「カナダ・プラス・プラス・プラス」の「プラス・プラス・プラス」とは、その部分であることが分かります。

3.英国はどのように「カナダ・プラス・プラス・プラス」を達成しようとしているのか?‐3月2日メイ首相演説

3月2日の演説でメイ首相は、英国が関税同盟と単一市場から離脱すること、また、ノルウェー・モデル(欧州経済領域(EEA)を通じた単一市場への参加)やカナダ・モデル(前掲)を採用しないことをあらためて表明しました(図表2をもう一度ご覧下さい)。メイ首相が明らかにした英国の交渉プランは、「規制整合のための3層アプローチ」による「規制乖離の管理」と呼ばれるものです。すなわち、政策分野に応じて英国が、

  1. 離脱後もEUの規制に整合させる「中核層」
  2. 同一の規制目標をEUとは異なる手段で達成する相互承認アプローチを採用する「中間層」
  3. 規制の乖離を許容する「外縁層」

という3つのアプローチでEUの規制に対応することを意味します。

この3層アプローチは、メイ演説でどのように反映されているのでしょうか。
第1に「中核層」として、メイ首相は、化学、製薬、航空という3つの部門を例示し、英国は離脱後もEUの補助機関である欧州化学物質庁(ECHA)、欧州医薬品庁(EMA)、欧州航空安全機関(EASA)に準構成員(associate membership)としてとどまり、EUの規制に合わせ、その範囲ではEU司法裁判所の権限を尊重するとともに、財政分担も行うとしています。また、EUのエネルギー域内市場への参加も候補として挙げられています。これは、英国にとって都合のよい分野に限ってEUの規制を受け容れることを意味しており、「いいとこ取り」(cherry-picking)と言えます。
第2に「中間層」として相互承認アプローチを採用するとされているのが、工業製品基準、農産品基準、専門職資格、放送サービス、金融サービスなどです。とくに工業製品の規制基準については、「包括的な相互承認制度」が必要であるとされています。なお、ルールの相互承認制度はEUの単一市場で発展したアプローチであり、全ての加盟国の関連ルールを完全に統一する代わりに、EU司法裁判所の監督の下、安全、健康、環境など不可欠な限度で各国法を調和すること(不可欠調和)にとどめ、それ以外の部分は各国ルールを相互承認して受け容れるというものです。しかし、メイ首相が提案する英EU間の相互承認制度では、EU司法裁判所の管轄および不可欠調和は前提とされず、まったく分権的なシステムとなっています。
第3に「外縁層」として示されているのは、発展・成長著しいデジタル分野であり、英国は独自に対応するとしています。これも「いいとこ取り」と言えます。
このようなアプローチにより、メイ首相は英国のレッドラインを維持しつつ、単一市場と関税同盟に可能な限り近い形の「カナダ・プラス・プラス・プラス」を達成しようとしています。以上の点について、図表3をご覧下さい。

【図表3】メイ首相の交渉プラン‐「規制整合のための3層アプローチ」

図表3 メイ首相の交渉プラン‐「規制整合のための3層アプローチ」

作成:庄司 克宏

4.EUは英国とどのような貿易協定を結ぼうとしているのか?‐3月7日欧州理事会交渉指針案

EUは、メイ首相の「カナダ・プラス・プラス・プラス」を目指す3層アプローチに対して「まったくの幻想」であり、「いいとこ取り」にすぎないと批判し、否定的な反応を示しています。3月7日、EUは欧州理事会交渉指針案を公表しました。それは3月22~23日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)で採択される予定です。この交渉指針案でEUは、英EU経済関係の中核として自由貿易協定(FTA)を締結することに向けて交渉を開始する用意がある旨を表明しています。そのようなFTAにより、EUが英国に対してEU加盟と同一の恩恵を提供することはなく、英国が単一市場またはその一部に参加することは否定されています。では、EU側が想定するFTAとは、具体的にどのような内容のものなのでしょうか。

  1. 物品貿易については、全ての部門を対象に関税と数量制限を撤廃すること。原産地規則を伴う。
  2. 税関協力については、英EU間で規制面と司法面の自律性を維持すること。また、EU関税同盟の一体性を保全すること。
  3. 貿易の技術的障害(TBT)および衛生植物検疫措置(SPS)に関しては、任意の規制協力枠組みを導入すること。
  4. サービス貿易については、受入国(host state)ルールに基づきサービスを提供するための市場アクセスを認めることを目的とする。それには、サービス提供者の開業の権利に関するルールも含まれるが、英国が第三国となり、英EUが共通の規制、監督、遵守確保(enforcement)および司法の枠組みをもはや共有しないことに合致する範囲に限定される。他方で、自然人の移動に関する高水準の規定や、専門職資格の承認枠組みを含む。
  5. 他の貿易関連分野として、公共調達市場へのアクセス、投資、地理的表示を含む知的財産権の保護。また、航空運輸協定および航空安全協定の締結や、研究・技術革新、教育・文化などのEUプログラムに英国が第三国として参加すること。

以上の点を考慮すると、EUが想定する英国とのFTAは、ほぼカナダ・モデルを踏襲するものと言えます。すなわち、メイ首相の交渉目標はほとんど受け容れられていないことが分かります。

5.EUが「カナダ・プラス・プラス・プラス」に否定的な別の理由‐CETA最恵国待遇条項

EU側は、英国のレッドラインとは別の理由でも「プラス・プラス・プラス」の部分について難色を示しています。その理由とは、CETAに含まれている最恵国待遇条項です。その条項には、自由貿易協定の間で適用されるという特徴があります。
まず第1に、CETA第9.5条(越境サービス貿易)1項には、最恵国待遇条項として、次のように定められています。
「各当事者は、他方の当事者のサービス提供者及びサービスに対し、同様の状況において第三国のサービス提供者及びサービスに与える待遇よりも不利でない待遇を与える。」
第2に、CETA第13.7条(金融サービスの越境提供)4項には、以下のように定められています。
「第9.5条(越境サービス貿易:最恵国待遇)は、本章[金融サービス]に組み入れられ、及びその一部とされ、並びに他方の当事者の越境金融サービス提供者の待遇に適用される。」
第3に、CETA第13.4条(金融サービス)1項は、最恵国待遇に関して次のように定めています。
「第8.7条(最恵国待遇)は、本章[金融サービス]に組み入れられ及びその一部とされ、並びに他方の当事者の金融機関及び投資家並びに金融機関における投資財産の待遇に適用される。」
第4に、この規定に言及されている第8.7条(投資)1項では、最恵国待遇が次のように規定されています。
「各当事者は、自国領域における投資財産の設定、獲得、拡張、遂行、運用、管理、維持、使用、享有、及び、売却又は処分に関し、他方の当事者の投資家及び対象投資財産に対し、同様の状況において第三国の投資家及び投資財産に与える待遇よりも不利でない待遇を与える。」
以上の結果、CETAの投資の章および越境サービス貿易の章に置かれている最恵国待遇条項は、金融サービスの章にも適用されることが分かります。そのため、もしEUが英国との間で「カナダ・プラス・プラス・プラス」に合意すれば、それらは最恵国待遇条項により自動的にカナダにも適用されるわけです。EUは、カナダに無償でそのような贈りものを提供しなければなりません。これは、EUとしては是非とも避けたいところです。以上の点について、図表4をご覧下さい。
なお、同様の条項は、EU韓国自由貿易協定、EUヴェトナム自由貿易協定、日本EU経済連携協定にも含まれています。ただし、EUシンガポール自由貿易協定には規定されていません。

【図表4】EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)における最恵国待遇条項(金融を含む越境サービス貿易および投資)が意味すること

作成:庄司 克宏

6.最恵国待遇条項の適用除外の可能性

CETAの附属書IIに「欧州連合に適用可能な留保」が含まれています。そこには、以下のとおり、越境サービス貿易や投資の分野での最恵国待遇に対する留保が規定されています。

「EUは、以下の既存又は将来の二者間又は多数者間協定に従い、国に差別的な待遇を与えるいかなる措置も、これを採択し又は維持する権利を留保する。
(a)サービス及び投資における域内市場を創設するもの、
(b)開業の権利を付与するもの、又は、
(c)1又はそれ以上の経済部門における立法の接近を必要とするもの

サービス及び開業に関する域内市場とは、サービス、資本及び人の自由移動が確保される、内部に国境のない地域を意味する。
開業の権利とは、地域的経済統合協定の効力発生により当該協定の当事者間で開業に対するすべての障壁を実質的に撤廃する義務を意味する。開業の権利は、地域的経済統合協定の当事者の国民が、かかる開業が行われる国の法に国民のために規定されるのと同一の条件で企業を設立し及び経営する権利を含む。
立法の接近とは、以下のいずれかを意味する。
(a)地域的経済統合協定の1又はそれ以上の当事者の立法を、当該協定の他方の1又はそれ以上の当事者の立法に整合させること(alignment)
(b)地域的経済統合協定の1又はそれ以上の当事者の法に共通の立法を組み入れること
そのような整合又は組み入れは、地域的経済統合協定の1又はそれ以上の当事者の法に定められた時点にはじめて発生し、及び発生したものとみなされる。」
(以上の一般的適用除外に当たる既存の措置として、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインとの欧州経済領域(EEA)、西バルカン諸国との「安定化・連合協定」(SAA)、EUスイス2者間協定が挙げられています。)
もし英EU間の自由貿易協定が、上記の一般的適用除外の3つの場合の1つに該当すれば、「カナダ・プラス・プラス・プラス」であっても、CETAなどにある最恵国待遇条項は適用されないことになります。そのようなことは可能なのでしょうか。
第1の場合には、人の自由移動が含まれるため、英国のレッドラインを越えることになります。また、第2の場合には、「いいとこ取り」は許さないとするEU側の交渉方針に反するものとなる可能性があります。さらに、第3の場合のうち、「共通の立法」は、英国にとってEU法の優越やEU司法裁判所の管轄を受け入れることを意味するため、英国のレッドラインを越えてしまいます。
しかし、もう1つの「立法の整合」は、英国が越境サービスや投資に関する自国の立法を自発的にEUの立法に「整合させること」を意味します。この点に着目するならば、最恵国待遇条項の適用が除外される結果、英EU間でサービス分野の「カナダ・プラス・プラス・プラス」を達成するという展望が開ける可能性があります。ただし、あくまでEU側が英国による「立法の整合」を受け容れることが条件です。メイ首相の上記演説で示されている相互承認アプローチは「立法の整合」に近いものと言えますが、欧州理事会交渉指針案はそのようなアプローチを(間接的に)否定しています。そのため、最恵国待遇条項の適用除外は、英国にとって利用可能な選択肢ではないということです。

7.北アイルランド国境でのハードな国境の回避‐英EU将来関係取り決めへのインプリケーション

英国とEUは、北アイルランドにおいてハードな国境がBrexitの結果として出現することを回避する点では一致しています。一般に国境では、人に対する国境検問および物品に対する税関検査などが行われます。ハードな国境という表現は、主にこの2点を指しています。このうち前者については、英国とアイルランドの間における人の自由移動の枠組みである「共通往来地域」(the Common Travel Area)が存在し、これがBrexit後も維持されます。しかし、後者の物品貿易に関しては、英国がEUの関税同盟と単一市場から離脱する結果としてハードな国境が出現することになります。
そこで、離脱協定に関する基本合意をまとめた2017年12月8日付英EU共同レポートにおいて、北アイルランドでハードな国境の回避が不可能となるのを防ぐため、3つのオプションが英国から示されました。それは、第1にEUと英国の全体的関係を通じて問題を解決すること、第2に英国が特別な解決策を用意すること、および、第3に「[アイルランド]島全体の経済・・・を支える域内[単一]市場及び関税同盟のルールとの完全な整合性を維持する」ことです。第3のオプションは、英国(少なくとも北アイルランド)がEUの単一市場と関税同盟に事実上とどまることを意味します。
第3のオプションにある「完全な整合性」の維持は、「[アイルランド]島全体の経済・・・を支える域内[単一]市場及び関税同盟のルール」との整合性であり、物品貿易に限定していないようにも見えます。そう見ると、第3のオプションは、先述したCETAの最恵国待遇条項の適用除外にある「立法の整合」や「共通の立法」を連想させます。では、北アイルランドにハードな国境が再現されるのを回避する方策として、英国とEUはそれぞれ具体的にどのように考えているのでしょうか。
まず、3月2日のメイ首相演説では、第1と第2のオプションが想定されているように思われます。物品(工業製品)の貿易における「包括的な相互承認制度」、また、一定部門における英国によるEU規制の受容ととともに、税関取り決めとして「税関パートナーシップ」と「高度に簡素化された税関取り決め」が提案されています。「税関パートナーシップ」は、英国を経由してEUに向かう物品にEUと同じ関税率および原産地規則を適用するものであり、第1のオプションに該当します。また、「高度に簡素化された税関取り決め」には、行政手続きの簡略化、最新のハイテク技術の活用などにより貿易に対する「摩擦」を最小化することに加え、南北アイルランド間貿易の80%を占める中小貿易業者に対しては離脱前と同じ体制を維持することなどが含まれます。これは、第2のオプションを主として採用するものと言えます。このようにメイ提案では、「税関パートナーシップ」において「立法の整合」がなされますが、物品貿易のみが対象とされ、サービス貿易は含まれていません。そのため、越境サービス貿易や投資を対象とするCETAの最恵国待遇条項からの適用除外をもたらす「立法の整合」には該当しないことになります。
他方、EUは「共通規制領域」を提案しています。EUが2月28日に公表した離脱協定草案の北アイルランド議定書は、ハードな国境回避のための前掲第1および第2のオプションが達成されない場合に適用される第3のオプションに基づいています。「ルールの完全な整合性を維持する」ため、議定書が定めているのは、EU(アイルランドを含む)と北アイルランド(英国領)とにまたがる「共通規制領域」を確立することです。それは、「本議定書に従い、物の自由移動が確保され、かつ[アイルランドの]南北間協力が保護される内部に国境のない領域」として定義されています。そこでは、北アイルランドはEUの関税領域の一部とみなされるとともに、EUの単一市場および関税同盟と同様に、EUと北アイルランドの間では関税・課徴金、数量制限、「数量制限と同等の効果を有する措置」(非関税障壁)、差別的内国税が全て原則として禁止されます。これらの点を確保するため、EUと英国の税関当局が協力します。このように、EUの「共通規制領域」案はそのかぎりにおいて「共通の立法」に該当すると言えますが、越境サービス貿易や投資は含まれず、領域的にも英国全土ではなく北アイルランドにのみを対象とするため、CETAの最恵国待遇条項からの適用除外をもたらす「共通の立法」には該当しないことになります。
以上の点から、英国案もEU案も物品貿易のみを念頭に置いて、「[アイルランド]島全体の経済・・・を支える域内[単一]市場及び関税同盟のルールとの完全な整合性を維持する」ことを考えています。そのため、いずれの案もCETAの最恵国待遇条項の適用除外には該当しないことが分かります。

結語

メイ首相は、ルールの相互承認アプローチを基本とする包括的で深化した自由貿易協定、すなわち「カナダ・プラス・プラス・プラス」をめざす一方、EU側はあくまでカナダ・モデルに準じた自由貿易協定にとどめる意向を表明しています。
英国の交渉目標は、単一市場と関税同盟から離脱し、レッドラインを維持しながら、単一市場と関税同盟に近い恩恵を確保することにあります。しかし、単一市場と関税同盟は、EU司法裁判所の管轄、人の自由移動を含む単一市場の一体性、共通利益のためのEU財政分担、共通通商政策と不可分の関係にあるため、英国の交渉目標にはそもそも無理があり、それを隠蔽しながらEUと交渉するので相手にされないという状況を生み出しています。この閉塞状況を打開するためには、英国がレッドラインを薄める(緩和する)ことにより(すでにメイ提案にその兆候が見られる)、EUとの妥協を図るか(労働党が提案するEUとの関税同盟を含む)、あるいは、レッドラインを頑なに維持して、その論理的帰結である「ノー・ディール」(WTOモデル)に行き着くかのどちらしかないことになります。貿易をはじめとする英EU将来関係取り決めがどうなるかによって、ビジネス環境は大きく左右されます。今後のBrexit交渉からますます目が離せません。

庄司 克宏

庄司 克宏

PwC Japanグループ スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授ジャン・モネEU研究センター長

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