経営の新しい波

プロセスマイニングによるパラダイム変換

  • 2024-03-28

近年のデータ駆動型社会の進展に伴い、従来の財務情報中心の経営から、非財務情報を加えたさまざまなデータを活用する次世代型経営への転換が求められています。その中で、組織のビジネスプロセスやタスクの可視化・監視を可能にするプロセスインテリジェンスが存在感を高めています。

プロセスインテリジェンスは、従来のビジネスインテリジェンスの下位に位置するものから、ビジネスインテリジェンスと対等な存在になりつつあります。

これからの企業経営では、貸借対照表と損益計算書に加えて、ビジネスインテリジェンスとプロセスインテリジェンスを有機的に活用することが、財務情報と非財務情報の有効活用につながり、持続的競争優位の源泉であるオペレーショナル・エクセレンスを実現することになります。

本稿では、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを経営フレームワークに効果的に導入するためのポイントや、具体的な導入効果について解説します。

経営のパラダイムを変える:データドリブンの必要性

急速に進化する今日のビジネス環境において、組織はデジタル化とグローバリゼーションの変調に伴う多種多様なリクエストに対応するために、経営戦略を適応させ続ける必要がある。また、データ駆動型社会の到来が、誰の目にも明らかになってきた昨今、この変化の波は社会の構成員全てを巻き込もうとしている。このポールシフトともいえる大きな変化における重要な要素は、主に財務情報に依存する従来の経営手法から、財務情報と非財務情報の両方を活用して意思決定を行うデータドリブンアプローチへの移行である。

貸借対照表や損益計算書などの財務諸表(BS/PL)を中心とした従来の経営パラダイムでは、組織全体の健全性やパフォーマンスについて限られた視点しか得ることができない。これらの財務諸表は、組織の財務状況を理解する上で極めて重要であるが、競争優位をもたらす業務パフォーマンスや基礎的なプロセスの全容を把握できないという弱みを抱えている。

これは、複雑化する企業活動と進化しない経営パラダイムを表すネットミームの一種として、時にCEOの、時にCIOの嘆きというように主語を変えながら、「クラウドファーストではなく、自分たちがクラウドになってしまった」という内容で語られることが多い。

一方、新しいパラダイムであるデータドリブンアプローチにおいては、非財務情報を意思決定プロセスに取り入れることに大きな価値がある。業務やプロセス関連の指標を含む多様なデータを活用することで、組織は全体的なパフォーマンスや競争上の優位性に寄与する要因についてより深い洞察を獲得できるようになり、データに基づく最適な意思決定を行うことが可能となる。特に“クラウド”となりがちな、戦略や政策といった不確実性が高く抽象度が高い分野では、その効果の力強さは顕著に表れる。

データドリブンアプローチで獲得できるもの:ダイナミックケイパビリティ

ダイナミックケイパビリティは、リソース・ベースト・ビューを背景としてもち、かつ、リソース・ベースト・ビューで課題となる、優れた企業がその成功ゆえに陥ってしまうコアリジリティ(硬直性)や経路依存性の問題を乗り越えることができる能力である。この能力は、企業が技術・市場変化に対応するために、その資源の形成、再形成、配置、再配置を実現していく模倣不可能な能力を指している。

データドリブンアプローチは、このダイナミックケイパビリティを効率的に獲得していくための最初のステップとなり、組織が新しい感覚器官を獲得するための営みである。複雑でわかりにくい企業内の活動(よくガバナンスやアカウンタビリティ、透明性の有無という文脈で語られる)を、適切な粒度、カテゴリで整理することで、経営者は企業の実態を把握できるようになり、経営の視認性が向上する。

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの理解

プロセスインテリジェンス(PI)とビジネスインテリジェンス(BI)は、データドリブンアプローチのパラダイムにおいて不可欠なツールを指す概念である。プロセスインテリジェンスとは、組織内のビジネスプロセスを分析、評価、監視、最適化するために使用される手法とツールのことを指す。これは、イベントログやその他のデータソースから情報を抽出し、プロセスの流れを可視化・理解するプロセスマイニング技術によって実現される。プロセスインテリジェンスは、従来は、ビジネスインテリジェンスの下位に位置するもの、あるいは包含されるものという位置づけだったが、ビジネスインテリジェンスと対をなすものになりつつある。この変化は、社会のデジタル化により、取得できるデータの粒度・精度が向上したことによりもたらされたものである。

一方、ビジネスインテリジェンスは、ビジネス情報を分析・提示するための戦略、技術、実践を包含している。これには、データレイク、データウェアハウス、レポーティング、分析ツールなどが含まれ、組織がデータと情報に基づいた意思決定を行うことを支援する。

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスは、業務実績、顧客行動、市場動向に関する洞察を提供することで、組織の効果的な運営に貢献する。これらの洞察は、戦略的な意思決定、プロセス改善の推進、成長と革新の機会の特定という価値を提供する。

プロセスインテリジェンス、ビジネスインテリジェンス、財務諸表の新しい関係

プロセスインテリジェンス、ビジネスインテリジェンス、および財務諸表の関係は、組織の管理フレームワークにおけるそれぞれの役割を比較することによって理解することができる。財務諸表は、収益、費用、資産、キャッシュなどの指標に焦点を当て、組織の財政状態のスナップショットを提供する。
これらの指標は重要ではあるが、前述のように組織の業務パフォーマンスや成功を導く基礎的なプロセスの全体像を示すものではない。

一方、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスは、組織の全体的なパフォーマンスに寄与する要因についてさらなる洞察を提供することで、財務諸表を補完する働きをもつ。プロセスインテリジェンスは、プロセスマイニングツールを用いプロセスデータを分析することで、組織の業務におけるボトルネックや非効率性、改善の機会を特定する。同様に、ビジネスインテリジェンスツールは、企業が市場での地位、顧客の嗜好、および業界の動向をよりよく理解し、より多くの情報に基づいた戦略的意思決定を行うことを可能にする。

データ駆動型社会における新しいBSとPL

ビジネスインテリジェンスとプロセスインテリジェンスの関係は、財務諸表の貸借対照表と損益計算書の関係に例えられる。ビジネスインテリジェンス(BI)は貸借対照表(BS)と似た性格をもち、組織の健全性の包括的なビューを提供、プロセスインテリジェンス(PI)は損益計算書(PL)に似ており、時間の経過に伴う個々のプロセスのパフォーマンスに焦点を当てている。どちらも、十分な情報に基づいた意思決定と全体的なビジネスの成功に不可欠である。

図表 : プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの関係性

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを統合してオペレーショナル・エクセレンスを実現する

オペレーショナル・エクセレンスは、今日のダイナミックなビジネス環境において、持続可能な競争優位性と長期的な成功の重要な推進力となっている。オペレーショナル・エクセレンスを達成するためには、組織が継続的にプロセスを最適化し、非効率を削減し、意思決定能力を強化する必要がある。プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを組織のマネジメントフレームワークに統合することは、これらの目標を実現するための重要なステップだろう。

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを効果的に統合するために、組織はまず、財務情報および非財務情報の収集、保存、分析をサポートできる包括的なデータインフラを確立する必要がある。これには、データウェアハウス、データレイク、その他のデータストレージソリューションの導入や、高度な分析ツールやプラットフォームへの投資が必要になる場合がある。これはデータドリブンアプローチにおいては、データガバナンスと呼ばれる言葉で表される一連の態勢構築と運営活動が非常に重要であることを示している。

堅牢なデータインフラを整備したら、組織はデータ主導の意思決定を行う文化を醸成する必要がある。これには、プロセスインテリジェンスやビジネスインテリジェンスツールから生み出される洞察を理解し活用するために、組織のあらゆるレベルの従業員を訓練することが必要である。データドリブンアプローチの文化を醸成することで、組織は、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスからの洞察を、政策立案、戦略立案とプロセス改善イニシアチブに確実に統合することができる。

さらに、組織は、サイロ化の解消に向けて、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの利用・活用範囲を、チーム間、および組織内の他の機能領域との間に広げ、相互に明確なコミュニケーションラインを確立する必要がある。これにより、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスによって生み出された洞察が効果的に広まり、組織の意思決定プロセスに統合されるようになる。

そして、このコミュニケーションラインの確立にも、プロセスインテリジェンスは大きな効果を発揮する。現場の暗黙知という形でしか知りえなかった個別の活動に、補助線を引き、共通の土台でのコミュニケーションを可能にするためである。

新しい経営手法:データドリブンアプローチのメリットを実感する

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを経営フレームワークにうまく組み込んだ組織は、多くの具体的なメリットを実現することができる。これらの利点は以下のとおりである。

1.可視化により企業経営の透明性を高める
プロセスインテリジェンスツールが提供する可視化機能により、企業は業務プロセスを明確に理解することができるため、透明性を高め、継続的に改善する文化を醸成することができる。

2.業務効率の向上を実現する
プロセスデータを分析することで、企業は業務におけるボトルネック、冗長性、非効率性を特定し、これらの問題に対処するための目標プロセス改善イニシアチブを開発することができる。そして、この実現に向けては、以下の「3.サイロ化の排除と相互理解を促進する」で得られる効果が、力を発揮する。

3.サイロ化の排除と相互理解を促進する
データ化され視認性が上がった企業の業務プロセスは、エージェント・プリンシパル理論として知られる状況を緩和し、ホールディングスと事業会社、あるいはボードメンバーと各事業部門、または、異なる組織・部門間で、共通の土台に立脚した議論を可能とする。ケースによっては、株主と現場の相互理解さえ、可能になるかもしれない。このメリットは、ハイコンテクスト文化を背景に、高いすり合わせ力と組織的一体性を強みとする日本型の企業においては、ひときわ大きな恩恵をもたらすと考えられる。

4.意思決定能力を強化する
ジネスインテリジェンスとプロセスインテリジェンスから得られる知見を活用することで、企業は市場動向、顧客嗜好、資源配分など、戦略的な検討事項に関してより多くの情報に基づいた意思決定を行うことができる。これは、EBDM(EvidenceBased Decision Making)の実現に道を開くことになり、説明責任を高いレベルで果たすことができるようになる。

5.俊敏性と適応性を向上する
俊敏性と適応性を向上させることで、第2章で論述したダイナミックケイパビリティを実現する。ビジネスのモジュール化・疎結合化を実現すると言い換えることもできるだろう。これは、データドリブンアプローチにより、組織が、業務やパフォーマンスに関するリアルタイムな洞察を獲得することで、市場環境の変化、規制の変更、技術の進歩など、外部環境の変化に迅速に対応できるようになることを示唆している。

6.持続的な競争優位性を確立する
プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの統合によりオペレーショナル・エクセレンスを実現することで、組織は競合他社と差別化できる独自の能力とリソースを開発し、長期的な成功と価値創造を推進できる。

7.コンプライアンスを確保する
プロセスインテリジェンスは、プロセスの実行データを監視・分析することで、潜在的なコンプライアンス上の問題を特定し、その問題にプロアクティブに対処して規制遵守を維持することを可能にする。

8.モニタリングを最適化する
プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスツールを使用してビジネスプロセスを継続的に監視することで、組織は主要業績評価指標(KPI)に対するパフォーマンスを追跡し、必要な調整を加えて業務を最適化し、ビジネス全体の成功を促進することができる。

組織におけるプロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの導入

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを組織内に効果的に導入するためには、以下のステップを考慮する必要がある。

1.明確なビジョンと戦略を策定する
組織は、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを統合するための明確なビジョンと戦略を確立する必要があり、それは企業全体の目標や戦略的目標と一致させる必要がある。

2.必要なテクノロジーとインフラストラクチャに投資する
組織は、財務データおよび非財務データの収集、保存、分析、およびプロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスのツールの実装をサポートするために必要なテクノロジーとインフラストラクチャに投資する必要がある。第5章にて、これには投資を伴うこともあると述べたが、幸いにして、テクノロジーの進展は、この投資のハードルを低くする方向に作用している。特に生成AIをはじめとしたAI技術の進展は、非構造化データの活用に道を開いており、分析に利用できるデータの範囲を大きくした。

3.データ駆動型の文化を醸成する
組織は、プロセスインテリジェンスやビジネスインテリジェンスツールが生み出す洞察を理解し活用できるように従業員を教育することで、データ駆動型の意思決定文化を醸成する必要がある。

4.部門横断的なコラボレーションを確立する
洞察が効果的に普及し、意思決定プロセスに統合されるように、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスのチーム間、および組織内の他の機能領域との連携を奨励する。

5.成功を監視し、測定する
プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの取り組みの成功を追跡するためのKPIを設定し、業務パフォーマンスと戦略的意思決定への影響を継続的に監視する。この取り組みは、仕組み化をしながら、根気強く行う必要がある。

6.継続的な改良と最適化
組織が進化・成長するにつれて、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスのイニシアチブを継続的に改良・最適化し、組織の戦略目標との整合性を保ち、継続的な価値を提供することが不可欠となる。

これらのステップに従うことで、組織はプロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを効果的に経営フレームワークに統合し、データ駆動型経営アプローチによる多くのメリットを実現することができるようになる。

サクセスストーリー:プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの導入による成功イメージ

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを導入してオペレーショナル・エクセレンスを実現し、競争優位性を高めるサクセスストーリーイメージを以下に紹介する。

ケースイメージ1.M&Aの進化
複数の事業を束ねる企業において、それぞれの事業の実態を理解するのは容易ではない。従来の経営コックピットで閲覧できる財務情報に加え、プロセスマイニングツールを導入し、プロセスインテリジェンスを実現することで、企業内外の弱いつながり・強いつながりが明確化され、組織構造とは異なり、目に見えにくいソーシャルネットワークも踏まえた、組織の実態構造が見えるようになる。これにより、戦略的な視座に立った、より合理的で成功確率の高いM&Aが行えるようになる。

ケースイメージ2.銀行部門のリスクマネジメント効率化
大手多国籍銀行において、プロセスインテリジェンスを導入し、KYC(Know Your Customer)プロセスを改善。プロセスマイニング技術を活用することで、不必要な手作業、顧客登録の遅れ、データ収集の不一致など、KYCプロセスのボトルネックや非効率を特定。また、ビジネスインテリジェンスと連携して、KYCプロセスを合理化する機会効果を特定し、顧客のオンボーディングにかかる時間の大幅な短縮と規制要件の遵守の改善につながった。

ケースイメージ3.金融機関におけるカルチャー監査の実現
プログレスレポートで、事業戦略に対する監査と経営視点での助言を求められている金融機関において、より高い成熟度を達成するためにカルチャー監査を試行する場合に生成AI、プロセスマイニング、テキストマイニングなどのデジタルツールを駆使して、表面上は見えない組織の文化を可視化することができる。従来の質的研究の手法に加えて、これらの技術を組み合わせることで、特徴的な行動やメールのやり取りなどが示す傾向や意味を解析し、組織内のコミュニケーションパターンや意思決定プロセスを深く理解することが可能である。このアプローチにより、カルチャー監査の一環として、組織の健全性を測定し、示唆を導出。経営層に対して具体的な組織の特徴や傾向を報告し、これらに起因するリスクがあれば、その改善策を提案するための重要なデータと導かれる洞察を提供できる。

また、このアプローチは業務がひっ迫する執行側の負荷を新たに要求することを最小限にとどめられる点も利点として挙げられる。

ケースイメージ4.製造業におけるオペレーション改革
グローバルな製造業におけるケースでは、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを活用して、サプライチェーンオペレーションを最適化。複数のソースからデータを分析・可視化することで、在庫管理、生産計画、注文処理における非効率性を特定。これにより、サプライチェーンのプロセスを最適化するためのデータ駆動型の意思決定を行い、大幅なコスト削減、顧客満足度の向上、全体的な業務パフォーマンスの改善に寄与した。

ケースイメージ5.ヘルスケア分野におけるサービス向上
ある病院システムにおいて、患者ケアの向上と運営コストの削減を目的として、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスを導入。電子カルテのデータを分析することで、病院は患者ケアのパターンと傾向を特定し、リソース配分の最適化、待ち時間の短縮、患者全体の転帰を改善するためのデータ駆動型の意思決定を行えるようになった。さらに、ビジネスインテリジェンスとの組み合わせにより、患者ケアに関連するKPIを監視および追跡し、継続的な改善と戦略目標との整合性を確保した。

プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの今後の動向

ビジネス環境が進化し続ける中、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスに用いられるツールの機能も進化する。ここでは、これらのテクノロジーの開発と応用を形作ることになるいくつかの将来的な傾向を探索する。

1.AIと機械学習
プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスのプラットフォームにAIと機械学習アルゴリズムが統合されることで、組織はデータのパターンと傾向を自動的に識別し、将来の結果を予測し、より情報に基づいた意思決定を行うことが可能になる。

2.モノのインターネット(IoT)とエッジコンピューティング
IoT が成長し続けるにつれ、組織は接続されたデバイスから前例のない量のデータにアクセスできるようになる。5GEvolution、6Gというネットワークインフラの進化の恩恵とエッジコンピューティングというアーキテクチャにより、高速なネットワークの利用に加え、組織はこのデータをソースに近いところで処理できるようになり、レイテンシーを低減し、リアルタイム性とディテールを獲得する。これは、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの取り組みの効率と、デジタルツインでのシミュレーションの精度を向上させ、企業は「現在」と「未来」を入手できるようになる。

3.拡張現実と仮想現実(AR/VR)
プロセスインテリジェンスやビジネスインテリジェンスのツールとAR/VR技術を組み合わせることで、組織はデータやプロセスをより没入的かつインタラクティブな方法で可視化し、より深い洞察と意思決定の改善につなげることができる。メタバースといわれる概念は、エンターテイメントの文脈で語られることも多いが、企業のデジタル空間への進出など、今後デジタルの進展に伴い大いにかかわってくる可能性がある。

4.ブロックチェーンと分散型台帳技術(DLT)
さまざまな業界でブロックチェーンとDLTが採用されることで、組織はより高い透明性と安全性で取引やプロセスを追跡できるようになる。特にウォレットを中心としたブロックチェーン参加者の全てのアクティビティ情報を分析することにより、組織はより正確で信頼できるデータにアクセスして意思決定プロセスに品質の高い情報を提供できるようになる。インプットされるデータの品質の向上は、プロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスから得られるベネフィットを拡張させる。これには、パブリックブロックチェーンであるか、プライベートブロックチェーンであるかを選ばない。

将来を展望すると、新興テクノロジーの統合とプロセスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスの継続的な進化により、組織がオペレーショナル・エクセレンスと持続的な競争優位性を達成する機会がさらに増えることが予想される。企業の経営者、役員、監査役、さまざまな実務担当者、財務担当者、内部監査担当者、ならびにシステム担当者(特にデータサイエンティスト)は、これらの動向を常に把握し、経営戦略に積極的に取り入れることで、これからますますデータ主導となっていく世界で、組織の長期的な成功の確保に大きく貢献することができる。

【参考文献】

近藤裕司(2022)「プロセスマイニング 理解と実践─業務プロセス改革を進化させる最終手段」インプレス
松尾順(2021)「DXに必須 プロセスマイニング活用入門」白桃書房
ラース・ラインケマイヤー(2020)百瀬公朗訳「業務を根本から変革するプロセスマイニングの衝撃~シーメンスやBMW、Uberは、なぜ本気で取り組むのか?~」インプレス
野中郁次郎、竹内弘高(1996)梅本勝博訳「知識創造企業」東洋経済新報社
トーマス・H・ダベンポート、ジェーン・G・ハリス(2008)村井章子訳「分析力を武器とする企業」日経BP
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―プロセスマイニングによるパラダイム変換―経営の新しい波

執筆者

高木 和人

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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駒井 昌宏

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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今井 政行

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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吉澤 豪

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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挽田 健治

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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